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Sorcer Striker / 邦題『妖術発散者』 作者:7C
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コール・フロム・ビヨンド(Call From Beyond) #1

 邦題なら『彼方からの呼声』か?
 コール・フロム・ビヨンドはリメイクしました。名前はドリフ的に。
 世界各地から収集され、ケネルコフ王国の城の書庫に大量に保管されている古文書の中から、『異世界より甚大なる力ある者の招集』なる奥義書が発見される。その内容は、正にタイトル通りだった。
 ケネルコフの王は、以前より腐心していた国防の為の軍事力拡大を狙えるならと、異世界人を招集する、その召喚儀式を執り行うように宮廷魔術士の長イカーリアに命じた。

 それから3年が経過して待ち侘びた星辰の位置が定まり、異世界人の招集が可能な時宜が訪れる。儀式は宮廷魔術士長イカーリアとその4人の高弟に因って荘厳に執り行われ、結果、異世界から1人の若い女性が喚び出された。
 175センチはある長身痩躯。廿はたちくらいに見える長い黒髪と黒い瞳の美しい女性だが、血色がやたらと悪くてどうにも屍人めいていた。黒背広に黒いロングコート。黒い手袋を履いている。男装の優女やさおんなという雰囲気である。
 魔術士長イカーリアは招集した異世界人に用心しながら接近した。その1メートルほど手前まで進む。警備の目的でこの魔術儀式用神殿テンプルに詰めている若い騎士──男性2名女性2名の構成──4人が、イカーリアの護衛の為にその左右を固めた。
 イカーリアはローブのフードを初顔合わせの礼儀とばかり脱いだ。禿頭の頭と、初老の渋く整った男の顔が顕になる。「ドーモ。よくお出で下さった」日本人染みた丁重な挨拶で奥ゆかしく会釈した。
 纏っている高級な生地のロープ。豪華な装飾品。見事な細工の施された魔術士の杖。高級な装いはイカーリアの身分の高さを顕している。高貴さに相応しい礼儀作法は身についている。王に謁見する機会も多いのだから当然であるが。
「ドーモ。魔法で招集されるのは初めての体験ですよ。それも喚び出される先が異世界とは。私も見た目よりずっと長く生きてますが、こんな珍しい経験は実に新鮮だ。興味で、ついこちらに出向いてしまいましたよ」
 女性はニヤニヤ、他人を小バカにするような薄笑いを浮かべていた。どうやら、招集されたことに対する驚きや戸惑いはないらしい。寧ろ、判っていて自らイカーリア達の施した召喚魔術に飛び込んだような、そんな様子ですらある。
 因みに、両者の言葉には魔術的自動翻訳効果が働いている。なので、取得言語が異なる者同士ででも普通に会話が成立する──正確には意思疎通が可能というべきだが──ようになっている。魔術は便利であり、生活を豊かにする。
「ワシは、この国ケネルコフの城に勤める宮廷魔術士の長でイカーリアと申す者。貴殿のお名前を窺いたいが宜しいか?」イカーリアは慇懃に尋ねた。
 女性も慇懃に返した。「これは丁寧に。私は比良坂ひらさか千迅ちはやです。アナタ方からしたら異世界の魔術士になりますね。位階は大達人アデプタス・メジャーの<風>魔術士です。今後のアナタ方の出方次第では、敵になるかも知れませんが」
 女性──比良坂千迅の“敵になるかも知れませんが”の発言で、場がざわめいた。殊にイカーリアの護衛の任を請け負っている騎士たちの反応が如実だった。剣の柄に手をかけて、何時でも抜ける状態に構える。
「まあ落ち着きなさい。お前たち」だが、その一気に緊迫した空気をイカーリアが解きほぐした。彼自身は非常に落ち着いていた。「ヒラサカ殿が敵に廻るような事態はない。いや、なりたくても敵になれないのだよ」愚者を見下すような目の色で千迅を睥睨した。
「ほう。それはどういう意味ですかな?」千迅はタバコを咥えると、念動発火で火を着ける。「理由をお訊きしたいものですね」フーッ、とイカーリアに向けて紫煙を吹きかけた。慇懃な口調とは裏腹に、挑発的に見える態度で。
