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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第四章 狼姫、ルーミリアの血
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第四十三話

 



 朝、女子達を起こして回る日がたまにくる。

 今日のように何気なく早起きをした日はもちろん、仲間たちの生理的な現象による苦しみの日なんかもそうだ。後者になると罵倒されたり凄く不機嫌な対応をされることもあるから、今日は前者出あって本当によかった、まる。

 ルカルーの部屋を訪ねて、扉をノックしようとした時だ。部屋の中から子犬の鼻を鳴らす声が聞こえるのだ。なぜに子犬。


「おーい、ルカルー?」


 扉を開けると、ベッドの上でルカルーは熟睡中だった。

 ひょっとしたらちびたちの夜泣きに苦しんだのかもしれないな。

 育児において周囲に素直に助けを求めるクルルやクラリスと違って、ルカルーは自分が育てたいという気持ちが凄く強い。だから俺もみんなも気にするようにしているのだが、目元に浮かぶクマを見る限り、どうやら無理したみたいだな。

 寝かせておいてやろう。

 さて、子犬の鳴き声はどこから聞こえるのかな、などと思いながらちびたちを覗いて固まった。

 子供用ベッドに寝転んでいるはずの赤子三人はおらず、ちびっちゃい子犬が三匹うろうろしているだけ。


「……」


 目を咄嗟に片手で覆う。

 くうん、くぅくぅ、わふっ!

 その鳴き声に恐る恐る手を退けてもう一度視認。

 やっぱり子犬のままだ。


「なんてことだ!」


 待って。待って。なんで子犬? なぜに三匹? いや、なんとなくひょっとしたらもしかして、赤ちゃんが子犬になっちゃいましたかける三! みたいな事態が起きているんじゃないかと思っているけど、待って!


「くぁ……あふぅ。お兄ちゃん、ルカお姉ちゃんはまだぁ?」


 欠伸をかみ殺して部屋にやってきたペロリの脇を抱き上げて「ひゃ!?」、赤ん坊三人が眠るためにこしらえたベッドに近づけた。

 子犬三匹のつぶらな瞳がペロリを見つめる。


「か……かわいい!」

「じゃなくて! 予想通りの反応でちょっと安心したけど全然そうじゃなくて! み、み、三つ子が!」

「あー。そういえばそんな時期か」

「そんな時期ってどんな時期!? え! 狼って時期が来たら獣になっちゃうの!?」

「お兄ちゃんだって昨夜はクルお姉ちゃんとお楽しみだったよね」

「半目で言わないで! 睨みながら言わないで!? 怨念こもってて怖いから!」

「まあいいけど。そりゃあペロリたちもルカお姉ちゃんも、レオやルナにもいろいろあるよ」

「いろいろあるんだ! いろいろあるんだ!」


 でも待て。


「レオやルナにはこんなイベント発生しなかったぞ!」

「お兄ちゃん仕事で忙しすぎたのに、レオやルナが天使や悪魔になったところ見たら倒れちゃうでしょ。心労で」

「……」

「ほら。ぐうの音も出ない」


 ぺ、ペロリどうした。今日のお前コハナ並みに手強いんだけど。


「とにかく半日もしたら落ち着くと思う」

「……ど、どういう現象なのでしょうか」

「身体に宿った力が制御できなくて、身体にでちゃうの。ペロリの種族は特に大変なんだよ? ルカお姉ちゃんたち狼さんは可愛いからいいよねー」


 おいでーと子犬三匹を抱き上げて微笑むペロリ、妙に似合う絵面だな。


「ペロリたち本気を出せば獣にだってなれるんだよ?」

「三作目にして意外すぎる新事実!」

「なんのこと?」

「いや……なんでもない。思わず突っ込んでしまった、俺としたことがコハナや女神みたいなネタを……」

「よくわかんないけど。かわいいから大丈夫だよ」


 なにその宇宙の真理。それでいったらお前は永遠に大丈夫そうだな。

 はふはふはふはふいって舌を出している三匹を見たら頭痛がしてきた。

 獣になれる、か。

 勇者の力を全力で使った時の全能感は忘れられるものじゃない。

 あれが獣になるということなのか。この世界の人間の力が強いのは俺も理解しているが、まさかなあ。みんなも獣になれるのか。

 でも、たとえばルカルーは壁を疾走することができる。ナコの身体能力だって抜群に高い。なによりペロリがまず強い。

 なら……まあ、獣になれるくらい、おかしくはない……のか?

 うーん。


「お兄ちゃんもせっかくだから撫でてあげてよ」


 はふはふいってる子犬たちが無垢な瞳を俺に向ける。

 それを見ていたらなんだかもうどうでもよくなってきたので、手を伸ばしました。

 がぶっとシラユキらしき子犬に噛まれます。


「ああああああああ!」


 叫ぶ俺にすかさずペロリが治癒の奇跡を使ってくれました。

 し、しかしなぜに! なぜに噛まれるの。


「お兄ちゃん、ユキちゃんに指出しちゃだめだよ」

「……ユキちゃん」

「ちゃんと娘のことみてる? いい? ユキちゃんは指を見たら口にくわえたがるの」


 あの幼いペロリが先生のように俺に教えてくれている……。


「ツキちゃんは頭を撫でられるのが好きなんだよー?」


 片腕で三匹を抱いて、右端の子犬の頭を撫でた。するとどうだ。撫でられた子犬の顔が至福に蕩けるじゃないの。


「カレちゃんはのんびりやさんだから、ほら」


 うとうとしている子犬にペロリが頬ずりした。

 俺よりもよほど個性を把握している……!


「だめだよ、のほほんとしてちゃ」


 パパなんだから、と微笑むペロリには勝てません。

 大人しく頷いて、ふと気づいてベッドを見たんだ。

 ルカルーはとっくの昔に目を覚まして、俺たちを優しい顔でずっと見守っていたよ。




 つづく。

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