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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第一章 再びのスフレ、動乱リスタート
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第五話

 



 気づくと俺は教会にいました。


「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」


 あー。うん。そうね。

 なんていうかな。うん。強いて言えばさ、うん。

 ……久しぶりだよね、この感じ。

 ふり返ると案の定、棺が二つあった。

 そして目の前には神父がいる。


「生き返らせる?」

「……えっと。費用は……どうやって決まるんだっけ?」


 恐る恐る尋ねたよ。答えが怖いからね。俺の予想通りなら――


「その子の年収だったね」

「だったね?」


 待って。だったね、の前の言葉は予想通りなんだけど、だったねがつくと事情が変わるよ? え? え? 待って。


「じゃ、じゃあ今は?」

「生涯収入だね」

「…………」


 固まったね。


「生涯収入だね」

「……高いの?」

「すごく高いね」

「……だよね?」

「すごく高いね」


 ……ちなみに。


「いくら?」

「勇者ごときの収入では払えないね。世界を一周してラスボスを一ひねりできるくらいやりこんだら或いは楽勝で払えるかもしれないけど、今のお前には無理だね」

「だよね。うん! うん! わかってた……待って。整理させてくれ」


 深呼吸をした。それから叫ぶ。


「いきなり高くなりすぎだろ! なんだよ生涯収入って! 初めて聞いたよそんな単語!」

「生きている限りどれくらい稼ぐのか、その総額だね」

「だいたい予想通りの内容だし、だからこそ外れて欲しかったわ-!」


 くそっ!


「払えるわけないだろ! まだ序盤も序盤だぞ! いい加減にしろ! レベル制で、レベルかける十くらいの値にしろ!」

「できるよ」

「できるんかーい! できるんかーい!」

「中途半端になるけど」

「出た! 出たな、中途半端!」

「レベル上がるまで元に戻らないけど」

「しかし他に選択肢がない……!」


 歯がみせずにはいられなかった。

 ペロリが仲間になってくれていたら、あいつは聖女なので生き返らせる癒やしの奇跡が使えるのだが……あいにく今はまだ敵だ。

 思い返してみる。

 迫り来るルカルーとペロリ。分身したルカルーたちに一塊に集められた俺たちはペロリのパンチで弾けたのだ。文字通り、ぱん! って。

 そして教会に移動したわけですよ。俗に言う死に戻りだ。この世界に来る前に見たフィクションなんかだと時間が巻き戻ったり、なにがしかの影響が世界に出たりとしたものだが……俺の旅では普通に教会へ戻る。俗に言うロールプレイングげ……うっ、前の世界のことを考えると頭痛が!

 と、とにかく。


「安い方でお願いします」


 俺が頭を下げた途端、ありがたい音楽がありがたく流れてふり返ると二人が生き返っていた。

 ――……ウサギと猫になって。足下に二人の衣服が散乱しているのが哀愁を誘うね。


「……あのう」

「なに?」

「せめて人では?」

「中途半端だから。しょうがないね」

「……人にできないの?」

「レベル上がれば戻るよ」


 半目でじっと睨んだけど神父の表情は変わらないのだった。

 くっそ、しょうがねえな!