「ごほっ」呼出煙に咽るイカーリア。「ぶ、無礼な。煙をこちらに吹き掛けるでない」怒りを露わにするが、直ぐに気を取り直し勝ち誇るようにニヤリと嗤う。「まあ、よい。質問に答えよう。召喚儀式には、招集対象に服従を強制する術式が組み込んであるのだ」
 その言葉で、イカーリアの警護を担当する騎士たちの間に少し余裕の雰囲気が生まれる。「流石だ。手抜かりはなしだな」騎士の一人が呟いた。4人の高弟たちは無言だが、その事実を最初から知っていたので、当然だ、というように頷いていた。
「要するに貴殿は、ワシやここにいる者たち命令に逆らえないのだよ」イカーリアはお悔やみの言葉のように告げる。顔は完全に嘲笑っていたが。「魂に刻まれた制約の楔でな。拘束されているのだよ、貴殿は。勝手に敵対や叛逆ができないように」
「ああ、それね。首輪があるから大丈夫と過信して、だから尊大な態度を執っている、と。そういうことですか」千迅も相変わらずニヤニヤと薄笑いを浮かべている。イカーリヤに再度、呼出煙を吹き掛けると、「悪いなぁ。既に解除済みだよ、それ!」
「……な」目を大きく見開くイカーリア。「私も支配魔法コンマジには詳しい方でな。暗号化は無しで簡単にソースは見れるし、プロテクトがザルのあの程度の単純な術式、解呪ディスペルなんぞ、一瞬だったよ」千迅は茶目っ気混じりにネタをバラした。


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 ──時間は少し前になる。

 自室で比良坂千迅は、友人であるオカルト雑誌の編集長・高柳から、知る人ぞ知る魔術士(故)フランツ・バードンの残したドイツ語魔術論文の日本語翻訳を依頼され、その作業に没頭していた。有償にての受注であるから当然のように〆切もある。
 事務机の上には、若干型式が古いノートパソコンが置かれている。ノートパソコンの液晶モニタを覗けば、軽めのLinuxOS上でワープロソフトが走っているのが見える。
「ん?」魔術士の第6感に障る魔術的干渉を感じて、千迅は微妙に眉を顰めた。そのかんばせは整っているが、あり得ない程に血の気が薄い。肌はまるで屍蝋のように白い。「呪詛……魘魅かな? まあ、他人に怨まれる心当たりは多分にあるが……」
 千迅は首を傾げ少し考える。「呪詛とは何か違うな。ああこれは召喚術、それも喚起魔術エヴォケーションの対象の捜索か。この世の術式とは違う気配。施術者は異世界の人間っぽいな」そこで嬉しそうな表情になる。
「成る程。成る程。多次元宇宙に平行世界。存在は確信していたが、真逆、最初の接触(ファーストコンタクト)が、向こう側からの招待だとは予想外だな。滅多とないレアケースには違いないが。興味深いなぁ」千迅はこれはどう対応しようか、と思案顔になる。
 リクライニング機能と肘掛けの付いた、社長室に相応しいような高級オフィス用事務椅子に腰掛けた千迅は、右手の指先で眼前の事務机の上をコツコツコツと叩きながら「うーむ」と唸る。
「折角、喚ばれているのだから招待を受けるのは当然として。しかしここを留守にする訳にはいかない。……となると、この身が2つ必要だな」独り頷きながら、千迅はワープロソフト上のテキストの現状保存を実行する。
「消耗を考えると多用は難しいが……一体くらいなら分身ドッペルゲンガーを生じさせることくらいはできる。今回はこれに頼るか」千迅の用いる分身生起の秘術は、仙道系東洋魔術に於ける内丹術の陽神──気を錬って創る質量を持つ分身──に類似する。
「そういう流れで、そっちに全部丸投げしちゃっても構わないかい?」椅子に腰掛けた千迅が、机を挟んで自分の前に新たに出現したもう一人の自分に尋ねた。それは勿論、分身である。両方共、まったく同じ顔、同じ身体つきをしている。
 ただ違うのは、事務椅子に座った千迅は黒いYシャツ姿だが、もう一人は外出用の装いとして、黒い背広の上に黒いロングコートを羽織り、黒い革手袋を嵌めている。闇夜の如き全てを漆黒で統一した装いで身を覆っていた。
