ニュー・イクウィップメント!(New Equipment!)
邦題的には『新装備!』ってとこでしようか。
時間的には、ローリングサンダー(Rolling Thunder)よりも後の話。ローリングサンダー(Rolling Thunder) #2の続きでありません。
弟子のエリエルが、最近ちょくちょく猟人会に出向きそこの人間と模擬戦をやったり、路上で因縁付けられたり物取りや違法奴隷の仕入れ目的の人攫いに襲われたりで、魔術よりも刃物で直接斬り合う死闘を頻繁に経験しているらしい。
その状況に、師匠・千迅は気を良くし思った。(前にやった、魔術付与した白鞘の短刀は愛用してくれているようだし、そろそろ予備とか副になる新しい武器をプレゼントしてやろうか。刃物は使い熟しているようだから、今度は鈍器系か刺殺系にするか)
「なあ、エリよ」「はい、なんでしょうか、師匠」比良坂千迅はエリエルのことをエリと縮めて呼ぶようになっていた。つい先程までベッドの中で、師から弟子への房中術のレクチャーが行われており、今は終わって落ち着いた処である。
ベッドから出て簡単に身繕いするエリエルは、一先ず千迅のYシャツを借りてそれを素肌の上に纏った格好である。12歳の少女で、発育が悪く胸の膨らみも殆ど無いので、女性的な色香は薄いが、一部の趣味の人にはかなり扇情的に映る姿であった。
千迅は、ベッドに裸のまま寝転がりタバコを吹かしながら、エリエルの姿態を愛でて愉しんでいた。千迅の肌は、普段は血色が薄く青褪めて屍蝋めいた白さをしているが、今は房事で気を巡らせた直後なので、若干生気が増してほんのりとだが赤みがさしていた。
師匠と弟子の間に師弟愛以上の恋愛めいた感情がどの程度介在しているのかは不明だが、房中術の研鑽の為に睦まじく媾合える仲ではあるのだから、両者の間に多かれ少なかれ何らかの類の恋情は存在しているのは間違いないだろう。
「お前さんに、新装備のプレゼントだ」云うと千迅は、半身を起こし、何処からともなく──収納用の固有空間だが──長さ30センチ程の手に握るのに恰度良い太さの八角柱を取り出して、手に持っていた。掛け布団が捲れ、小振りだが形の良い乳房が顕である。
「うわぁ、新しい装備を頂けるんですか。嬉しいです」エリエルは千迅から八角柱を受け取る。それは金属製で頑丈そうだが、材質の割に軽かった。「えーと、携帯用の杖でしょうか?」見た目は携帯に適した魔術師の短杖……にしては作りが武骨だが。
「魔術実戦の補助媒体となる杖として当然使えるが、どっちかっていえば、棍として使って殴る系の武器だな。刃物で斬るよりも、打撃で砕きたい時とかあると便利だろ? 勿論、永続する魔術的な<聖別>と<付与>は掛けてある」
「対人戦で相手が大剣使ってる場合なんか、攻撃受けるには、白柄の短剣よりも、この棍の方が適してそうですね」「あの短剣も私が<聖別>と<付与>を掛けてるから折れないし、刃毀れ程度なら勝手に修復するが、質量を受ける用途に向いた得物ではないからな」
「えーと。じゃあ、これからは、右手にこの棍を持って防御、左手に短刀で攻撃とかの戦術も選択出来ますね」「普段は魔術士の携帯用の杖として扱っておいて、いざという時は棍として殴る、それだけでも奇襲になるし、戦術の幅は広がるけどな」
「有難う御座います。常に肌身離さず携帯して、大事に使います」エリエルは嬉しそうに短杖を胸の前で両手で抱いた。師匠からのプレゼントで無意識に心が躍った。「あーそれな、もう一つ説明しとくと、単なる棍って訳じゃなく、実は仕込みがしてある」
「仕込みですか?」「ああ、魔術的走査を行えば継ぎ目が判ると思うぞ。両端を握って左に廻してみるといい」「ハイ!」エリエルが千迅の言に従って走査を行うと、確かに1:2の長さで分断される仕様なのか継ぎ目がある。両端を持って左回転させてみる。
