第六十七話
コハナを死神たらしめる契約を行った前死神との対決、コハナとの挙式後にブーケトスを受け取ったのがクロリアで波乱。
ルナとレオと三つ子がすくすく育つ中、ハネムーンで子供をと企むコハナに吸い尽くされたり。
ナコとも式を挙げて、ペロリの「挙式まだ」攻撃による突き上げを食らう日々が始まったり。
色々と忙しい日々が過ぎて、四年が過ぎた。
そしていま、俺はスフレ王国にいる。
クルルとルナとの旅行中なのである。今日はクルルの実家に宿泊中だ。
コハナのハネムーンを切っ掛けにして、誰かが呟いた。二人で旅行ずるくない?
その誰かさんを発起人に、俺は一年に一人一回ずつ旅行につれていく、ということになったのだ。
誰かさんはただいま実の母と父に娘を預けて、どや顔で俺の膝に頭を預けている。
そう、クルルだ。
「久々だよねえ、実際」
至福の顔で俺の耳掃除を受け入れている。
最初の頃の超絶敏感さはどこへやら。今ではすっかり慣れて、せいぜいが涎を垂らす程度です。
「たまの二人きり、いいなあ……明日は魔界のあの部屋ね」
「はいはい」
クルルの要求に頷きつつ、耳のひだに隠れた垢を探す。
かりかり撫でられることを要求するのだが、前に耳掃除のやり過ぎで炎症を起こしたことがあるので二人して控えめになるよう気をつけているのだ。
「あぁ、羽根を伸ばす時間……最高かよ」
いや、お前ふだんは仕事だなんだでルナのお世話についてペロリにだいぶ助けられてるだろ。
突っ込んだらきれられるので言わないけれども。そもそも俺も同罪だしな。クルルのことは言えない。
「レオも連れてきてやりゃあよかったんじゃないか?」
「最近は特にレオの女子を見る目つきがえっちだから、あんまりね。スフレに迷惑かけたらと思うと、気が進まないというか。クラリスさまが嫌がると思う」
「……うん、まあ」
反論できない。
レオ、ルナ。どちらも五歳。
レオは子供だから誰も怒らないことをいいことに、毎日女子達にセクハラしまくりなのである。みんなして「まあ父親が父親だからなあ」って顔をするのがつらい。
クラリスと二人で何度も叱ってきた。だが、それで治るなら苦労はない。そもそも自分が子供の時を思い出してみると、親に叱られたから言うことを聞くほど単純なガキじゃなかった気がするね。なので、叱っても効果がないし意義も見いだせずにいる。
レオと違い、ルナは手の掛からない娘に育っているので、それはそれで不安。
レオとは違ってわがままを言わないのだ。まったく。レオと足して二で割ったら二人ともちょうどいいと思うんだが。
「タカユキもクラリス様も大変だと思うけど。ペロリがいて三つ子がいるし、大丈夫だよ」
「……ううん」
困ったことにレオはペロリにお熱だ。妙にペロリに懐いていて、心配になるレベル。クラリスはばしっと叱るのに対して、ペロリは優しく自省を促すからな。叱る母より気楽に甘えられるのだろう。困ったものだ。
一歳年下の三つ子たちはといえば、ルカルーの厳しい教育を受けながら健やかに育っている真っ最中。ルカルーはあれで意外と怖い母ちゃんで、ペロリが忙しい時にレオをルカルーに預けると、女好きのレオが泣いて嫌がるレベルで怖いのである。悪いことをしたら普通にゲンコツ入れるからな。
頼もしすぎるルカルーにクラリスがレオを預けることは多い。
レオは隙を見てはルカルーの元を逃げ出してペロリやコハナ、共和国の女子たちの尻を追い掛けにいく。まあ、すぐにルカルーに捕まってお説教を食らって泣く羽目になるのだが。
毎日その繰り返しになってきているので、レオを見るルナの目の冷たさといったらない。三つ子は妙にレオに懐いているのだが。
「ルナとうまくやっていけんのかね」
「今のままだと心配かな」
クルルに現実を告げられて渋い顔になる。
黙り込んで耳掃除を続けていた時だった。こんこん、と小さなノックがする。
「はーい」
俺が返事をすると、扉が開いてルナが顔を覗かせた。
「……ぱぱ、まま。はいってもいい?」
不安げな声である。もう全力で頷くよね。いいよって。
ルナを溺愛するネイトさんが贈った狐のぬいぐるみを抱いて中に入ってきた。
ぺたぺた足音を立てて俺の腰掛けるベッドにやってくると、じっと見上げてくる。
耳かきを持つ俺の手元を見て何かを言いたげだ。けれど唇をぎゅっと閉じている。
ルナに手を伸ばそうとするクルルと、ほぼ同時に声を掛けた。
「ママの次に耳掃除するか?」
「……ん」
照れた顔で俯いて、小さく頷く。
これ。これだよ。ルナは何に気を遣っているのか、それともひたすらに臆病なのか、自己主張がめちゃめちゃ控えめなのである。
ルナのそんなところにきゅんとやられる大人は数多くいて、ピジョウじゃマジでお姫さま扱いだ。
「私の小さい頃にそっくりかな」
でれでれした顔のクルルの言葉に笑いながら、耳掃除を済ませる。
身体を起こしたクルルがルナを抱き上げて、俺の膝上に座らせた。
小さな兎耳を手で触れる。ルナの耳掃除をしながら、俺はそっと尋ねてみた。
「ルナ。明日、やりたいことないか?」
「……おうちかえらないなら、なんでもいい」
思わずクルルと顔を見合わせる。さっきも言ったが、ルナのわがままはとにかく珍しいからだ。それになに、うちに帰りたくないみたいな発言。
「おうち嫌いか?」
「……レオがいるから、や」
おおう。またしてもクルルと顔を見合わせちゃったよ。
「ルナはレオのこと嫌いか?」
「みんな、いそがしい……なのに、レオ、かってばかりする……きらい……」
五歳児なんてそんなもんだぜ? と思ったのだが、下手にフォローしてもルナには響かなさそうでもある。
いやはや。困ったね、どうも。
子供たちに対して破壊神の話は禁句になっている。子供たちに背負わせないようにしよう、と話してもいる。
だから案じるのはただ単純に、家族みんな仲良く幸せがいいという、それだけの理由からなのだが。
「なかよくしなきゃ、だめ?」
こういうことを聞いちゃう五歳児もどうなの。俺がだめだって言ったら我慢しそうだ。ルナはそういう子に育っている。
気を遣うことないんだぞ、と言うこともできる。けれど何度も言ったがルナは変わる気配なし。
耳掃除を続けながら、俺は思案した。
なんとかしないと破壊神云々はさておいても、家族仲に問題が生じる。
放置はできないが……さあ、どうする?
つづく。




