第六十九話
コハナがレオとルナに財布と地図を渡し、おつかいに送り出した。
おたすけスイッチなる魔界の道具をクルルはルナに渡している。押したら誰かが即座に助けに入る、というものだ。ついでにクルルが持っている端末にも連絡が入るようになっていた。
過保護かもしれない。だが心配だ。常時そばで二人を見守るようペロリとクロリアに頼んだとはいえ、心配。
具体的にはレオを警戒してばしばし地面を蹴るルナの機嫌とかが心配。
「いくぞ」
「……うん」
レオがルナに声を掛けて、二人が領主の館を出ていく。
「愛情表現が子供すぎる、真の男になるには優しさが大事だとレオにしっかり言い聞かせたので……だいじょうぶだと思うのですが」
玄関で見送るクラリスの呟きに唸る。
「ぱぱ」「ついてっちゃだめ?」「ふたりだけずるい」
三つ子が飛びついてきて、背中をよじのぼってくる。
落ちないように気をつけながら三人をなだめて息を吐いた。
レオに声を掛けようか悩んだが、あいつはペロリの結婚道具だと聞いてから俺と口を利いてくれないのだ。ルナもルナでレオと二人でおつかいにいくことが不満なのか、同じように口を利いてくれない。とほほ。嫌われ役だとわかっていても落ち込むぞ。
「ぱぱー」「ねーねー」「おつかいー」
来年な、と答えて深呼吸をする。シラユキは執拗に俺の獣耳にぱぱ! と叫び続けるし、ミツキはほっぺたを掴んで引っ張るし、カレンは飽きたのか俺の背中にしがみついたままで寝始める。すぐにやってきたルカルーが引きはがしてくれなかったら、どうなっていたか。
さて、気持ちを切り替えて仕事しないとな。仕事。今日はクロリアがいない分、俺がしっかりしなければ。
「気をつけていってこいよー」
遠のいていく二人の子供の背中に大きな声で呼びかけた。返事はなかった。ただのひとりごとみたいになっちゃったのだった。とほほ!
◆
ペロリです。いつもは仕事で忙しくてあまり構ってくれないクロちゃんと二人で、魔王特製透明ローブを纏ってレオとルナのそばにいます。
今回の作戦は単純。レオとルナにおつかいをしてもらう。二人で行動したら嫌でもお話しなきゃいけないから、必然的に交流していくことに。仲良くしないとっていう気持ちが芽生えて、あっという間に仲良しさん。
これだよ。これ! 魔界のテレビで流れてたのを見てぴんときたの。これしかないって!
……まあ、クロちゃんにはね? そんなに簡単にどうこうなるものじゃないって言われたけど。呆れた声で。半分ばかにした顔で。
でもペロリには確信があったよ。この企画を乗り越えられれば、状況は変わるはずだってね! だって毎日見てるからわかるんだもん。どうしてかは、二人の行動を見てから説明できるといいな。ただ言うだけじゃなくて、ちゃんと証明したいの。二人は大丈夫だって。
だから頑張ってよ? レオ、ルナ。二人にかかってるんだから。
「あーあ。おこづかい少なすぎて、ろくなもの買えそうにないや」
レオが道ばたに落ちていた小さい枝を手に、ぶんぶん振り回しながら歩く。
やんちゃな子です。元気盛りです。その元気が有り余りすぎていて、ルナによくちょっかいをかけます。
けれどはっとした表情であたりを見渡して、それからルナを見ました。
「ルナはなにかほしいものある?」
クラお姉ちゃんの教育の効果でしょうか。気を遣っています。珍しい! っていうか初めてじゃない? おおすごい。母の力は強し、か。
「……別に」
ルナの心の壁は分厚かった-! しょうがないよ、レオ意地悪いっぱいしたもんね。
めげそうになってレオが枝を持つ手を下げた。露骨にしょんぼりしてる。けど頭を振った。
「る、ルナがほしいものできたら言ってよ。おれのぶんのおかね、ルナにあげるからさ」
おおおおお! なに? クラお姉ちゃん、どういう魔法を使ったの?
