第五十七話
どうしてこうなった。
「タカユキわかってんの!? 女神のハチマキ取られたらまけだかんね! おいこらウサギ、やる気出せ!」
今回の合戦用に建造した砦の中から女神がぎゃあぎゃあ騒ぐ。
クルルの物言いたげな視線に引きつり笑いで返しながら、俺は向かい側の砦を見た。
破壊神がどこから持ち込んだのかしれない煌びやかな玉座に腰掛け、その前に魔王とクロリア、コハナがいる。魔界の軍勢はみなあちらにいた。
「コハナなんでむこうにいんの! あの子、元とは言え勇者なんだけど! 女神激おこだぞ! ぷんぷん! おいこら、痛そうな顔すんな!」
こちらには人間世界の連中が勢揃いだ。クリフォードもしっかり参戦している。
目元を手で覆った。
違うんだよなあ。人間と魔物の和平の象徴として、楽しく汗を流そうぜ! がモットーなんだけどなあ。
なんでこういう対立軸になっちゃったかなあ。
「諦めて戦うしかないんじゃないかな」
投げやりなクルルに唸る。
「ううん……どうなんだ、これ」
「わかりやすくていいんじゃないでしょうか」
これまた投げやりなクラリスに口元が引きつる。
「いやいや。しかしな」
「ガチでやってわかりあうこともあると思うの」
ペロリぃいいい! お前にいったい何があったあああ! そんな武闘派じゃなかったでしょ!
「領主。始めよう」
ルカルーの呼びかけに慌てる俺なのだが。
「それじゃあいくよ! イクスプロシオーッ!」
空へと両手を掲げたクルルの魔法が炸裂。
大きな花火があがった。瞬間、俺が止める間もなく大声をあげて合戦参加者が相手陣地の砦へと向かっていく。
「よしよしいけいけー! 相手を全員裸にしちゃえー!」
ひゅうひゅう、と歓声をあげる女神に頭痛がする。
少なくとも女神には楽しんでもらっているようなのだが。
「おいこらタカユキ! 負けたら承知しないぞ! ひどい呪いをかけるぞ! 女神レーザーだすからな! はやくいけ!」
俺と同い年か少し年上に見える女神の発言がすごく子供っぽいのはどうにかならないのか。
一斉に駆け出す仲間たちの背中を見送って、俺はそっとため息を吐いた。
観戦ができる広場で、レオとルナと三つ子はグスタフ家族と一緒に見守っていることだろう。
これは教育によくないのでは?
そう思いながら砦と砦の間にある障害物コースを見た。
ナコの精霊術の呼びかけに応じた精霊たちが水の中から空から襲いかかる。それだけで一本柱を歩いたり坂道を歩く参加者たちが裸に剥かれて、笑顔で悔しそうに去って行く。
和やかと言えば和やかだ。
見守っていると、先陣を切った足の速い連中が木剣と盾などを使ってぶつかりあう。
一人、また一人裸になって退場していく。
そんな中に空を飛ぶクルルが向かっていった。両手を掲げて地面へと向けた。呪文を放とうとしているのだ。
けれどクロリアが放っておくはずがなかった。闇の剣が投擲されて、あわててクルルが飛び退いた。こりゃあ、クルルはクロリアの相手で忙しくなりそうだな。なんとなく、最初の旅の最後を思い出す。
けれど勇者ご一行の面子の比率はこちらの方が多い。
すぐに破壊神まで至るのでは? そして機嫌を損ねてしまうのでは?
そう思った俺の不安は杞憂に終わった。
ルカルーとペロリの前に立ちふさがったのは、二度目の旅で俺たちを圧倒したあの老執事だった。二人の矢のような攻撃を素手でさばいてしまうんだから、末恐ろしい。何者なんだ、あの執事。
クリフォードとナコとクラリスはまだ健在だったが、容易く目的達成とはいかない。三人が向かっていくその先に魔王が降り立つ。ありゃあ三人でも苦戦するな。ぶっちゃけ戦いで魔王に勝ったことはないのだから。
「おいこらタカユキ、なに観戦決め込んでんだ! おしおきだべえ!」
「わかりましたよ!」
あらほらさっさと駆け出す。
領主で勇者、俺はいわば魔王と同じカードのキングだ。一応な。
だから向かうべきはクラリスたちのもとだと思ったのだが。
「だめだめ。いかせませんよ? 普段はいかせまくってますけどね! この」
降り立つメイドの背に生えたコウモリの羽根。
灼熱に燃える真紅の髪。
「コハナがお相手デス!」
手に持つ大きな鎌の威力は知りたくもない。ああ、それと。
「下ネタを登場台詞で言うのどうかと思うぞ!」
クルルのパンツに念じて取り出す大剣。
勇者の力の結晶だ。ならコハナの大鎌は? 勇者で死神の結晶なのか?
向こうの方が強そうだなあ……さしずめコハナはジョーカーか。切り札きられたこの状況、正直しんどいっちゃあしんどいが。
『ふはははは! 死を司る神に据えた彼女は破壊神の腹心とも言うべき存在! 今日は妹が勝つ!』
空に投写された映像には、ドアップの破壊神。これ以上ないくらいどや顔である。
小さなワイプ映像で映し出された女神が、心底悔しそうに歯ぎしりしていた。
どうやら楽しんでもらえているようだ。
「で? 破壊神の腹心ってのは本当なのか?」
「くふふ★ いつまでたっても不意に訪れるコハナの新情報にどきどきしてくれました?」
「正直、微妙だ」
「じゃあ」
羽ばたいたコハナが一瞬で間を詰めてくる。
唇が触れそうな距離で彼女が囁いた。
「これならどうですか?」
首筋にぴたりと当てられた刃の感触にぶわっと汗が滲む。
あっという間に王手なんですけど。ちょっと! この子強すぎるんじゃないの!?
「終わりですかあ? サラマンダーよりはやいですねえ」
にやける彼女にかちんときた俺は決意を抱いた。
腕にパンツは巻いてある。クルル、ルカルー、ペロリ、クラリス、ナコ。
そう容易く負けてたまるか! だいたいだな!
「本調子の時は半時くらいもつし!」
「あんまり長すぎるのもちょっと……でもでも、本当だっていうなら証明してください★」
「上等だ!」
切り払う俺から離れるコハナを睨む。
戦いの火ぶたはこうして切って落とされたのだった!
つづく。