「覚えてろよ!」


 負け犬の遠吠えめいた台詞を吐いて、俺は二人の衣服とウサギとネコを抱えて教会を出たのでした。


 ◆


 まさかの王都に逆戻り。

 からの、初戦でまさかのはぐれたメタル的な敵との遭遇。そしてクルルとクラリスの復帰。

 歓迎する。いかにも雑で適当な女神らしい世界の雰囲気が戻ってきてくれたことは歓迎する。

 だが、どうだろう。


「ペロリとルカルー……どうやって記憶を取り戻してもらうべきか」


 答えがまるで見つからない。


「正直、手も足も出なかったよね」


 エルサレンより少し手前にある旅人の小屋で俺たちは悩んでいた。


「まさか分身して瞬足で攻撃してくるなんて、思いもよりませんでした……」


 早すぎます、と落ち込むクラリスを責められない。

 何か策があったようだが、ルカルーの速度はそれを許してはくれなかったのだ。


「あいつらあんなに強かったんだな……」


 しみじみと呟く。

 誰も何も言えずに静かに時が過ぎようとしていた。

 ちょうど、そのタイミングだった。


「どうもーーーーーー!!!!」

「「「 えっ? 」」」


 天井から豪快な男の声がしたので見上げると、光を背にしたバンダナの男がいた。


「え……誰?」

「神出鬼没の神さま! 女神を愛し、女神に愛されない男ぉおお! そう、我こそはぁああああ!」

「え、ぱくり?」

「去年末に流行ったからさ。やろうと思ったんだよね」

「いや普通に戻るなよ。やりきってよ、ネタはやりきって」

「ジャスティス!」

「そこだけやるなよ! 一番最後だからそれ言うの!」


 バンダナを取ったら目立つほくろのある男だ。冴えないおっさんにしか見えない。


「……え、女神とどういう関係?」

「姪ね。姪。すげえ可愛いんだけどさ、すげえ嫌われてるんだよね。でもいま、女神がスキャンダルで大変っていうからさ。きたわけ。仏の様な心で」

「お前それ、それだけはいうな! 仏とかいうな! マジで! それだけはだめだからな!」

「空前絶後のぉ!」

「ボケが適当すぎて拾えないから! 普通にして!」

「あ、はい、すみません」


 ったく……。


「で。なに」

「えっとね。女神、説明してないと思ったからいいにきたの。タカユキ、人に触れると記憶戻せるみたいな空気になってんじゃん」

「まあ……なってるな。最初えっち縛りだったけど」

「それさ。あれね。ロードしてるわけ。神さま的に説明すると、タカユキがリセットされて元の時間軸に戻ってくる前の、女神が作った世界の記憶をロードしてるわけ」

「……また後付けで思いつきました的な説明きたなあ、おい」

「後付けとかいうんじゃねえよばかやろうがよぉ!」

「ちなみに最初、なんでえっち縛りだったの」

「んー。破壊神がさ。悪さしてるわけさ。わかるでしょ?」


 ちらちらちらちら見ながら聞くなよ、もう。


「一応わかるけど」

「で、破壊神は狙ってるわけさ。いうなれば世界の破壊をね。タカユキが女神の姿に化けた破壊神の言うことに従ってさ。あらゆる女子とやりまくったら、どうなると思う?」

「……女子たちの記憶が戻るんじゃないのか?」

「でもそれ、R-18だぜ? 一応さ、15でやってるからさ、こっちとしては」

「おい! おい、メタすぎるぞ大丈夫か」

「二人どころか三人目の子供もしっかりつくっといて、今更とかいうなばかやろうがよぉ!」

「言ってないから」


 ごほん、と咳払いをしてから神さまは言いました。


「つまり破壊神は怖そうとしてるわけさ。タカユキの今いる世界のすべてをね」

「……いや、破壊って……そういう?」

「脱力してるところ悪いけど、天界はなんとか世界を維持するために総動員なわけさ」

「女神がスキャンダルで出てこない時点で不安しかないんですが」

「一理ある!」


 人を指差すな!


「サポートはするし、タカユキの力は増している。触れたらロードできるっていう力が一つ増えてるからね」

「……ふむ」

「その力を使いこなせるようになれば、恐らくきっと、たぶんひょっとしたら、もしかして子供や新たな世界を取り戻せる……かもしれない」

「可能性さげすぎだろ!」

「じゃあがんばれ! まずはかつての仲間を取り戻すのだ! いけ、タカユキ!」


 どや顔で手を振りながら消えやがった。

 まったく、女神も神も勝手な連中だなあ、おい。


「なんかさー。最初の旅で女神さまを見た時から思ってたんだけど」


 クルルが非常に居たたまれない顔で俯きながら言ったよ。


「あんなのが私たちの神さまなの?」


 俺もクラリスも答えられなかったよね。

 だってその通りだよ、という答えしかないし。

 それってなんというか、妙に脱力を誘うから。

 気を取り直して休むことにした俺たちは翌日、再びエルサレンに向かう。

 辿り着いた入り口の向こうを探ると、ルカルーとペロリがいた。

 俺たちが近づいたことに気づけば、すぐにでも襲ってくるのだろうが。

 さて、どうする?




 つづく。

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