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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第八章 未来は僕らの手の中
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第六十八話

 



 休暇を早めに切り上げてピジョウに帰ったせいか、ルナの機嫌が少し悪い。


「……ただいま」


 おかえりなさいませと出迎えてくれたコハナに仏頂面で返事をしている。

 不満を言わないあたり、悩ましいなあ。何か言いたいことはないかと誰が聞いてもぬいぐるみを抱き締めて黙ってしまう。しかし不機嫌になるとつま先で執拗に地面を蹴るあたりは、クルルそっくりに育ったなあと思う。


「パパ、おかえり! お土産は?」

「みやげ」「みやげないの?」「ルナだけ?」


 飛びついてきたレオを抱き留めて、足下に集まってきた三つ子に笑う。

 カバンの中からそれぞれに贈り物を出して渡してやり、一息吐いた。

 わいわい騒ぎまくる四人にすかさず、ルカルーが呼びかける。


「帰ったばかりのタカユキを疲れさせるな。ほら、おみやげは居間であけなさい」

「「「「 はーい 」」」」


 四人は我先にと全力ダッシュで居間へ走り去っていった。

 ルナがとぼとぼ歩きで後を追いかける。コハナとルカルーが何か言いたそうな顔で俺を見つめてくるが、俺は肩を竦めることしかできなかった。


 ◆


 その夜、最初に出会った頃のクルルと同い年近くに育ったペロリに魔界で買った指輪を贈る。


「長く待たせてすまん。一応……結婚指輪のつもりだ」

「ふふー。いいよ、別に。お兄ちゃんの中で必要な手続きなら、めんどくさいけど。でもこうして指輪はもらえたし」


 至福に蕩けた顔で、うっとりと左手の薬指に嵌められた指輪を眺めている。

 スフレのエルサレンで初めて出会った時に比べて成長したな。クルルよりも背は伸びた。どんどん、月の光を浴びて見せてくれるロリシアモードに近づいている。

 さすがにもう、子供扱いはできない。俺の生まれた世界的には年齢はまだまだ子供だが、こっちの人間世界の成人基準はずっと低いようだから今更だ。


「じゃあ、このままいくとクロちゃんが結婚するのラストだね」

「あいつにその気があるとは思えないけどな」

「お兄ちゃんが押さないせいだよ。クロちゃん、コハナお姉ちゃんばりに素直じゃないから」

「……うん」


 ペロリ容赦ないな。手強く育ってないか? はらはらするぞ。


「ああでも、これ見たらレオが拗ねるんだろうなあ」


 蕩け顔で指輪を嵌めた薬指を見つめながら言うから苦笑いだ。


「ペロリに懐いてるもんな」

「ペロちゃん、俺のお嫁さんにする! って最近は毎日のようにいうの」


 かあいいよね、とデレデレだ。


「そっか……」


 レオのやつ、と思ってさらに何かを言おうと思った時だった。

 壁の向こう側でけたたましい物音がしたのだ。ぎょっとする俺にペロリが呆れた様子でため息を吐く。


「ああもう。帰ってきたら早速ルナにちょっかいだしてるな?」

「どういうことだ?」

「レオね、ルナの気をひきたくてわざと悪戯するの」

「悪戯って」

「ルナの大好きなもの隠したり、そばであれこれ意地悪言ったりするの。で、怒ったルナがクルお姉ちゃんに教わった魔法をばんばんぶっぱなして、あれ」


 物音が廊下を移動して、すかさず足音が追い掛けていく。


「こらああ!」


 ルカルーの怒声だ。次いですぐに、


「レオがわるいの!」

「ルナがまほーつかうのがいけないんだろ!」


 二人のケンカが聞こえてきた。思わず唸る。


「どうにかなんないか? 仲悪すぎるの困るんだが……式の話どころじゃないぞ」

「それは困るよ。でも、ペロリはできる妻を目指しているので、お兄ちゃんが旅行中にちゃあんと考えておいたよ」


 可憐に育った聖女はどや顔である案を切り出した。


「それはね……」


 ◆


 子供たちが寝静まった頃に集まる。

 暗闇の中、食堂で敢えてロウソクの明かりだけで顔をつきあわせているのはただの悪ふざけでしかないのだが。ともあれ、


「つまり、はじめてのおつかいをやろう……と」


 ルナたちに聞かれぬよう食堂に防音の結界を張っているクルルの言葉にペロリが頷いた。


「二人だけで行動させれば、いやでも結束が高まると思うの」

「年の近い兄弟姉妹はケンカをするものじゃないか? 別に放置でもいいと思うけど」

「ナコお姉ちゃん、そうはいうけどさ。あの二人ったら、顔を合わせたら必ずケンカしてるよ? これは放置できないよ」

「で、本音は?」

「はじめてのおつかいをする二人を見守るの、すっごく楽しいと思うの!」


 ふんす、と鼻息も荒く言うペロリに母二人が顔を見合わせる。


「ルナならきちんとお買い物できると思うけど。レオが一緒だとどうかなあ」

「あら」


 クラリスがすぐに笑みを浮かべた。


「それは確かに女性にだらしないところがありますが、あれでレオは国のみなさんに好かれています。おつかいともなれば、不安なルナをきちんとエスコートできますとも」

「む」


 母二人が笑顔で火花を散らしている横で、ルカルーが腕を組んだ。


「ピジョウでおつかいだと案外あっさり終わってしまうのではないか?」

「ふふー。ルカお姉ちゃんがそういうと思って、ペロリは地図と作戦を用意してあります」


 のりのりか。


「クロちゃん、作戦を言って」

「……まあ、私が考えたんだが」

「そ、それはいいから、ほら早く」

「仕方ないな……」


 眠いのか、気が進まないのか。クロリアは欠伸をかみ殺して、指を鳴らした。

 空中に紫の光が生まれて、それはドレス姿の花嫁を描く。


「ルーミリアの服職人にドレスとティアラを用意させた。二人にはそれを取りに行ってもらう」

「人間世界への旅……まあ、勇者さまの最初の旅路を思い出しますね」


 のほほんと紅茶を啜りながらコハナが像を見つめる。


「妨害は?」


 コハナのその発言に、ペロリとクロリアが一瞬で悪い顔になった。


「それはもちろん、クロちゃんと用意したよ」「勇者の息子と娘とあらば、多少の困難は乗り越えられなければな」


 酒をちびちび飲みながら、ナコが尋ねる。


「魔物でも放つのか?」

「そういうのじゃなくて、もっとこう……子供に見合う仕掛けがいいかな、と」


 ペロリが答える横で、脳天気に微笑みながらコハナが口を開いた。


「コハナ、本気を出します?」


 みんなで一斉に「それはやめよう」と口を挟み、咳払い。


「まあ、じゃあ二人を見守る方向性でいくとして……二人の旅路の成功を祈って一杯のむか」


 旅行土産の酒をコハナに出してもらっている間にクルルが結界をとく。

 これで少しは二人が仲良くなってくれたらいいのだが。




 つづく。

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