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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第八章 未来は僕らの手の中
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第七十二話

 



 ルカお姉ちゃんの普段のお洋服みたい。ビスチェにスカートがついていて、羽根がいくつもついた不思議なデザインのお洋服を着たルナはさながら朝みる子供向けアニメのヒロインのようだった。

 てれてれしているルナを見たレオが口を開く。

 思わずローブの中で手を握りしめるペロリ。そして、にやにやするクロちゃん。

 はたしてレオが口にした言葉はなにか。


「……おれのことぶっとばすの?」


 怯えながら言うことじゃないよ!

 ほら、ルナがくっときてるよ! ペロリたちもそろって腰砕けそうになったよ!


「うそ。すげえかあいいじゃん」

「……ありがと」


 最初にそう言えばいいのに、と少し澄ました顔で言うルナを見てペロリは唸りそうになった。

 もしかして冗談で緊張をほどいてから褒めたの? そういう手を意図せず使っているのなら……お兄ちゃんの影響をきちんと受けているなあって感じだけど。

 将来が心配になるね。思わず渋い顔になっちゃったよ。


「おねーさん。たくさんお金もらってきたから、おかえしにはらうよ」

「あら。いいのよ? これはプレゼントで」

「そういうわけにはいかねーし」


 しっかりしちゃって、まあ……!

 でもねえ、と困るお姉さんにルナが口を開く。


「あの。おしはらいします。すてきなものだから、お金はらわなきゃ」


 ルナまでちゃんとしっかりしてるじゃん……!

 ペロリは感動したよ……。

 お支払いを済ませて出て行く二人にローブを脱いだ。


「あら。お見えになっていたんですか?」


 たいして驚いた素振りを見せないお姉さん。コハナお姉ちゃんから予めペロリたちが来るって連絡を受けていたのかも。


「お金、足りてました?」


 ペロリの問い掛けにお姉さんは肩を竦めた。


「可愛いお二人に向けた値段としては適正。何も知らない、似合わない客ならふんだくるけど」


 笑顔で毒気たっぷりの言葉を吐くあたりはコハナお姉ちゃんのお知り合い感たっぷりだ。


「なので十分いただいております。ドレスはあなたが着るのよね?」

「え、ええ」

「ご結婚、おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます……」


 この場で言われると思ってなかったから、思わず照れちゃった。


「もし仕立て直しが必要でしたらご用命を。コハナに伝えていただければ、いつでも伺いますので」


 微笑むお姉さんに感じる圧迫感がちょっとおかしい。

 ただの狼さんなのかな。とてもそうは見えない、けど。


「ペロリ、あんまりのんびりしていられないぞ」

「そ、そうだったね」


 失礼しますとお辞儀する。

 そっと見渡す店内。ドールが着込む少し過激で色っぽくて可愛い衣装はどれも他の店では見られない。ルカお姉ちゃんの服も似たところある。案外このお姉さん作なのかも。

 もっと長居したいところだけど、我慢がまん。ペロリにはドレスがあるんだから。

 ローブを纏って急いで二人を追い掛けた。


 ◆


 テレビで番組を見る限り、あとの見せ場は帰りの道がわかるかどうかだけど。

 はじめてのおつかいで勝ち確定モードに入っているフラグとして、目的地にあっさりたどり着けるかどうかがある。行ける子はたいがいすんなり帰れちゃったりする。

 なので肝心なのはもう、ただレオがルナの気持ちを引けるかどうかだけ。


「このままぶじにかえったら、ペロちゃんはパパとけっこんかあ」


 レオがどこか残念そうに言う。


「ペロちゃんがママになるのとか、よくわかんないなあ。ルナはどう?」

「ペロちゃん、ママみたいなものだったよ。ずっと」

「ええ? ペロちゃんはペロちゃんでしょー」

「レオのほうがよくわかんない」

「えええ……」


 二人がとことこ歩きながら、のん気に話している。

 ケンカする気配なし。この様子なら大丈夫そうだね。

 それにしてもルナ。ママみたいなものだなんて。

 確かにね。乳母さんみたいに二人のお世話をずっと見てきたけどね。

 たとえばナコお姉ちゃんは必要な時に面倒みる。逆にそうでない時は見守るだけ。

 コハナお姉ちゃんはお兄ちゃんの子供っていうのが引っかかるのか、頼まれない限りは見守るだけのスタンス。

 クロちゃんは不慣れなのとお仕事忙しいからあんまり構ったりしない。

 ルカお姉ちゃんは自分の子供が生まれてからは、同じように面倒みてる。怒ると結構きびしいから、レオもルナも怖がっちゃってるけどね。

 そうなると、だってほら。ペロリが面倒みるしかないじゃない?

 まあ、そんなのは建前で。

 お兄ちゃんの子供っていうだけで、ペロリには可愛くてたまらないから。本当はそれだけなんだけど。

 そっか。ママみたいなものか。

 ルナったら、もう! 帰ったらおいしいお菓子をあげよう。


「ペロちゃんとけっこんするのはおれだとおもったのになー」

「レオ、ちっちゃいからむりだよ」

「ち、ちっちゃくないもん」


 二人の会話が可愛すぎる。

 クロちゃんが肘でつついてきた。ごめん。でもつい顔がにやけちゃうよ。

 むしろクロちゃん、よく涼しい顔で見つめていられるね。うらめしい……。


「まあいいや。おれにはルナがいるし」


 クロちゃんに顎を掴まれてくいっとレオに向けられた。


「レオいじわるだし、やだ」

「い、いじわるじゃないし」


 レオ、声が震えてるよ。


「こないだもぬいぐるみさん、かくした」

「……か、かくれんぼだよ」


 苦しい。


「ルナのパンツとった」

「ぱ、パパのまねだよ」


 これはお兄ちゃん言い訳できない。


「こないだルナのニンジンとったし」

「のこしてたから……きらいなのかと」

「だいこうぶつ!」

「ご、ごめん」


 なんか……あれだね。

 クルお姉ちゃんとお兄ちゃんのケンカを見ているような気分になるね……。

 あれかなあ。

 レオ、ルナの尻に敷かれるようになるのかなあ。

 複雑。


「も、もうしないから」

「……どうしよっかなあ」


 ルナ、おませさんだなあ。

 楽しそうに笑ってレオを見ている。

 珍しい光景だった。

 ルナの笑顔は貴重なの。みんなに遠慮しいで大人しくて、あんまり自己主張しないから。

 でも同い年で身内のレオに対しては素直でいられるのかもしれない。

 三つ子といるときは静かにしているし。そういう意味ではルナにとってレオはとっくに特別なのかもしれない。

 みんなが心配するよりも早く、二人の仲はよくなりそうです。

 クロちゃんと見つめ合って、同時に笑った。

 先を行く二人は本当にお兄ちゃんとクルお姉ちゃんみたいに仲良しさんで。

 それはペロリたちにとって、特別な光景に違いなかったから。




 つづく。

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