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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第五章 悪魔の薬酒、祭りの準備
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第四十九話

 



 魔王に指定された通りに、あの研究所を翌日訪ねる。

 悪魔の薬酒をもらう、ないしはその話を聞きにいくつもりでだ。

 だが、答えは予想したものとは違った。


「ここにはないし、当分は作れない」


 うそやん。

 白衣にニットのセーター、タイトなスカートというある意味嗜好性のある服装の魔王は気のない顔でソファに身体を預けていた。目のクマは消えてはいないものの、だいぶマシになっている。ゆっくり寝たのだろう。それゆえに悲しいかな、妄言などではなさそうだ。


「……なぜに?」


 クロリアが何も言い出さないから、俺は恐る恐る尋ねた。


「材料が特殊なのか? クラリスが作るような錬金術の素材が必要的な?」

「半分正解だ。材料が特殊なんだ」


 気の進まない顔で遠くを眺める魔王。

 なんだろう。妙に憂鬱そうなんだけど。憂鬱そうといえば、なぜにクロリアは一言も言葉を発さないのか。

 頼りの進行役がだんまりなので、俺は質問を重ねる。


「それで、特殊な材料とは?」

「当代魔王の唾液と、それに反応する薬の混合液だ」

「……なんて?」

「私のつばと悪魔の薬の混合液だ」


 憂鬱な顔で言われた単語に首を傾げる。

 少し考えてみて、だいぶ間を置いてから尋ねた。


「なんで?」

「魔王はどこかしら外れたところがあるものでな。そういう血筋なのかしらないが、昔いたのさ。悪魔の薬の研究をしている時に、当時はやっていた映画の口噛み酒をみて……女性の唾液に反応してできる悪魔の薬を作れないかなって考えた魔王が」

「変態だな」

「否定はしない。で、自分の唾液を使って試していたら、魔王に任命した者が持つ特殊な力と唾液にのみ反応して力を発揮するお酒ができた」

「……それが悪魔の薬酒か」


 真顔で言いはするが、頭の中ではだいぶ脱力している俺である。


「ちなみにその効果は? クロリアから、それをもらうと大騒ぎになると聞いたんだが」

「それを飲んだ悪魔は不思議な力に目覚めるという」

「……過去には液体のスライムが固体になったりした」


 顔を逸らしているクロリアの気のない声に唸る。

 気が進まない理由はあれか。つばか。つばなのか。待てよ?


「悪魔の薬の開発をしていた魔王なら、すぐに作れるんじゃないか? つばにまぜる悪魔の薬はあるんだろ?」

「……………………ない」

「嘘だ絶対うそ、今の間明らかに不自然だもん。ほんとはあるんだろ?」

「…………………………ないってば」

「もうさー。そういうのいいから。な? な? 言っちゃおう。あるって」

「作りたくないんだ」

「そういう本音言っちゃう!? 違うよー違う。俺が聞きたいのはそういう本音じゃないぞー」

「悪魔の薬酒には副作用があってな」

「突然の別情報」

「最初に飲んだものに魔王が無条件に惚れてしまうのだ」

「……ほう」

「魔王をいいようにできるとなれば、覇権争いで忙しい魔界だ。当然みんなが飲みたがる。私が作ってお前に渡したら、きっと無事にピジョウには戻れまい」

「そんなに大人気なの!? え!? え!? 確かに魔王は美人だけれども、その唾液って特定の層にはたまらないとは思いますけれども! いいようにできるってすごい発言だと思いますけども! って、いった!」