「いいよ。引き受けよう。観光旅行気分でな」コートを羽織った千迅が応えた。「助かるよ。ああ、この召喚術、招集対象に強制服従を付随する効果が組み込んであるみたいで煩わしいだろうから、こっちで解除はしておくよ」Yシャツ姿の千迅はウインクした。
「頼むよ。訪問先でどんな歓迎が待っているか不安だからな。こっちは用心の為に体力や精神力は温存しておきたい。それじゃあな」そういい残すと、コート姿の千迅は、異世界の召喚術に呑み込まれるように、光りに包まれてその姿を消したのだった。


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 ──そして今に戻る。

「そういう訳だから、私はオタクさんらの都合の良いように使われる気は毛頭ない。ただまぁ、召喚なんぞを試みるくらいだから、何か異世界人に頼み事でもあるのだろうとは察する。内容と報酬金額にもよるが、仕事としてなら受けるのは吝かではない」
 タバコをくゆらせながら千迅がそう宣言すると、場が一気に剣呑な雰囲気に変じる。「制御魔術が解呪されるなどと……」イカーリアは信じられないという表情である。魔術の業前に自信を持つ、イカーリア配下の4人の高弟も同じような驚きぶりであった。
 4人の騎士たちは、再び剣の柄に手をかけて、何時でも抜き放てる格好になった。とはいえ、騎士道に居合い等の抜刀と同時に相手を斬れる剣術はないので、本気で戦える状態で待機するなら予め剣は抜いておくべきだが、実戦経験の乏しい若者故に未熟で対処が甘いのだ。
(何この人たち? あんな魔術の新参入者ニオファイトが実技の学習課題で組んでみましたみたいな術式解除しただけで、こんなに顔色変える。ここファンタジーっぽい世界な気がするけど、魔術の研究は大して進んでないのか?)
 顔に出さず、千迅は訝しく思っていた。(この調子では、ヤバい物を喚び出した時に備えて強制的に元の世界に退去させる召還術も前以って準備してないんだろうな。命知らずというか、遣ることが迂闊過ぎて突っ込む気にもなれん)
 千迅の心中を知る訳もないイカーリアは、額に緊張で汗を浮かべながら「流石に異世界の魔術士ヒラサカ殿ですな。達人の業前、感服致しました。先刻はあわよくば使役しようなぞと考えおりましたこと、お詫び致そう」体裁を繕うように軽く頭を下げた。
「しかし金額次第ではこちらにご尽力頂けるとのこと、それは間違い御座いませんかな?」「私は相談屋の真似事を営んでいるのでね。銭になるのなら、話は承るよ。それには先ず、喚び出された分の手間賃として出張費を支払って貰わねばならないが」
 イカーリアの質問に千迅は肯定的な意を示すものの、そこからは、金が絡まねば決して動かず友好的な対応もしないぞ、という俗物っぽい吝嗇さが強く滲み出ていた。だが、行動理念が判りやすく、コイツは金を払えば信用できると他人に感じさせる振る舞いではある。
「おお、それは。金で友好的な関係が買えるのは判り易くて有り難い。出張費ですかな、法外な金額でなければ、ワシの裁量で直ぐにでもお支払致そう」イカーリアも発言も大概現金だが、千迅には面倒な口跡を使われるよりも、ストレートな表現の方が好意が持てた。
 しかし、騎士たちはそれをよく思わなかった。イカーリアたち魔術士は、千迅の得体の知れない魔術士としての実力を恐れて警戒していたが、基本的な身体強化の魔術くらいしか使えない魔術的素人の騎士たちは、千迅を軽く考えていたのだ。
 更にいえば、騎士と千迅、現在彼我の距離は1メートル程度しか開いていない。この距離で魔術士と剣士がやりあえば、どう考えても剣士が有利。魔術士が何某かの攻撃を試みるにしても、呪文詠唱の隙を与えず軽く斬り殺せる、と騎士たちは見縊っているのだ。
「お待ち下さい、魔術士長イカーリア殿。異世界人の招集は王命。ならば、コヤツもそれに従うのが道理、無理にでも従わせるべきでは御座いませんか? 支配魔術は功を奏さなかったようですが、ならば力尽くで我々に平伏させれば良いだけの話でしょうに?」
 最年長の男性騎士──といって23歳だが──アーライが、そう不満を口にした。それを聞いたイカーリアの顔色がやや蒼褪める。「何をいっておるのか、貴殿は! 展開的に金で丸く収まりそうな状態で、何故事態を引っ掻き廻すような真似をする」
