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ザ・スキーム(The Scheme) #2(end)

ザ・スキーム(The Scheme)#2

「ドーモ、振る舞い酒に惹かれて本日はお招きに預かりました」シモーネ公爵の使者来訪から3日後の夜、比良坂千迅は舐めた挨拶でシモーネ公爵邸を訪問した。門閥貴族の屋敷だけあって、立派な門構えで当然庭付きである。家屋も瀟洒で豪華だ。

 英国仕立ての男物デザインの黒背広に黒いロングコートという値の張る普段着姿で屋敷を訪れた千迅を、1人の初老の執事と6人の若いメイドが出迎えた。メイドは勿論、紺色の地味なロングスカート姿の家政婦である。メイドの一人に千迅はコートを預ける。

 千迅は邸内の応接室に案内された。金の掛かった家具調度品が並ぶ部屋である。一般の平民ならば幾らするのか想像もつかない室内の豪華な備品の存在に圧倒されるのだろうが、千迅は別段気後れ一つなく、執事の進める席の高級椅子に腰を下ろす。

 千迅の黒背広は老舗の有名店にてオーダーメードで仕立てさせた高級な一品なので、周囲の家具調度品と較べても決して見劣りはない。更に千迅自身が、長身痩躯で血の気の薄い青褪めた死者めいた美貌の優女である為、この部屋に座っているだけで絵になる。

 身分の高い人は遅れて登場するらしくホストであるシモーネ公爵はまだ部屋に顕れない。千迅は暇つぶしがてら室内を見廻した。壁には絵画掛り、宝剣が飾られている。四隅にはテーブルが設置され、その上に青銅製の裸婦の半身像が佇立している。

 半身の裸婦像から千迅に不快を感じさせる魔力が立ち昇っていた。どうも裸婦像は魔術道具であり、4体で囲んだ内側──つまりはこの部屋内での魔術施行を妨害する効果を持つ一種の結界を構築しているようである。千迅クラスには大した抑止力にはならないが。

「お待たせしたね、異界の魔術士殿」暫くしてシモーネ公爵が入室してくる。その後ろには、シモーネ公爵の子飼いの騎士らしい帯剣した中年男性2人が付き従っている。恐らくは護衛なのだろう。この国では、金と地位があれば私的な騎士団を設立可能なのだ。

 千迅の対面の上座にあたる場所に座ったシモーネ公爵はジロジロと値踏みするように千迅を睨め付けた。かおを、胸元を興味深く眺める。「ほう。魔術士長殿の説明通り、実に整った美貌を持つ女性だ。しかし、胸がもっと大きければと考えると、そこが残念だな」

 勝手な評価を口にするシモーネ公爵に、千迅は特に憤るでもなく「乳房は大きさよりも形が大事ではないかな。そこは個人の趣味と嗜好にも因るが、私は大き過ぎるのは単に下品と感じてしまう」口元に他人を小バカにするような薄笑いを浮かべ、そう反論する。

 貴族に向かって対等な口調で話す千迅に対して、シモーネ公爵ではなく寧ろ後ろに立つ騎士たちの方が表情を強張らせた。公爵自身は、平民向けの低俗な娼館を何度も利用したことがあるので、口調に関してはそう気にしていないようだ。

「ふむ。一理ある高説だな。バストが豊満な女性は、往々にして付く必要のないあらゆる箇所にまで余分が付くからな」シモーネ公爵は実体験を振り返り納得して微苦笑を浮かべる。「面白い意見だ。ドーモ、私がこの屋敷の主にして公爵のインモール=シモーネだ」

「ドーモ。魔術士の比良坂です。お招きに預かり参じました」「良く参られたなヒラサカ殿。歓迎する。……しかし惜しい。出来ればドレス姿を拝見したかったが。……そうだ、もし宜しければ、こちらでドレスを用意するので今から着替えては如何か?」

 生粋の女好きであるシモーネ公爵は、千迅の身体を舐めるように見ながら提案した。「生憎と女物の服を着る趣味はないですな。女の身体はとても気に入っていますがね」千迅は軽く肩を竦める。「化粧もしないのかね?」「ええ。肌に異物を塗るのは気色が悪い」