 クロリアにスネを全力で蹴られた。執拗に。思わず悲鳴をあげながら離れると、クロリアの顔が歪んでいる。


「姉上をそういう目でみんな!」

「おう……」


 クロリアそういうの嫌いだったか。そうか。それはすまないことをした。


「そうだよな。魔界の実験を握り、力がつくなら確かに飲んでみたいもの――ぶふっ」

「この変態! 姉上まで狙う気か!」


 ソファのクッションを顔に投げつけられた。

 違う。そういうつもりは断じて。割と俺は仲間だけでもう手一杯過ぎますので。

 言えないけど。元の世界ではあり得ない状態なので、決して言えないけれども。


「すまん。俺が悪かった……ただ、破壊神を改心させるために必要でさ。魔王、そこをなんとかたのめないか?」

「いいから! 姉上がつばを出す必要なんてない!」


 ぷんすこ激おこクロリアの言葉に魔王は重々しく頷いて、そして指を鳴らした。

 宙に黒い闇が生まれて、その中から酒瓶がでてきて魔王の手に落ちる。


「妹の言質もとったので、この薬酒をやろう」

「え」


 固まるクロリアのフォローをしたいけど、それ以上に気になることがある。


「お前さっき作れない言うたやん」

「私の悪魔の薬酒は、と言う意味だ。誤解させたならすまない」


 いやいやいや。意図的にごまかしたでしょ。謝る気ほんとは一切ないでしょ。


「あ、あ、姉上? それはいったい、誰のつばの?」


 顔が強ばり震え声を出すクロリアなんて、マジでレアものだ。

 俺たち仲間の前では一切みせない顔を実の姉に向ける妹。

 対して姉は嗜虐的な笑みを浮かべて言いました。


「クロリアが人間世界に行く前、寝ている間にちょちょっと。可愛い妹のすべてが私は欲しいから……作っちゃった。同性の血縁者が飲んでも効果はないんだとわかったよ」

「こ、こ、この悪魔!」

「いかにも」

「魔王!」

「その通り」

「くうううう!」


 顔を真っ赤にして魔王に挑みかかるクロリアだが、妹の後を継いだ魔王は片手で頭を掴んで笑うだけ。

 クロリア……ご愁傷様。


「勇者、ほれ。まずお前が飲めば、あとは誰が飲んでも妹の気持ち以外は問題ない」


 いやそこが一番の問題なのでは?

 ひょいっと放られた酒瓶を受け取る。

 瓶の中で液体が揺れる手応えがした。確かに酒が入っているのだろう。


「渡せ!」


 クロリアが鬼気迫る表情で飛びかかってきた。

 あわてて避ける。人のままでいたら避けられないくらいの速度だった。

 クロリアがちで嫌がりすぎだろ。いや、普通は嫌がるけど。たとえ破壊神が女子だとしても、普通は嫌がると思いますけど。


「さっさと逃げろ。無駄にするなよ、それが最後の一つだ」

「お前が作れば済む話とちゃうんか」

「申し訳ないが、仕事が楽しすぎて今は男に興味がないんだ。それに最近液体歯磨きばかりで歯ブラシをさぼっていてつばに自信がない」

「最悪だ!」


 ツッコミをあげるのだが、クロリアの執拗なアタックから逃げるためには部屋に留まるわけにはいかなかった。

 入り口で控えていた老執事が開けてくれた扉の外に駆け出す。

 クロリアはついてきているのかって? 後ろをふり返るまでもないさ。


「ジ・アブレ・リベラシオ!」


 クロリアの声が追い掛けてくるからな。


「オブスクリテュオ!」


 背後から迫る気配に思わず飛び上がった。

 クルルが攻撃魔法で放つのが閃光なら、俺がいた場所を焼き尽くしたのは闇の炎だった。

 が、ガチで殺しにきている!


「久々に死にたくなければ渡せ!」

「断固拒否!」


 そう言ってはみたものの。


「オブスクリテュオ・ミレ!」


 あちこちから闇の炎が俺の息の根を止めにかかってくる。

 全力で逃げるのだが、マジで騒動ってこれ? クロリア、言ってるお前が騒動おこしてどうするの! アキパのみなさんがぎょっとした顔で俺たちを見てますよ!


「その酒瓶をわたせええええ!」

「目が! 目が血走ってるから! ちょ、一旦落ち着け!」

「わたせええええ!」


 あかんこれ。

 ど、どうすんの! いきなり俺ってば大ピンチなんですけど!




 つづく。

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