「異世界人など何処の馬の骨とも知れん未開の地の蛮人。こんな俗物が高貴な身分とは思えず、どうせ下賤な平民でしょう。ならば従わせて当然。そもそも、王命は招集後に懐柔せよ、ではなく、服従させよ、だったではありませぬか」
「バカ者めが……。力尽くとか到底無理と思うからワシは無難に下手に出るのを選択したのだ。余計な口を挟んで、それを台無しにしおって」憤るイカーリア。相変わらず歯に衣着せぬ物いいであるが。その様子に(この魔術士長、面白いな)千迅はそんなことを思った。
(何というか、王の家臣で身分は高いのだろうが、腹芸が苦手そうだな。魔術研究に没頭していれば幸せみたいな、コミュ障を患ってそうなタイプだな。どうも親近感が湧くなぁ)微苦笑して千迅はイカーリアに助け舟を出すことに決めた。
「まあまあ、魔術士長殿。私は、エキシビションマッチ的な余興を愉しむのは嫌いではない。アホな騎士たちが力尽くで私を服従させたいなら、挑戦権を下賜してやるから死ぬつもりで掛かってくればいい。魔術士長殿との商談はその後にでもゆっくりと」
 千迅が提案すると、イカーリアと4人の高弟魔術士たちがホッ、とした表情になる。「どう転んでもこっちに被害が及ばぬのなら問題は無い。蛮勇なる騎士の諸君、好きにしたまえ。ただ、ワシも弟子達も手は貸さんからそのつもりで」
 イカーリアはそれだけいい残して、戦いに巻き込まれないように距離をとる。とっとと壁際まで撤退するイカーリアに、4人の高弟たちも続いた。残されたのは千迅と4人の騎士たち。イカーリアたちの見事な保身っぷりに、千迅は微苦笑を浮かべてしまった。
「ちっ! 腰抜けの魔術士どもめ」最年長の騎士──アーライが舌打ちをする。「カタギはオレに付き合え。他2人は、一応は護衛の任務中だからな、魔術士長殿の警護につけ」この面子の騎士たちのリーダー格であるアーライは、そう指示を飛ばすと剣を抜いた。
「付き合いましょう、喜んで」もう一人の歳若い19歳の男性騎士カタギがそれに応じて、アーライの隣に立ち剣を抜いた。他の女性騎士2名は、イカーリアの元へと向かった。この状況で必要か否かは兎も角、護衛の任務を果たす為に。
 騎士二人に剣先を向けられても殊に千迅は慌てなかった。「君ら2人だけでいいのか? 4人で来るのか、と思っていたが。まあいい。さて、この世界は文明レベルが余り高くさなそうだが、コイツはご存知かな?」
 一体何処から何時の間に取り出したのか、千迅の右手には小型のリボルバー拳銃が握られていた。S&Wモデル351PD、それは5.56mm径の.22マグナム弾を最大で7発装填発射出来る凶器だ。現状況では暴発防止に弾丸は6発しか装填されていないが。
 銃の所有が厳しく制限されている日本で、ヤクザガンとして比較的入手し易いトカレフやマカロフでなく、かなり入手困難レアなS&Wモデル351PDを愛銃としているのは、端に千迅の趣味である。
「フンッ。クロスボウか? 武器に頼るとは、異世界の魔術士は矜持がないのだな」S&W351PDを見たアーライが、鼻で笑った。この世界の魔術士は魔術だけで戦うのを好み、サブ武器として飛び道具を使うような者は嘲笑の的にされた。
「クロスボウという認識か。飛び道具ってのは間違ってないんだが、やはりこの世界には銃器は存在しないのか。マスケット銃すらも知らなさそうな反応だし。文化レベルは産業革命よりもずっと以前のレベルか?」
 独り呟いて思考を整理する千迅。「何をブツブツいっている。殺しはせんが、腕の一本くらいは貰う。行くぞ!」自らに身体強化を施したアーライが、剣を上段に構えて千迅に突進した。痛めつけて服従させる予定なのだ。
 千迅は襲い掛かって来るアーライに向かって、咥えていた短くなったタバコを吹き矢めいてプッ、と飛ばした。同時に呪文無詠唱で<風>魔術を軽く発動。魔術の補助を得た火の着いたタバコは矢のように飛んで、狙い違わず眼球に命中した。
「グアッ!」目に入った異物感に思わず瞼を閉じるアーライ。一瞬遅れて激痛が走った。眼球に刺さったタバコで視界の半分が塞がれ、更に蹌踉めいて攻撃対象を見失ったアーライ。その脚元を、千迅は軽く引っ掛けて転ばしてやる。アーライが惨めに大の字に地に伏した。
