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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第五章 悪魔の薬酒、祭りの準備
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第四十八話

 



 思い返してみるに、二番目の旅である悪魔の薬騒動も一番目の旅に負けず劣らず騒動に満ちていたな。なにより魔王との対峙は基本的に黒星だらけだった。

 だから正直に言って今でも緊張する。

 クロリアと二人で魔界を訪ねたのだが、妙に覚えのある国会? 議事堂てきな? 建物に招かれるのは正直居心地が悪い。

 スーツ姿の悪魔や魔物がいるのだが、みんな俺よりハイスペックに見えるのなんでなの……。


「あ! クロリアさま!」


 道の角からやってきた老執事が歩み寄ってきた。

 二番目の旅でたびたび手を合わせて、そのたびに苦汁をなめさせられたあの老執事だ。

 セバスチャンとかいわないよな、名前。


「どうした。姉上は?」

「研究に勤しんでおります。今日もこちらを放っていってしまって、お父上がかんかんです」


 ……ん?


「クロリア、お前オヤジいんの?」

「当たり前だろう……こほん! わかった、姉上を縛る手など誰も持ち合わせてはいないからな。直接行く」

「かしこまりました」


 深々とお辞儀する老執事にまたな、と気さくに声をかけて歩き出す。クロリアの後をついていくと、大勢がクロリアを見るなり老執事のように最敬礼をする。

 それを見ていると実感するな。


「お前は本当に元魔王なんだな」

「何を寝ぼけたことを言っている。それより、きびきびついてこい」

「研究所に行くのか?」

「いや。姉上は自分の本拠地をもっていてな。そこにいると思う」

「……ふうん」


 何気なく返事をしつつ、議事堂から出た。正直ほっとするね。

 領主になって堅苦しい場に出ることが増えたとはいえ、積極的にいたい場でもない。

 元の世界でも大統領を辞めた人が一ヵ月後のプライベート写真で生き生きしてたって聞いたことが……うっ、頭が(ry


「てて……どこへいくんだ?」


 俺の問い掛けにクロリアはふり返って、困った顔で言ったよ。


「アキパ」


 ◆


 まあね。なんとなく嫌な予感はしてましたよ。

 元の世界を思い出すような魔界。そしてアキパときて、ラボだから。

 まさかなあ、と思ったんですが。

 さびれた電気店の二階にある個室の雑然とした感じ。どうかと思うなあ。

 まあ箱に接続された受話器がないだけマシか。

 部屋中を植物が覆い、壁に設置された棚には薬瓶がずらりと並ぶ光景はそれはそれでちょっと落ち着かない光景ですけども。


「姉上」

「……ん?」


 白衣を纏った美貌がふり返る。

 いつもは整った髪が寝癖でぴょんぴょんはねているわ、分厚いぐるぐる眼鏡を掛けているわで……抜けているな。いい具合に気が抜けている。


「なんだ……ん? 今日は何日だ?」

「伺うと約束した日です」

「んん? ……すまん、忘れていた」


 ぼうっとした声で答える様子はいつもとは比べものにならないほど、素だった。


「気が抜けすぎです。その様子、また徹夜を続けているんですか?」

「三日目だ」


 ええええ。


「……服も着替えてないな」


 ちょ。


「横になって寝ていいか?」


 自由すぎるだろ。


「ちょっとクロリア、お前の姉ちゃんだろ。どうにかしてよ」

「……わかってる」


 さすがのクロリアも、姉貴のぼんやり具合にちょっと不機嫌そうだな。


「待ってください。姉上に悪魔の薬酒をもらいにきたんです」

「――……また面倒なものを」


 途端に眼鏡を外して、きりりとした顔を見せる魔王様。

 しかし目元にちょっと引くくらいのクマができていて、なんとも締まらない。


「待って。待って。決め顔しているところわるいんだけど……待って。魔王さ、目。ちょっとさ。顔が締まらないんだけど」

「締まっているだろう」


 ますますきりりとした顔をするんだけど、目のクマがやばすぎる。

 黒いよ。真っ黒だよ。

 あと視線が若干震えているんだけど。よく見たら口元から涎が出ているけど!


「寝て! いいから寝て! 一日寝て、それからにしよう。なんか今のお前から具体的な話を聞くの怖いから!」

「…………」

「魔王様?」

「……はっ」


 顔を震わせた魔王様は仰った。


「寝てないから」

「クロリア! 早く寝かせてあげて!」


 肩すかしを食らわせてばっかりだな! 戦が終わって気が抜けちゃったのか!

 ……やれやれ。


 ◆


 白衣を着たままソファに前のめりに倒れていびきを掻く美女。

 途方に暮れていたら老執事が訪ねてきて、魔王を担ぎ上げて俺たちに何度も詫びて出て行った。なんかなあ。あれなんだろうなあ。


「魔王って残念系美女かなにかなの?」

「ああして面倒を見てもらわないと、下着も履き替えない」

「……それは、また」


 残念な姉をお持ちのようで。


「強いのに、賢いのになんかがっかりしただろ」


 妹の闇に俺は素知らぬ顔で言いましたよ。


「まあ、ああいうステータス? 一部の人には受けがいいみたいだから、いいんじゃないかなあ……」

「じゃあ姉上を抱けるか?」

「そ、それはまた別の話じゃない? 結論が急すぎるというか、突拍子もないっていうか。クロリア、どうした。落ち着け!」

「……誰が言っても治らないんだ。本当の姉上はずぼらで、だらしないんだ」


 うん。なんだろう。うん。


「うまいものでも食べに行こうぜ」

「……うん」


 小さく頷いたクロリアは可愛いと思いました。

 それにしてもこの部屋なんなんだろうね。

 部屋に満ちた植物から生えた花や蔦を見ていると、魔界っていうよりはむしろ人間世界の清廉とした空気を感じるのだが。

 それはまた明日、魔王に直接聞けばいいか。




 つづく。

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