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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第六章 ふたりは神さまカーニバル!
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第五十九話

 



 砦に持ち運ばれた玉座に座って、破壊神は楽しそうに手を叩いて見ていた。

 俺が辿り着くと手招きまでして言ったよ。


「こっちへきて見てよ! 愉快だよ!」


 いやに上機嫌。だからなのか、それともそもそも大ざっぱだからなのか。

 女神が「どれどれ?」と破壊神の隣に並ぶ。それを嫌がる気配もなし。

 いいあんばい? もしや、これ以上ないくらいいい手応え?

 招かれるままに隣に腰掛けて、試合会場を眺める。

 みな武器を手に戦っちゃいるが、服が脱げたら退場がルール。粘ろうとする者はナコが召喚した精霊が強制退場させている。おかげでどんどん減ってはいるが、基本的には拮抗しているな。

 突出した力を持つ者は同じくらいの相手とぶつかり合っている。

 緊迫した空気はない。女子が脱げれば男子が見て、男子が脱げれば女子が見る。そしていけてる男女にどんどん突貫していく。下着姿を求めて。

 くだらないといえばくだらない。だが盛り上がっていた。


「ともすれば停滞しそうな世界だけど、刺激があっていいね」

「じゃあ女神に勝ちを譲る?」

「ないない。女神の裸を晒すよ」

「破壊神の下着姿の方がレアじゃない?」

「不毛だね」


 笑い合いながら、二人が手に手を取り合う。片方が強く握り、もう片方が強く握り返す。スネを蹴って、膝を入れて。見苦しいといえば見苦しいのだが、これは俺が間に入っちゃいけないんだろうなあ。姉妹ゲンカだもん。


「ふん!」「せい!」


 互いに放った右ストレートがクロスした。

 そして同時に服が弾けて女神は黒の、破壊神は白の下着が丸見えに。

 瞬間、甲高いブザーが鳴る。

 空に花火が打ち上げられた。クルルのお母さんをはじめとするスフレ魔法使い隊に来てもらっている。花火は魔法によるものだ。

 空に映像が投写される。

 引き分け。

 大将互いに同時に脱衣したため。

 最高にくだらない結末だ。けれど下着姿になった美女二人は互いに肩を抱き合って笑っているから、よしとしよう。足を踏み合っているところは見ない振りだ。見ない振り。


 ◆


 順調に祭りを消化してエンドセレモニー前日。

 日頃食べている食事を味わってみたいという神さま二人の願いを受けて、領主の館の食堂で晩飯を囲む。

 ちゃっかり泊まりに来ていたクリフォードと魔王を迎えて大賑わい。

 グスタフに料理を頼むべきかと思ったんだが、クラリスがコハナと一緒にやる気満々だったので任せた。

 国賓二人を迎えての食事は堅苦しいものになるかと思いきや、そんなことはなく。

 ばくばく食べてはおかわりを叫ぶコルリが最高に気を抜ける材料になってたよ。

 表面的には和やかにしている女神と破壊神は、テーブルの下で足を踏み合う抗争を繰り返していた。

 楽しんではもらえているようだが、姉妹ゲンカの解消をはじめ今後の世界の命運を好転させるだけの切っ掛けを作れた気配なし。

 その証拠に、酒に酔った二人がついに立ち上がって怒鳴った。


「だからどうして女神のやることにケチつけるの!? 作った端から壊して!」

「そっちこそせっかくバランス取るために壊した端から作って、挙げ句とじこめて! それで、なに? バグ扱い? 魔界つくってなきゃあ人間世界はひどいことになってたよ!」


