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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第八章 未来は僕らの手の中
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第七十五話

 



 カメラ代わりの精霊から送られてくる映像を通じて、ペロリはじっとルナとレオを見守っていたよ。

 二人はちゃんとやれるのか。心配でたまらなかったから。

 みんながご飯を食べに席を離れる中、クロちゃんはペロリに付き合って隣にいてくれる。けど日頃の疲れが出たのか、すっかり眠っちゃってる。

 居間のテレビからは、狼奥さんに案内されたお部屋に入るレオとルナの姿がある。


『ペロちゃんのドレス、だいじょうぶ?』

『あ、いっけね』


 ルナに言われてレオが急いでカバンを床に置いて中を確認した。


『だいじょぶ。ぬれてない』

『よかったあ』

『ルナの魔法のおかげかも』

『ふふー』


 自慢げに笑うルナだけど、すぐに浮かない顔になった。

 落ち着かない顔で周囲を見渡してから、俯く。

 ルナの様子に気づいたレオがすかさず、かばんを閉じてルナに駆け寄った。


『どうしたの?』

『……レオ、すごいね。ルナは怖くてたまらないよ』

『なにが怖いの? お化け?』

『い、いないもん、そんなの。そうじゃなくて、ぜんぜん知らない人に話して……』

『あー』


 なるほど、とレオが頷いた。ルナの不安の正体に気づいたんだ。ルナはとびきり人見知りだから、名前も知らない人の家に泊まるのがおっかないんだ。


『だいじょぶ。ママがよくいうの』

『クラママが? ……なんて?』

『ほんとにわるいやつは、めをみればわかるって』

『……ほんと?』

『ほんとほんと。でっかい葡萄畑を運営してるここのじっちゃんとおねーさんは、目が綺麗だった。だからだいじょーぶ』

『……ん』


 俯くルナの手を握って、レオが笑う。

 きらきらって輝きが見える純粋な笑顔。あれを見ると、ついついペロリはなんでも許しちゃう。クラお姉ちゃんも同じみたい。

 ほんとにお兄ちゃんによく似てる。似てるだけじゃない。お兄ちゃんならどこかできちんと疑うから、あそこまできらきらに笑う相手は限られてる。

 けどレオは違う。子供だからなのか、それともレオ自身の性質がそうなのか。もっと純粋にいろんな人に向ける。だからまわりも受け入れちゃう。

 たらしの才能が、とかコハナお姉ちゃんが腹に一物抱えた笑顔で唸ってるのを聞いたことがある。コハナお姉ちゃんもお兄ちゃんと結婚してからはこじらせぶりが一区切りついたけど、それでもレオには特段警戒してるように見える。

 しょうがないかも。


『レオのこと、しんじる』


 あのルナが落ちてるもん。


『じゃあねよ。ご飯ももらったし、お風呂いれてくれたし。明日はお手伝いしてほしーって言ってた。朝早いかも』

『……ん』


 ベッドに行こうとしたレオの手を、ルナがまだぎゅっと握ってた。


『どしたの?』

『ママいないから……ひとりじゃ、寝れない』

『いっしょに寝る?』

『……ん』


 かあいい……!


『いーよー』


 にこっと笑うレオがルナを引っ張ってベッドに入った。

 いくらどこまですけべでもレオはやっぱり子供だから、変な心配はいらない。

 あとはもう二人が眠って朝になるだけだ。

 一息ついたと思って身体の力を抜いた時でした。カートを押す音が聞こえてふり返るとね。


「お二人はどうですか?」


 コハナお姉ちゃんがペロリたちのご飯を持ってきてくれたところだった。


「いま寝たとこ。二人仲良く同じベッドの中だよ」

「なるほど……」


 なんでだろ。複雑そうな顔してる。


「どうかしたの?」

「……いえ。勇者さまの生まれ変わりのようにそっくりに育っているあの子が選ぶのが、クルルさまにとてもよく似たルナさまなのが、ちょっと」

「あー」


 それはクルお姉ちゃん以外のみんなが思っているけど言葉に出さない思いそのものだった。

 結局お兄ちゃんにとって、みんなすごく大事。だけど、みんなのなかでも特別大事にしてるのがクルお姉ちゃん。

 それは揺るぎない事実だった。

 愛情に差を感じたことはないよ。みんなそれぞれにじんとくる熱量で愛してくれてる。不満をもってる仲間は一人もいない。

 みんな、もう家族そのものだから。

 けど、それでも。

 お兄ちゃんが心の一番弱いところをカバーするのは、だいたいクルお姉ちゃんの役割だ。


「まあ。でも。レオはお兄ちゃんじゃないし、ルナはクルお姉ちゃんじゃないよ?」

「……コハナにも子供ができれば変わるんですかねえ」


 憂鬱そうに言いながら、テーブルに食器を並べてくれる。


「がんばってるなら、いずれできるんじゃない?」

「授かり物とはいいますが、苦戦中です。ペロリさまはいかがですか?」

「目指せハネムーンベイビー」


 笑って答えた時だった。


「ん、んんぁ……飯か?」

「そうだよ、起きて」


 スープの匂いに眠そうに目を開けたクロちゃんを揺り起こして、テーブルに移動する。

 コハナお姉ちゃんの料理はどんどん美味しくなるばかりだ。

 食堂からレストランになって支店を次々出している『勇者の胃袋』料理長のグスタフさんのお手伝いをする傍ら、グスタフさんが定期的に開くお料理教室にも足繁く通っている。

 おかげで領主の館のご飯はいつでもとびきり美味しい。

 眠ってたクロちゃんも水を飲んでから、口元の涎を拭っていそいそと食事を始めるくらいだ。


「クロちゃんは、お兄ちゃんとくっつかないの?」

「食事の席でやめてくれ」

「ぶうううう!」

「ペロリ。それ子供が真似するからやめろっていつも言ってるだろ」


 怒られちゃった。


「先日、勇者さまが魔界訪問にお誘いしたようですよ。その後はデートしてくるんですよね? 二泊三日で」

「げほっ、げほっ……こ、コハナ!」

「鈴を置いておきますので、食べ終わったらお呼び下さいね」


 にこーっと笑顔で言うだけ言って、コハナお姉ちゃんは行っちゃった。

 ペロリはにやにや笑顔でクロちゃんを見る。

 赤面しながら「早く食え、冷めちゃうだろ」と言うクロちゃんににやにやしながら食事を取った。

 クルお姉ちゃん、クラお姉ちゃん。ルカお姉ちゃんにナコお姉ちゃん、コハナお姉ちゃん。

 そしてペロリとクロちゃん。

 お兄ちゃんが選んだ七人。子供を入れたらもっともっとすごい大家族だ。

 これからきっとぜったい、子供ができてもっと増えるに違いないよ。

 一つ一つを大事にしていけたらいいなあ。

 明日、素敵な笑顔で帰ってきて欲しい。レオ、ルナ。ペロリ待ってるからね?




 つづく。

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