レオが紳士だ! すごいすごい。
「……いらない」
しかしルナの心の壁は厚い!
「……あっそ」
あーあ。すっかりレオがしょげちゃった。
地図を持ったルナがとぼとぼ歩いて、その後ろをレオがとぼとぼついていくよ。
肘で脇腹を突かれてそばを見たら、ローブを背負ったクロちゃんが何か言いたそうだ。
聞かなくてもわかる。こんな調子でだいじょうぶかって、そういうことだ。
でもペロリは笑顔で頷いた。だいじょうぶだいじょうぶ。見守っていたら案外あっさりうまくいくよ。あのシリーズだいたいそうだもの。
「……あ」
地図を手にしたルナが立ち止まって、不安そうな顔であちこちを見渡す。
レオがすぐに気づいた。よし、いくんだレオ。ここでかっこいいところを見せられたら、ルナの評価も少しは変わるよ!
「どうしたの?」
「……ん」
地図を隠して顔をぷるぷる振ってる。ルナ、お母さんであるクルお姉ちゃんの期待に応えようとがんばり過ぎちゃうところがあって、すごくいい子なんだけど失敗するのに慣れてない。
クルお姉ちゃんをがっかりさせるのが一番嫌いなんだよね。お兄ちゃんたちをはじめ、みんなルナがわがまま言わないことを不思議がってるけどさ。
ペロリは知ってるよ。ルナはみんなに嫌われるの、怖いんだよね。だからレオがあれこれ意地悪してくるの、つらいんだよね。それでついつい遠ざけちゃうんだよね。
でもレオ、別にルナのこと嫌いじゃないんだよ。だから、ほら。がんばれ、レオ!
「ルナ、おれがついてるよ。だから、おしえて?」
レオが顔を真っ赤にして、一生懸命やさしさアピールしてる……!
はあああああん! これを見られるだけで、今回のおつかいの意義があったってものだよ!
……いけないいけない。落ち着かないと。クロちゃんに半目で睨まれてる。
「……ここ、どこかわかんない」
「地図かして……んー。わかんないですね」
ルナが恐る恐る渡した地図を見て首を傾げたレオは、本当に何気なく道行く人にすいませんと声を掛けた。
「あのー。ここどこですか?」
「ん? ああ、領主さまの息子さんたちかい。なに、どうしたの?」
相手は見知らぬピジョウ国民だ。よかった男の人で! 女の人で美人さんだったら、レオがでれでれし始めるもの! 本当によかった、男の人で!
すすす、とルナはレオの背中に隠れる。人見知りだからね。けどレオは違う。
「おつかいいくんです! ここどこかなーって」
「ああ、えっと……持ってるのは地図かな。どれどれ?」
レオの持っている地図を覗き込んで、丁寧に道案内をしてくれた。
現在地点を把握したレオが笑顔でお辞儀をする。
「ありがとーございま!」
「いいよいいよ。ルーミリアに行くなんて、日帰りでいけるとしてもちょっとした旅だ。気をつけていってきてね?」
「はい!」
クラお姉ちゃんの教育、行き届いてるなあ。
いこう、とルナの手を引いてレオが歩き出す。まずは転移の門に行かなきゃね。
魔法の勉強でお外にあまり出ないルナと違って、レオは三つ子と一緒にルカお姉ちゃんの教育を受けて外で走り回っているから慣れてるんだ。
いいよいいよ。レオの背中を見つめるルナの顔、ちょっときらきらしてきたよ?
「ほら、私たちも行くぞ」
「ん!」
クロちゃんに促されて、ペロリは二人の後を追いかけたのです。
ピジョウにいる限りは心配なさそう。じゃあ人間世界に行ったらどうかな?
つづく。