 さっきまで和やかだったじゃん。もーなに。

 この繰り返し。最終戦争がはじまるような陰湿さがないのが唯一の救い。

 それは女神のおおざっぱさが破壊神にもあるからなのか。さすがは姉妹ということなのか。

 仲間たちがどうにかしてくれ、という顔で俺を見てくる。

 しかしどうにかできるなら、とっくに解決できたわけで。

 さらっと重大事実を告げたりするから、二人のケンカは心臓に悪いし困る。

 どうしたものかと悩んでいた時だった。


「だいた――わぷっ」

「ふわ!?」


 声を荒げようとした女神の顔面にふわふわ飛んでたルナが突っ込んだ。

 そして破壊神が飛び上がる。いつの間にかクラリスの膝上という定位置から下りたレオが、そのお尻を鷲掴みにしていたからだ。


「ちょ!」「レオ!?」「ルナ、だめ!」


 慌てて引きはがそうとする父親&母親二人。

 なのだがルナは女神の顔が気に入ったのか、離れようとしない。

 そしてレオはレオで破壊神にしがみついて、服を引っ張ってかがめた上半身、というか胸に顔を埋める。

 血の気が引く母二人。


「「 すみません、すみません! 今すぐどけますので! 」」


 そして引きはがそうとするのだが、子供二人は離れない。

 はこびこんだ子供用ベッドで上半身を起こした三つ子がきゃっきゃとはしゃぐ。


「待って待って、敏感なところ触ってくる! この子すごく敏感なところ触ってくる!」


 赤面する破壊神にでれでれ顔のレオには俺も血の気が引くし。


「あっ、らめ、あっ、あっ」


 ルナが女神の耳を弄りまくっていて女神がぎりぎりな声をあげている。

 結局ペロリが「こーら」と怖い声で言って、やっと二人は離れた。

 どや顔で視線を交わした子供二人は、楽しそうに手をたたき合う。

 昇天した顔で椅子に身体を預ける女神の横で、破壊神がじっと二人の子供を見ていた。

 怒らせたか? 破壊神のいけない琴線に触れちゃいましたか?

 びくびくしながらも声を掛ける。


「どうかしたか?」

「その……二人は仲いいの?」

「レオとルナのことか?」


 俺の問い掛けに破壊神は頷いた。

 さて、どうだろう。何かをやり遂げたつもりのレオがルナに飛びつこうとするのだが、その頃にはごはんに意識が戻ったのか? ルナはクルルの膝上に飛んでいってご飯を要求した。

 ショックを受けた顔をするレオにペロリと魔王が吹き出す。


「レオの片思いかな」


 肩を竦めると、破壊神が呟いたんだ。一緒だなあ、って。

 どういうことかもちろん尋ねたよ。すると彼女は言った。


「ぶっちゃけ君らの命だの時代がどうだの一瞬の夢のようで興味ないんだけど。楽しかった」

「……それはなにより」


 どういう顔で返事をすればいいのかわからない。


「レオ? ……その子の恋が叶うなら、女神に譲歩してもいいよ」


 戸惑う。急な提案すぎて。それに恋とかいわれても。まだレオとルナ一歳ちょっとですよ?


「あ、あのう」「二人はまだまだ子供すぎるといいますか」


 母親二人もさすがに放ってはおけないようだった。

 けれど口を挟む二人を相手に、破壊神は確信をもった笑顔で言い返す。


「運命が見える。二人は互いに互いを意識しあうのが。天使の娘……女神の御心を継ぎし少女が悪魔宿りし少年を受け入れたのなら、誓って手を出さない」


 突然の提案に誰も何も言い返せなくなった。

 助けを求めるつもりでコルリを見たら、骨付き肉にかぶりついていた。

 おい。おい天使。ちょっとはやる気出して!

 助けを求めるつもりでじっと視線を注いでたら、ひとしきり食べ終えてから言ったよ。


「嘘つかないよ。仮にその通りになったらね」

「……ううん」


 唸る。困った。世界を賭けた恋愛といえばそりゃあ聞こえはいいが、今の年齢から世界の命運を背負わせたくはない。そういうのいらない世界にしたかったわけだし、俺は責任が苦手だ。


「最大限の譲歩のつもりなんだけどな」


 微笑む破壊神の隣で正気を取り戻した女神が咳払いをした。


「まー兎そっくりの美少女に育つだろうし、タカユキそっくりのすけべさんに育つだろうから。タカユキたちがどう育てても避けられない未来かもしれないし、そうではないのかもしれない」

「ここでざっくりはよしてくれ!」


 女神を睨もうとしたが、その気はすぐに失せた。

 大事な場面で見せる優しい笑顔を女神が浮かべていたから。


「壊すの好きだよね」

「性分なんで」

「まったく」


 破壊神を肘で突いてから女神は言ったよ。


「まあ何もしなくても今まで通りだし、破壊神がこんなこと言うのマジで珍しいから。最大限のお礼のつもりなんだと思う。兎も猫姫も意識しなくていいよ、なるようになるんだから」