「な、アーライ!」同僚の剣技の力量を信用して暫く様子見を決め込んでいたカタギが驚いて声を上げる。「クソッ。よくも」そして中段に構えた剣で、千迅に突きを決めようとした。カタギも既に身体強化はかけ終わっていたので、その攻撃には自信があった。
 しかし。Bang! 標的に正確に狙いを定めることもなく、銃口が適当な方向に向いたままで、千迅はS&W351PDの引き金を一回引いた。銃弾は当然、真正面に向けて突き進む。そこにカタギの姿はなかった。
 普通ならば外れる運命の弾丸は、だが、唐突に獲物めがけて物理法則無視に急角度で曲がった。その0コンマ2秒後、カタギの頭部は真横から撃ち抜かれることとなる。その一発で、一瞬にして惨殺は完結した。断末魔の悲鳴もなしで。
 死の詳細は、.22マグナム弾が側頭部に対して垂直角度で外耳孔の位置からピンポイントで頭蓋内に突入、骨に邪魔されることなく、運動エネルギーを脳の内部に撒き散らし脳幹を完全に破壊したことに尽きる。
 脳内を貫通した弾丸は、内部に留まることなく反対側の外耳孔から突き抜けた。その際に血が飛び散った。髪の毛の粘着した肉片や骨片も飛び散った。ピンクの脳片も飛び散った。カタギの身体はそのまま倒れ伏した。ゆっくりと、石床に血溜まりが広がっていく。
「う、う、うっ」カタギの命運が尽きた頃、アーライが呻き声を上げながら身を起こし始めた。恰度、千迅に無防備に背を晒す形で。(さて、既に無力化しているようなものだが、コイツはどうするか?)千迅は思案する。始末するか、それとも見逃すか。
(慈悲をかけるか? 否、最初の印象付けが肝心。舐められたら後々面倒だからな。武器を向けたら容赦なく殺す。これを徹底しよう)Bang! 千迅はS&W351PDの引き金を再び引いた。相変わらず狙いは大雑把である。だが弾丸は正確に延髄に命中。アーライは絶命。
「先に注意するのを忘れたが、この銃は魔術的な<聖別>を施してある魔術武器でね。放たれるのは追尾式の<風>の魔弾だ。敵の気配を察知して引き金を引けば防がれた時以外は勝手に必中する。凄いだろ?
 それに単なる物理的な弾丸と違い、魔術攻撃と同じくで、実体を持たない霊体的な存在だって殺せる。精霊だって然り。勿論、人間だって効率的に殺せる。今回は剣先を向けられたからね、遠慮なく反撃させて貰ったよ」
 容赦無用の正当防衛を主張する千迅。今2人の男性騎士に訪れた死は、自業自得の顛末であり、因果応報というべき結果である。この魔術士は江戸時代に産まれたのだ。物騒な時世を経験している。生きた歳月の中で、何人も殺しているので今更殺人に忌避感はない。
「さて」千迅は壁際で怯えている若い女性騎士2人に視線を向けた。騎士とはいえ、戦場の経験はなし人を殺した経験なしでは、無残な人死を間近に見た動揺の強さは、一般人とさして変わらないのだろう。「君たちはどうする?」
 千迅の問い掛けに女性騎士2人は小刻みに震えながら両者とも首を横に振った。敵意も戦意もないという意思表示らしい。千迅は頷くと「なら、余興は終わりだな」若干疲れた声で呟いた。
「ふむ。魔術で<聖別>した飛び道具を使うのか。いやいや、敵対せんで良かったわ。したら死んでいたな」壁際でイカーリアがのんびりと囁いた。流石にこのくらい老獪な魔術士であると、肝が太く目の前で人が死んだくらいでは大した動揺は感じないのだろう。
「ふふ。大物だな、魔術士長殿は。さて、商談をしたいが、ここではちょっとな。もっと落ち着いた場所はないかな? 出来れば呑み物──度数の高いアルコールを所望したい──で喉を潤しながら話の出来る場所は?」
「ふむ。それではワシの執務室でどうかな。酒もあるが」「それは良いな。お邪魔しよう」「では、ついて来て貰えるか」背を見せて魔術儀式用の神殿を出るイカーリア。その背後を、千迅は素直に追い掛けた。
コール・フロム・ビヨンド#2へと続く。
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