表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第四章 狼姫、ルーミリアの血
41/76

第四十一話

 



 俺は宵闇の中を駆けていた。

 満月が照らす夜のピジョウ。建物の屋根伝いに走って逃げる男達がいる。

 厄介なことに人間世界と魔界のはみ出し者が手を組んで、子供をさらうわ違法薬物を横流しするわで大暴れだというではないか。

 あまりに直球の犯罪組織すぎる連中について、明かしたら俺が大暴れするし凹みまくるだろうからとクロリアが秘密裏に処理しようとしていたのだが、だとしたら領主の館で内緒話をするもんじゃない。たまたま聞いちゃうかもしれないだろ? まあ実際その通りになったんだけど。

 夜の訓練でもしてくる、といってクルルからパンツをもらい外出。なぜか、いやいやそれとも案の定なのか俺の意図を察知したコハナと二人で連中のアジトに潜入。俺と違ってコハナはクロリアから情報共有を受けていたからな。おかげで迷わずにこれた。

 さて、改めて前を睨んでみよう。

 背中にコウモリの羽根を生やす男と片目が潰れた狼男が逃げている。

 脚力なら連中の方が何倍も上だった。だから俺は躊躇わず、勇者に与えられた力を使って獣となって追い掛けるので、引き離されることはない。

 なにより行く先々から奔放に飛び回るコハナが現われるから、連中の行く先が袋小路になるのは時間の問題だった。


「観念しろ。残すはお前たち二人だけだ」


 クルルのパンツを巻き付けた右腕を前に伸ばす。

 念じて取り出す龍さえ殺す大剣の威力を試すべきか、いなか。

 答えを出すべき男達は二人揃って、捨て鉢になった者特有のネジの外れた笑みを浮かべて構えた。


「勇者さま」

「いい、俺がやる」


 宙に取り出した大鎌を浮かべ、それに腰掛けたコハナに告げて。

 躍りかかってきた男達に一撃を食らわせた。たまのシリアスはそれで終わりを告げたのである。

 気絶した男達を見下ろして大剣を消し、ひと息ついた俺の頭をコハナが撫でることでな!


「よくできました」

「お前は俺の何になりたいの」

「ママ?」

「やめてくれ。そういうラノベが出てそうだけども」

「そうですねえ。それより、あのう……言いにくいことなんですけどお」

「なんだよ」

「えいっ」


 コハナが俺の頭の上あたりをきゅっと握った。瞬間、痛みが走って思わず声を上げる。

 戸惑う俺のお尻にコハナが手を伸ばした。そして撫でるのだ。俺のけつの先を。

 けつの先ってなに、と思いながらふり返ると……ええと。


「尻尾、生えちゃいましたね」

「……まじで?」


 揺すってみると、俺の意思に応じて俺のケツから生えた尻尾がぱたぱたと振られる。

 ……ええと。え? え? 嘘やん!


「なんで! 尻尾なんで!」

「たっのしー。すっごーい、とか言えばいいんですかね」

「目をそらしながら適当なこと言わないで! コハナならなんか知ってんだろ!」

「勇者の力を使いすぎると、この世界に順応してしまって……それ、その通り。獣になります。コハナもそうでした」

「……まじかー」


 割と早かったな。もっとこう、血湧き肉躍るバトルの末になるとかでもよかったのよ。

 まあ破壊神を虫に戻した俺たちに待ち受けてるバトルなんて今のところ祭りの合戦くらいで、それはまだまだ先の話ですけれども。

 まあいいか。日々の仕事の過熱ぶりはもはや魔王討伐よりもしんどいレベルになってきたもんな。はははは! 笑ってやってくれよ……。


「どうして目が死んじゃうんです?」

「いや、毎日大変だなあと……つうか、俺はどの獣になったんだ?」

「んー」


 コハナがしげしげと頭の上の獣耳と尻尾を眺める。それから横髪を撫であげて俺の人間としての耳を撫でた。


「二つ耳が生えてるの受けますね」

「もはや化け物なのでは」

「まあまあ。そのうち退化して、かたっぽなくなりますから」

「なくなるの!?」

「そこはあまり掘り下げなくていいんじゃないですかねえ」


 適当かよ!


「見たところ犬科ですねえ。案外、狼だったりして」

「お前までルカルーみたいなこと言うのな。なぜに狼」


 ルカルーの言葉は嬉しかったけど、俺自身はあんまりぴんときてないんだけど。


「んー。自分の矜持を持っていて、しゃんとしているところ? 勇者としての雄々しさとか……そういうところですね」

「……」

「あれあれ? 顔赤くして。照れちゃいました?」

「うっせ」


 にやにや笑顔で顔を覗き込んでくるコハナのおでこにチョップしてから俺は一息吐く。


「まあ生えちまったものはしょうがねえ。それよりもこいつらとアジトの連中をどうにかしないとな」

「切り替え早いですねえ。まあそこも大好きだからいいですけど」


 ちょっとひとっとび、館に行ってきますね。

 そう言って飛び去るコハナを見送り、のびてる男達を見下ろした。

 人間世界の奴らは基本的にただの人間でいる俺よりも力強く、俊敏だ。

 ならば獣耳と尻尾が生えた今の俺もそれに近づいたのでは? そう思い立ち、男達の首根っこを掴んで引っ張ってみた。

 するとどうだ、ひょいっと軽々持ち上がるではないか。

 すげえな。これはあれか。勇者の力、常時開放バージョンとかそういうことなのか。

 魔王との対決がないからって女神が最近出てこないから聞くべき相手がいないのが悩ましいところだが、まあ……コハナがいるからいいや。

 女神が出てこないということは平和の証のようなものだしな。

 それにしても。


「狼か」


 クルルに怯えられたりするんだろうか。それを思うとちょっとおかしい。

 ルカルーの言うとおりになったな。あいつが喜んでくれるのなら、悪くはないのかもしれない。




 つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