「ちょっとー。せっかくの提案をぶちこわす気?」

「これ以上放置したら悪さしそうだから帰るよ。コルリ」


 女神が呼びかけると、コルリが渋々立ち上がった。

 破壊神に女神が触れようとした時だ。ショックから立ち直ったレオが破壊神のそばに行く。


「かえゆ?」


 寂しそうな声だった。おっぱいが減るのがそんなに寂しいか、レオ。気持ちは少しわかるぞ。少しな。


「うー?」


 クラリスの膝上から女神に手を伸ばすルナも、別れの気配を感じたのかもしれない。

 女神と破壊神は互いに顔を見合わせる。そしてうなずき合う。


「きみには……魔の祝福を。強く健やかな子に育つように」


 レオを抱き上げた破壊神が額に口づける。


「あなたには天の祝福を。優しく明るい子に育つように」


 クラリスの膝上にいるルナの額には、女神が口づけた。

 レオとルナの背にある羽根が輝く。そしてそれは不意に消え失せた。

 母親そっくりの耳と尻尾だけの姿になったのだ。


「あんまり力が露出してるとこの先くるしむだろうから」

「少しだけ神さまの手助けです。健康には害はないからね、コハナ説明しといてね」


 破壊神と女神の説明に戸惑うクルルたち。

 そっとコハナが耳打ちをする横で、コルリと神二人は集まって光と共に消えてしまった。

 静まりかえる食堂で、クリフォードが不意に笑う。


「タカユキがいると退屈しないね。妹はいい亭主をもらったようだ。せっかくだから三つ子にも祝福をもらえばよかったのに」

「やめてくれ」


 ルカルーが心底迷惑そうに言い返す。


「二人の子供だけで、ルカルーたちの子供たちの代はてんてこ舞いになる。だからこれでいいんだ」

「なるほど」


 妹の断言に愉快そうにクリフォードが笑っていた。

 クルルとクラリスはコハナの耳打ちに不可解ながらも納得しようと頷いている。

 当のルナとレオはいつもと変わらず、帰ってしまった二人の神と食いしん坊天使のいた場所を見つめていた。


「なあ……タカユキ。言いにくいんだが」

「どうした」


 クロリアの言いにくそうな様子に首を傾げる。

 単純に祝福をもらっただけ、そしてそれが神二人の言うとおりなら呪いにはならなそう。

 歓迎したっていい状況下で、クロリアがしんどくなる理由なんて一つもないと思ったのだが。


「せめてセレモニーには出てもらった方が、受けはよかったんじゃないか?」

「あっ」


 そういえば明日で終わるんでしたっけ。お祭り。

 やっべ。神さま二人のインパクト強すぎて忘れてたわ。あはは……。


「やばいじゃん」


 青ざめる俺です。

 結局、翌日はクリフォードと魔王に挨拶を頼んで事なきを得た。

 無事、今回の祭りも終わった。クラリスの妹でスフレ女王となったカナティアの姿が見えないのは少し気になるが、まあ女王がほいほい外出もできないよな。しょうがない。

 女神の言うことが本当なら、そして破壊神が嘘を吐いてないのなら現状取り得る最上の結果になったようだ。

 すべてが終わった翌朝、居間に行って悩む。

 ふわふわ飛び回るルナを追い掛けて、レオが床をとたとた歩く。

 どう見てもレオの片思いだし、厳密に言えば異母兄弟なわけで。どうなんだろう。恋愛。

 台所に顔を出してコハナに悩みを打ち明けたら、彼女は肩を竦めた。


「まあないことじゃないですよ。むしろ悩むべきは、レオくんが勇者さまのようにハーレム築いてルナちゃんが怒りまくる展開じゃないですかあ?」

「なんか……適当に言ってないか?」

「最初以外は。こっちは忙しいんです、食堂で待っててください」


 料理中のコハナは素っ気ない。エプロンつけて鍋にまな板に忙しい。

 こういう時にちょっかいをだすと、普段は全力で迎えてくれるコハナがガチで怒るので俺はそそくさと退散した。

 祭りは終わったけど、これまたしんどい難問残して帰って行ってくれたよ。とほほ。




 つづく。

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