「……何とも。女性としての華やぎに欠けることだ」「それもまた趣味の方向性の喰い違いですね。痩身女性の男装姿は萌える。スカートよりもパンツ・スタイルの方が、尻から脚のラインがくっきり見えて美しいでしょう」千迅の言葉はフェチシズムに満ちている。

「興味深い意見だが。……何というか、男女で交わす会話ではないな……どうも予想外……新鮮ではあるが」これまでの自分を前にした女性たちとは違い、千迅はこちらの気を惹くような嬌態や色香を全く示さないので、シモーネ公爵はどうも調子が狂うな、と戸惑う。

 そうなのだ。これまでシモーネ公爵が狙った数多の女性は皆、屋敷に招待し、こうしてテーブルを挟んで座り笑みを向ければ、うっとりと見惚れ、こちらに熱い視線を投げ返し、何とか自分を魅了して気に入られようと、あからさまな媚態を露骨に晒したのだった。

「沈思中の相手を急かすようで申し訳ないけれど……。私は酒を目当てに出向いたんですが、準備はどうなってるんですかね?」招待の真の用件は仕事の依頼かも知れないが、としてもその内容に関して千迅は別段大して興味がなかった。今一番の期待は酒であった。

「ん? ……ああ、酒、酒な。今用意させる」シモーネ公爵は、高貴な家柄で且つ美丈夫な自分を前にして、媚びず、世辞の一つもいわず、敬意を払うでもない千迅に対し、奇妙な女だと評価を下した。護衛騎士たちは千迅の不遜な態度に表情を険しくしている。


 メイドが、酒の瓶とグラス、水のピッチャー、氷を山と積み上げたアイスペールをワゴンで運んでくる。氷は魔術により精製されたもので、濁りなく透き通っていて、見るからに高級品である。酒はジャガイモを主原料とした蒸留酒で、美しい琥珀色をしていた。

「市井には滅多と出廻らん高級酒だ。庶民ではとても呑むこと叶わぬだろうな。度数が高いが、かなり美味だ。味わってくれたまえ」シモーネ公爵が進めると、メイドがグラスに氷と酒を注ぎ、千迅に恭しく差し出す。その後にチェイサーが続く。

 千迅はグラスを手に取ると、その香りを嗅いだ。その匂いの中に微かに漂う、酒本来のものとは異なる雑味めいた不純物の存在を、酒好き故の直感で敏感に嗅ぎ取った。こっそり魔術的 走査(スキャン)を行こなうと、酒に微量の薬物が混入されているのを確信した。

(私を毒殺する気なのか?)そう思って更に詳しく魔術的鑑定を試してみる。するとその正体は【催淫剤】と出た。どうも、毒物ではなく媚薬を盛ってあるようだ。(コレはアレか、女を口説き堕す時用の酒なのか? 目薬入れた酒を呑ませる的な手段の類似か?)

 千迅は僅かに口元に苦笑を浮かべる。成分にクロルフェニラミンマレイン酸塩が含まれる目薬をアルコールに入れると酔いの廻りが早くなるので、酒場で女性を口説く時に役立つ、或いは実際にそれで行き摺りの女を堕した、という都市伝説めいた逸話を思い出した。

(無駄な真似を)半分くらいは生きた人間を已めている千迅は毒物耐性が高く、媚薬だけでなく大抵の毒物を摂取しても身体に何の悪影響も生じないことから、気にせずにその酒を口に含んだ。(若干、薬物臭いが……それでも中々に旨い酒だ)

 味を気に入った千迅は、メイドに空になったグラスを差し出して次を要求することを繰り返し、瞬く間に3杯を呑み干した。「決して弱い酒ではないのに、凄い呑みっぷりだな」シモーネ公爵が慄き呆れる。「酒は尊いエネルギー源なのでね」平然と千迅。

「……そ、そうか。時に、ヒラサカ殿よ。君を私の側室に加えてやっても良いと考えているのだが、どうかね?」媚薬入りの酒が対象にそろそろ廻ってきたか、という頃合いを測ってシモーネ公爵が切り出した。

