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ローリングサンダー(Rolling Thunder) #1

邦題は『轟く雷鳴』って感じでしょうか。

 下半身不随から復活し、体内に気を巡らせ身体を強化する方法を師匠から伝授されたエリエルは、その後、これを参考に新必殺技でも考案しろと、師匠のパソコンのハードディスク内にあった特撮ヒーローやロボット系アニメ等のダイジェスト動画を鑑賞させられた。

 お陰でエリエルにオタク系のマニアックな知識が増え、それは攻撃系の強力な魔術の開発に大きく貢献することになった。魔術は創造的クリエイティブ・想像力イマジネイション現実化リアライズすることにより発動するので、使用するには精細なイメージを浮かべる為の元ネタの選択も重要なのである。

 特撮やアニメの派手な戦闘シーンの動画は、ぶっちゃけた話、見れば見るほど攻撃魔術開発のヒントになる多種多彩なイメージの想起をスムーズにする手助けになるのだ。それに、この世界では未だ知られていない科学や物理の知識の基礎も併せて学習すれば……。

 こうして師匠・千迅の手により、エリエルは知識と技を授けられ、驚く程に短時間で促成され一流の魔術としての完成に至った。成長促進の賜物なれど、仮想世界で戦闘訓練を存分に積み、気を用いる身体強化の習得も鑑みれば、その実力は達人と呼ぶに充分である。



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 下半身不随から恢復した翌日、元気になった自分の姿を、怪我の治療経過を気にしているであろう、猟人会所属の猟兵ハンターであるドッジ、マッジ、サッジに見せようと、エリエルは猟人会の本部へと出掛けることにした。

 猟人会とは、本来の棲息域から外れ人の生息圏に侵攻しようとする害獣や怪異などの危険物を駆除して人々の安全を護ったり、逆に森林内を見廻り捕獲規制の掛かった保護すべき希少動物を狙う密猟者を撃退する、といったような活動を行っている団体組織である。

 とはいえ。口入れ屋的な側面も強く、人手不足に悩む企業から請負い種々雑多な雇用の紹介もしているので、猟人会に会員登録しているメンバー達は、臨時の工員や荷運び人夫といった日雇い仕事から、要人や商人の護衛といった期間仕事を紹介されることもある。

 要するに、猟人会自体は人材斡旋業者として民間から労働者派遣の依頼を受け、仲介手数料抜くことで、会員に斡旋している訳である。害獣駆除の仕事が常にあるでもなく、金に困る多くのハンター達は、本部の仕事紹介を活用して幾ばくかの日銭を稼ぐのである。



 儲かっていて資金があるのか猟人会本部は中々立派な建物である。そのロビーは、早朝は当日募集の日雇い仕事を探すメンバーで溢れ、夕方は日当の受取や、前以って募集の掛かる翌日以降の仕事を目当てに訪れるメンバーで、どちらもかなり混み合う状態になる。

 しかしエリエルが本部に到着した時刻は既に昼近くであり、この時間帯のロビーは非常に空いている。ロビーの隣は申し訳程度の間仕切りで区切られ、食堂兼酒場となっており、そこでは若干名が食事を摂ったり、昼間というのに酒を呑んだりしている。

 この時間に食堂で屯している連中というのは、今日は仕事にありつけず時間を持て余すが多少の持ち合わせはあるので呑んだくれているか、纏まった収入を得て暫く骨休めを決め込んで呑んだくれているか、大凡がその何方かの2種類に含まれる。

 エリエルは何となしに食堂の方に目を向けた。すると、その片隅の席に、先日一緒に飛翔鮫を討伐した3人組、ドッジ、マッジ、サッジの姿を運よく発見した。「良かった。皆さん、今日はこちらにいらっしゃったんですね」エリエルは食堂へと移動する。

「「「えっ?」」」その姿を確認した三人が間の抜けた声を上げる。「エリエル嬢ちゃん。歩けてるってことは、治ったのか?」マッジが驚きを隠さずに唖然と呟いた。「はい。お陰様で、元通りです」エリエルはニッコリと笑みで返す。

「あの状態から完全恢復するなんて」「凄ぇなぁ」「信じられんな」3人組は驚きの言葉を次々に口に出したが、暫くすると、エリエルの快気を我が事のように慶び、良かった良かったと皆で寿いだ。

「これは全快祝の宴をしないとな」それまでにも既に酒は入っていたが、ドッジがそういって祝杯用に追加の酒を頼む理由を作った。エリエルは、酒はちょっとと断ったが、取り敢えず果実水を頼んで酒宴に付き合うことにした。

 3人は、エリエルを宿に運び込んだ後の事を語った。どうやら昨日、飛翔鮫を殲滅した現場の検証に向かう猟人会の職員に同行を頼まれ、彼らは再び彼の森まで出向いたということだった。

 そして職員に怪異の残骸を確認させた。職員は、森の彼方此方に大量に転がる小型の飛翔鮫の屍体を見て「たった4人でよくこれだけの数を屠りましたね」と驚き、エリエルが爆発四散させた巨体飛翔鮫の血と肉片がバラ撒かれた有様を目にし、更に仰天したらしい。

 その後、本部に戻ってから、調査の依頼達成報酬に飛翔鮫の群を殲滅した分の特別手当が加算されて支払われることが決定した。更に、飛翔鮫の屍体は身肉は食料として、皮膚は鑢に、歯は鏃にと、素材としての価値が高く、その引取料金も支払われることになった。