カチリ、という音と共に短杖は2分割された。長い方が鞘なのか、短い方の先には先端が鋭く尖った16、7センチの長さで三角錐形状の刃──刺刀、或いはこれを槍とするならば穂と称するべきか──が存在した。兎に角、用途はあからさまで、刺殺用の武器らしい。
「これは! 良く刺さりそうですね」「生身の人間の肉……鉄鎧くらいなら着込んでいてもブッサリと貫くだろうな。それ、穂先を外に向ければな、柄の握りの部分ともう片方が連結可能になってる。試してみてくれ。右に廻せば締まる」
「アッ、ハイ!」エリエルは穂先の柄を鞘に元とは逆の方向に連結する。そういう設計になので、両方は当然ズボリと旨く嵌まって接続される。連結を固定するのに右廻しに回転させる。ギリリリリ。ギリリリリ。ギリリリリ。耳に残る音響と共に3回転で固定は完了。
「おお、凄い! 手槍になりました。組み立て式というのは、これまた携帯に便利ですね」組み上がった手槍の長さは全長46、7センチといった処だろうか。使い勝手は良さそうである。エリエルは右手に持って振ってみて、軽くて扱い易く手に馴染むと思った。
「趣味で作ったワンオフ品の浪漫武器だがな。軽い超々ジュラルミンを素材にして、それに魔術的な強化処理を施してある。性能で比較すれば、この世界に存在する魔剣や妖剣の類に全く引けは取らない筈だ。有効活用してくれ」
「聞いたことのない材質名ですね。えっと有名なミスリルとかアダマン……なんでしたっけチウム? タイト? みたいな物なのでしょうかね?」「私の世界では普通に買えるアルミの合金だよ。こっちの世界でなら、かなり価値のある物質になるだろうけどね」
「まあ何といいますか、売り買いしたら凄く高価な値が付くのでしょうね、この武器」「魔術武器という時点で、この世界では高級品になるようだからな。売るなよ。売らないとは思うが」「当たり前じゃないですか。師匠から貰った物を売ったりしませんよ」
エリエルは少し拗ねたような表情で、手槍を抱きしめる。「そうだな」千迅は苦笑すると「じゃあ。そんなお前さんに、これもプレゼントしよう」乾いた血のような赤黒い色をした細長いボロ布を固有空間から取り出し、エリエルに渡した。
「……えっと、この襤褸……いえ、見窄らしい……いえ、薄汚い……いえ、熟成感を漂わす布は一体何でしょうか?」「別に無理して云い繕う必要はないぞ。それは、風化的表現を意識してるので見た目はアレにしてあるが、火浣布のマフラーだ。良い物だぞ」
「かかんぷ、ですか?」「火鼠という火山の中に棲む怪異の毛皮から作った布で、燃えない特徴を持つ。口元を覆うように首に捲いておけば、首元の防御力が上がる。火への耐性も上がる。又、毒霧なんかを吸い込んでも無効化してくれる。中々の優れものだろ?」
「おお、凄い魔法の布ですね。頂いても良いんですか!」「勿論。いいか、裾を棚引かせるように捲くように。ボロ布めいた長いマフラーを口元を隠すように捲いて、それを棚引かせながら行動する。どうだ、浪漫がある装いだろ?」
「……? そう、ですかね? わたしは未熟で、師匠と同じ境地に立ててはおりませんので、仰るその浪漫というのが良く理解出来ませんが……。でも、師匠からのプレゼントであれば悦んで愛用させて頂きます」エリエルは、嬉しそうに火浣布を首に巻いてみた。
こうしてエリエルの装備、出立は、千迅のお遊び的な趣味の色で染められて行くのであった。暗褐色の長袖長ズボンの戦闘服上下。砂漠迷彩のローブ。口元を覆う赤黒いボロ布めいたマフラー。本人は満更でもないが、中々に特徴的であり、目立つ格好といえた。
ニュー・イクウィップメント!(New Equipment!)終わり。