 美形の千迅を側室として迎え囲いたい、というのは籠絡の為の建前ではなく、これは本心である。女好きなシモーネ公爵は、見目麗しい女性は全て自分の物にしたい、という天晴な欲望を隠すことなく、常にハーレム願望を実現させる為に努力を欠かさないのである。

 シモーネ公爵は内心、上級貴族の公爵様が側室として娶ってやろうと誘って断るような女性が存在する筈がない、と高を括っていた。それも伯爵家当主の側室である。大凡の身分の者にとって身に余る高条件である。しかし、その驕りはバッサリ却下されるのだが。

「全力でお断りする」千迅は一考する素振りも見せずあっさりと即断である。「……なん、だと!?」打診ではなく決定事項のつもりで通達した提案を、媚薬を呑ませる小細工まで弄して真逆断られるとは毛頭考えていなかったシモーネ公爵は驚愕を浮かべる。

「おいっ。下司の分際で何を勘違いしている! シモーネ公爵様はお前に是非を問うていらっしゃるのではない。お命じになられておるのだ。そこに拒否権などない。ハイ、と従わんか。この愚か者めがっ!」その状況に、護衛騎士の一人が千迅に喰って掛かった。

 騎士は、千迅の胸ぐらを掴まんとして憤怒の表情で前に踏み出した。「部外者が余計な口を挟んでくれるな。見た目通りの年月しか生きていない若輩が」千迅は煩そうに呟くと、指をパチン、と鳴らした。一瞬後、その騎士は昏倒し床に倒れた。

「……な、何をした?」シモーネ公爵が取り乱す。「突っ掛かられては鬱陶しいので眠って貰ったんですよ」平然と千迅が答える。「……バ、バカな。睡眠魔術か。この魔術封じが施された室内でどうやって?」シモーネ公爵は驚愕する。

「睡眠魔術ではなく、酸素濃度が薄い空気を吸わせただけですよ。それに、この部屋にある魔術阻害の仕掛けは、魔術を完全に禁じる程の強力な物ではない。この程度の妨害器ジャマーでは、上級の術者に対しては、大した妨げにならんですな」

「そうなのか。我が父自慢の装置だったのだが。……は。は。た、助かったよ。ヒラサカ殿のお陰で応接室の改善点が浮き彫りにされた。感謝せんとな。いや、その騎士については済まなかったな。何せ考えなしに動く血の気が多い奴で」

 シモーネ公爵は執事とメイドに、意識のない騎士を別室へ移動させるように命じた。「さてヒラサカ殿。この私の側室にという話を断られるとは夢にも考えてなかったが、それは婚姻するなら飽く迄も正室でなければ、ということかな?」

「いや、側室正室関係なく、インモール家……でしたかな? と婚姻を結ぶ気が単純に全くないというだけの話ですね」千迅は何杯目かの酒をチビチビと舐めながら薄く笑った。「……な。由緒正しい高貴な血統と爵位を持つこの私との婚姻に興味を持てぬ、と?」

「その通りですね。……そういえば──これは独言ですので聞き流して貰えれば。この旧弊的な世界での婚姻は、家と家との結びつきを強化する為の手段と位置付けられているんでしたな。貴族の娘は自分の意思で番う相手を選ぶことも叶わぬ不自由さだとか」

 何処か忌々し気な雰囲気で呟く千迅。己が弟子である12歳の少女エリエルが、有力者との縁結びしか考えぬ父親に政略結婚の道具として扱われることが嫌で家を捨てた過去話を反芻して、少し胸糞が悪くなったのだ。正直、押し付けの婚姻なんて碌なものじゃない。

「貴族の血統も爵位も興味がないですな。シモーネ公爵、私には別に貴方と懇意な関係を結ぶ必要性は特に無いのです。この場には酒への興味で足を運ばせて貰っただけ。何か仕事の依頼でもあるなら話は聞きますが、妾になんて要求には応じる気はありませんね」

 流石は異世界からの稀人というべきか。一般の貴族や市井の徒とは余りにかけ離れた返答を返す千迅に、シモーネ公爵はカルチャーショックめいた衝撃を受けて固まった。同時に、美丈夫な己に靡く素振りも見せない女性がこの世に存在することにも驚愕する。