 その報酬を受け取れるのが今日の昼の約束なので、3人は前祝いに一杯引っ掛けながら、食堂で時間を潰していたのだ。そして、午後には受け取った報酬のエリエルの取り分を宿屋に届けに行き、同時に見舞う予定を立てていた。まあ見舞いの必要はなくなったが。

 そうこうしている間に、事務系の職員らしき20代中盤くらいの年齢の男性が、中に硬貨が詰まっているのであろう布袋を持って食堂に顕れた。「お待たせしました」やはり職員は、ドッジ達へ報酬を渡しに来たのだった。

「おお、待ちかねたぞ」チームリーダーのドッジが代表で金を受け取った。「本来の依頼であった調査の分に、討伐の加算分、後素材の買い取り分、全部合わせて62万フォンとなりました。希望通り、大きいのだけでなく或る程度細かい硬貨を混ぜて用意しましたよ」

 袋の中身の内訳は、10万フォン金貨が4枚、1万フォン銀貨が15枚、5千フォン銀貨が14枚。10万フォン金貨が約20g、1万フォン銀貨が約10g、5千フォン銀貨が約8gなので、全部で300gちょいで大した重さではないが、額面的に持つとずっしり感がある。

「よし、嬢ちゃんが出向いてくれてるんだからとっとと分配するか」ドッジはその場で報酬を分けるつもりらしい。食堂で周囲の目がある中で報酬を受け取っているからか、大金所持を周知させることで余計なトラブルを惹き寄せる可能性等は全く考慮しないようだ。

「あの巨大なボス鮫を斃したのは嬢ちゃんだからな、全額の1/3が嬢ちゃんで、残りの2/3をオレ様たちで3等分ってことでどうだ?」ドッジにそう尋ねられたが、エリエルはそれを辞退した。「いえいえ、そんな滅相もない。わたしはそんなに貰えませんよ」

 無理いって臨時メンバーに加えて貰った分際ですから、というエリエルの主張で、結局報酬は綺麗に4等分することに落ち着いた。ドッジが机の上に、各人の取り前づつに分けて金貨銀貨を積み上げていった。

「報酬を4等分ということは、真逆そちらのお嬢さんが、あのデカ物に止めを刺した火焔魔術士“火葬炉インシェネレイター”氏なんですか?」硬貨を分ける4人の姿を眺めていた事務員が疑問を口にした。「おお、そうさ」肯定したのはドッジである。

「え? ちょ、ちょっと。何ですかそれ、その呼び方」事務員が日常で使われる共通コモン語ではなく、魔術の呪文等に使用される古語を態々用いて、Incineratorという妙な渾名めいた恥ずかしい響きの名称で自分を呼んだのでエリエルは慌てた。

「現場で四散した血と肉片を見た職員に、エリエル嬢ちゃんが鮫の腹の中に火球を大量に撃ち込んで内部から爆発させた、と説明したら、本部の職員達の間でその2つ名が誕生した」マッジが説明すると「ええ~っ!?」エリエルが嫌そうに呻いた。

「ははは。優秀な技能を持つメンバーに通り名が付くのは当然のことです」事務員が笑った。「優秀も何も、わたし、まだ先日に会員登録したばっかりの新人の小娘ですよ。通り名が付くとかおかしくないですか?」反論するエリエル。

「いやいや、達人が新規で登録してもその時点では新人ですから、最初から優秀な人間も一定数おりますよ。あっ、そうそう。序なのでお知らせですが、エリエルさんの等級は登録時は最下級の7級でしたが、飛翔鮫討伐の功績により先程昇級が決定し今は5級です」

「えっ!? 登録から一週間も経ってないのに昇級とか更におかしくないですか?」「いえいえ。能力の高い者はどんどん昇級させて、より難易度の高い死地に赴くような危険な依頼をバンバン請けて貰えるようにするのが、猟人会の方針ですので」

「死地に赴くような依頼は基本避けたいですが。……それにしても、新人が行き成り5級なんて」「その程度、普通ですよ普通。ここだけの話、一気に4級まで昇級でも良かったんですが、万年最底辺が定位置のクズ会員共が騒ぐ可能性を考えて5級で止めました」

「……はぁ。何か悪目立ちして妬まれたり絡まれたりしそうで憂鬱ですね」「まあ余程のことがない限り大丈夫かと。何せエリエルさんの“火葬炉”の通り名は、昨日の夕方には職員だけでなく、その時に居合わせた会員の皆さんにも告知して充分に広めましたので」

「……勝手に広めるのはどうかと」「自分の力を過信した余程の莫迦でもない限り“火葬炉”に絡むような命知らずな真似は控えるでしょうから。あっ、そうそう。それに、2階級特進はそうも珍しいことではないですから。それ程、目立つこともないと思いますよ」

「ううっ、何かわたし、危険物みたいな扱いですか、酷いです。……ああ、でも2階級特進が珍しくないのは助かりますね」「依頼遂行中に死亡したら、殉職扱いで2階級特進しますからね。それは結構よく生じるケースです。殉職絡まずはレアケースですが」

「やっぱり目立つじゃないですか!」「なあに。絡んでくるような莫迦は実力でねじ伏せて頂いて構いませんので。もし不当な攻撃を受けた場合は護身の為に殺しても構いません。猟人会メンバー同士の揉め事であれば、こちらで旨く処理しますので罪に問われません」

「はぁ。殺伐としたアドバイス有難う御座います。自分の身の安全は、自分で護れるように心掛けて生活します」エリエルは何ともいえぬ溜息を一つ吐いた。因みに猟人会メンバーには実績での7級から1級の等級分けがあり、7級が最下級で1級が最上級の扱いである。

ローリングサンダー(Rolling Thunder) #2へ続く

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