「……は、は、は。真逆この私が本気で欲しいと口説いているのに、それを一蹴されるとは信じ難い現実だよ。……いや、まあよい。堕ちない女が存在するのは腹立たしくはあるが、それは何れ時間で解決しようじゃないか。今日のところは贈り物だけ渡しておこう」

 シモーネ公爵は千迅に、絢爛な細工が施された白木の小箱を差し出した。千迅は別段嬉しくもなさそうにそれを受け取った。「開けてみるが良い」シモーネ公爵が命じる。千迅は箱から漏れる質の悪い魔力を感じ取って、中身は呪われ系の品と看破する。

 果たして箱の中身は、高そうな小粒の宝石で修飾を施された金の腕輪だった。単純に材料から判断して値の張る装飾品であることは間違いないだろう。問題は施されている魔術付与エンチャントである。千迅は魔術的鑑定でその正体が【支配の腕輪】であることを知る。

「どうだい。素晴らしい腕輪だろ。どれ、私が腕に嵌めて進ぜよう」シモーネ公爵は右手に腕輪を持つと、もう片方で千迅の左腕を取ろうとする。が、千迅はその手を優雅に払う。「生憎と、呪いの品を装着するような酔狂な趣味は持ち合わせておりませんのでね」

 千迅は他人を小バカにするようなニヤニヤ笑いを浮かべると、シモーネ公爵の手から腕輪を掠め取った。「尤も、物自体は高く売れそうですから、有難く頂戴しますよ」「……な!」企みが筒抜けである事態に、シモーネ公爵は言葉を失い青褪めた。

「因みに、これは手ずから装着させた相手を意のままに自由に従えることが可能となる【支配の腕輪】という品ですか」千迅は指先に腕輪を引っ掛けくるりと一回転させる。「そ、そこまで気付かれていたか」シモーネ公爵は悔しげに呟いた。

「他人に強制的に隷属させられるなんて真っ平御免ですな。さて。そこで確認です。私の支配を目論んだ、その理由は何かとお訊きしたい。もしや、女を口説くのに失敗した時に褥に無理矢理連れ込む奥の手として、何時も周到にこいつを用意しているのですかな?」

「失礼な。女を口説くのに失敗したことなど、これまでに一度も……」嘲るような千迅の視線に晒されて、シモーネ公爵は怒声を上げた。が、直ぐに現実を見詰め消沈した。「いや、君を堕とせなかったな。それに、腕輪のその利用の方法も確かに想定にあった……」

 別に媾合まぐわいのみが狙いで千迅に【支配の腕輪】を用いようと考えた訳ではなかったが、その後に褥に連れ込む予定があったのも事実なので、シモーネ公爵は千迅の嘲謔めいた言葉を肯定した。本来の目的は千迅を奴婢とする為、と吐露するよりは穏便な理由だろう。

 そして病的な女好きであり、同じ穴のムジナ故に同類を見抜く千迅は、シモーネ公爵にも同レベルの多淫の質の潜在を察知し、その為だけに用意されたのではないにしろ、【支配の腕輪】に期待されている役目の何割かが、ナンパ時の最終兵器だと確信していた。

 無論、千迅を隷属させようとしたシモーネ公爵の目的が交接だけで終わる筈はない。しかし実際、その部分にかなり重点が置かれていたであろうことも確かである。因って敵意や殺意を向けた相手は躊躇なく断罪する主義だったが、今回は穏便で済ませる気になる。

 それはシモーネ公爵が、殺られる前に殺る必要がある程の脅威ではないと判断したからである。尤もかといって、酒に媚薬を盛り、呪われ系のアイテムで己の支配を企んだ厄害を、そのまま無条件に許す程も千迅は慈悲深くない。

「さて、伯爵様。贈呈品と詐称して私に妙な腕輪を嵌めようとしたことには、少なからず立腹ではあります。しかし、狙った女を是が非でも手中に収めようと貪欲に金に糸目を付けず奥の手を用意する。その清々しいまでの一途な欲望への忠実さには感服です」

 褒めているのか貶しているのか今ひとつ微妙な千迅の言葉を聞くと、シモーネ公爵は何故か褒め言葉と受け取って胸を張った。「このインモール=シモーネ、女遊びに関しては常に全力であり、金も努力も惜しまんのが自慢だ」

 シモーネ公爵の非倫理的な部分は、身分や財力を振り翳し欲しければ他人の女でも無理矢理に奪うことだが、それは、自分の女を護り通すだけの力と執着がなかった男の方にも少なからず責任があると千迅は判断する。野蛮な理屈だが、世の中は弱肉強食なのである。

 千迅は、元の世界に残している愛妻である吟弥おとねと一緒になる時、それを快く思わず邪魔立てしようとする連中を全て叩きのめして屍山を築いた経験がある。誰かに惚れたらその相手を、悪鬼羅刹や神仏の類からでも護り通す覚悟と、その為の力が絶対に必要なのだ。

 かなり強引な理屈ではあるが、千迅が持論を曲げることはない。当然、シモーネ公爵の道徳観を咎めることなどしない。寧ろその全力の淫蕩振りに共感すらも憶える。一応断っておけば、千迅自身は他人の女を、口説くことはあっても、力尽くで奪う趣味はない。

「それは何とも清爽ですね。ではシモーネ公爵。今回の底企みを弾劾しようとは考えませんが、代わりに一つ、私との房事での勝負を所望したいですな」ニタニタ挑発の笑みを浮かべる千迅。「房事での勝負とは一体何か?」興味を感じたシモーネ公爵が詳しく尋ねる。

「房事の言葉通りSEXでの勝負。勿論、愛の無いSEXですが……。ルールは簡単。閨房で交接し先に精魂尽きた方が負け、耐えた方が勝ち。それだけですよ。私が負けたらこの身を妾でも奴隷でも、お望み通りにどうぞ。私が勝てば、貴方の精気を悉く吸い尽くします」

 千迅の生来の性別は男であり、女の身体を手に入れている今現在でも性的指向は女性に向けられているが、かといって相手の精気や生気、陽気を喰らう食事的な意味合いでの男性との媾合には、全く躊躇はなかった。

 只の人間では有り得ない長い年月を生きている千迅は、既に完全な人間ではなく半人半(ゆうれい)というあやふやな存在と成り果てている。因みに“鬼”とは、中国の古典志怪小説に登場するあのゆうれいであり、日本人の思い浮かべる鬼とは異なる怪異である。

 仙術も嗜み食物を必要とせず生きて不老すらも得ている千迅であるが、反面、命の糧として滋養強壮に房中術を介して定期的に他者から精気や生気を奪わねばならない制約も付き纏う。それは女同士での媾合でも解消されるが、男性と交接した方が摂取効率は高い。

「ほう。それは面白い提案だな。受けようではないか。この“絶倫”の二つ名を持つ私に無謀に挑んだことを後悔させてくれよう」千迅の挑戦に、シモーネ公爵はやたら乗り気であった。

 一人残っている護衛騎士は苦い顔をしていたが、何も具申しなかった。下手な真似をして、得体の知れぬ魔術士に先刻の意識を一瞬で刈り取られた相棒のような目に遭わされたくはなかった。そもそもシモーネ公爵がヤル気満々なのだから、と沈黙を貫く。



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 ──翌朝。シモーネ公爵家の奉公人や護衛騎士たちや家族は、起床して朝食の席に付いたインモールの姿を目にして驚愕した。頭髪の全てが色を無くて真っ白くなり、肌はタルミ、シワが浮き、一夜にして30歳程も一気に老け込んでしまっていたからだ。

 それまで御年27歳の美丈夫であったインモール=シモーネの外貌は、恐るべし60歳の老人然にと変わり果てていた。その原因が、千迅との房事勝負の敗北にあることは間違いなかった。これに端を発し、貴族たちは異世界の魔術士と迂闊に関わる危険性を学習した。

 そして同時に、この魔術士を野放しにしておくのは如何なものかと危惧的意見が増える。為政者たちの間にジワジワと、隷属、或いは従属させることが不可能であれば、早めに始末してしまうべきでなのでは、という潮流が生じることになる。

 ザ・スキーム(The Scheme)終わり。

 6月は何とか3回更新。

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