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第三十四話

 



 お風呂習慣政策を実現するべく動き始めたクロリアたち。

 住んでいるみんなへの宣伝告知のためにイメージキャラクターになったペロリの写真つきポスターがあちこちに張り出された。

 だがそれだけじゃあ普及率があがるわけもなく。ペロリのポスター盗難事件なんてのも起きるから頭が痛いのなんのって。

 やっぱりテレビで宣伝流せないの痛いな。それにテレビ局がないのも苦しい。

 なにせ共和国のテレビの視聴率めっちゃ高いからさ。

 テレビ局ないしCM流せれば一気に広められると思うんだけど。

 魔界のテレビ局の放送枠にもらうほどの財力もねえし、かといって使える手段を放置しておくのももったいない。

 そうなってくると、だ。


「ほらほら。やっぱりテレビ、どうにかしたくなりません?」


 嫁が元気になってくる。

 みんなで食事中なんだが、すっかり元気になった連中は我関せず食事に夢中である。それもそのはず、グスタフが新作料理を作って持ってきてくれるようになったのだ。これがまた実に美味いのだが、それはそれ。


「わかってるわかってる、クルルの意見はそのどや顔を見れば聞かなくてもわかる」

「い、言わせてくれてもいいかな!」

「だめ」


 なのでそっと釘をさしておいて。


「なあクロリア。局を運営するお金がないからボツにしたよな?」

「ああ」


 仰るとおり、と頷くクロリアにクルルが歯がみする。ぐぬぬ、と。

 それを眺めているつもりもないので咳払い。


「こほん……なあ、なぜ運営するのにすごい予算が必要になる?」

「それは……放送を発信するだけの電波塔がない。その設営・管理する費用がいる。局を作ればそこで働く奴らのお金をまかなう必要がある。どれもただでとはいかないんだ」


 クロリアが予算に関係する話を一つ話す毎にクルルの顔が悔しそうに歪んでいく。「う、うう……」

 お前そんなにテレビ局やりたかったんか。

 なら一肌脱いでみますかね。


「電波じゃなくても放送を実現する手立てはあるんじゃないか? 費用だって削減すれば十分実現可能だと思うんだが」

「タカユキ……!」

「……聞こうじゃないか」


 顔を輝かせるクルルを横目にクロリアが居住まいを正した。


「いきなり魔界規模のテレビ局を作るのは難しいと俺も思う。だから規模をうんと小さくして、ささやかな放送から始めるんだ」

「電波塔はどうするんだよ」

「思うに、魔法使いが使う映像通信。あれでなんとかできません?」

「――……ああ」


 俺の発言に、なるほど、と唸るクロリア。

 対してクルルの顔が引きつっていた。


「ま、待って。待って、タカユキ。え? それって? つまりあれ? 私が頑張って魔法を使って、地道に各ご家庭に放送をお届けしろ、と?」

「やりたいんだろ? テレビ局」


 ならいいじゃん、という俺にクルルが小さく頭を振る。


「ち、ちがくて。私はその、テレビ番組作るのとか、キャスティングとか、そういうのをやりたくて――」

「あのな! そういうのは大きくなってからにしなさい! 千里の道も一歩からっていうだろ」

「う、ううう。ここへきて東の国の言葉を使うなんて卑怯だよ……!」

「放送から何から責任持つってんなら、俺からミリアさんに予算を組んでもらってもいいぞ?」


 俺の発言にみんなの視線がクルルへと集まる。


「クルお姉ちゃん、お風呂習慣の宣伝作ってくれるの?」

「それだけじゃない。番組から何から一から作ってペロリをプロデュースしてくれるってさ」

「ちがっ、ま、う……」


 ふふん、と笑うナコにクルルが口を開く。だが言葉が出てこないようだ。


「ピジョウにもテレビで放送されるの!? ペロリデビューなの!?」

「う、う……うん」


 ペロリがきらきらした顔で見つめるから、さすがのクルルも逃げたくても逃げられないのだろう。

 ざまあないな。やれやれだ。


「……じゃあ……がんばります……」


 お前落ち込みながら言うところじゃないからな。


「地上から来て仕事を探している魔法使いの皆さんにも就職先が無事に見つかりそうですね」


 ほくほく顔のクラリスがなにげにちゃっかりしている件。

 そんな中、食事を食べ終えてコハナの煎れたお茶でひと息をついたクロリアが呟く。


「前回の旅で作った試作重機とは別で、魔法を動力にしたテレビの開発か。それなら……開発してもいいかもしれないな」

「充電サービスとかすれば料金も徴収できるのでは?」

「コハナ、それいただきだ」


 死神少女の提案に頷き、立ち上がってクロリアが風を切る勢いで食堂を出て行った。

 ナコが続いて、ペロリと二人で出て行く。

 ルナとレオを抱いたクルルとクラリスが後に続いた。

 いつもなら颯爽と誰より最初に出て行くのはルカルーなのだが、彼女は身重な身体で椅子に座ったままである。


「……みんなが、がんばってるのに。ルカルー、なにもしてない」

「お前は元気な子供を産むのが仕事なの」


 席を立って食器の片付けを始めるコハナの手伝いをして、ルカルーを部屋へ連れて行く。

 あんまり閉じ込めるのもよくないんだけど、こいつの場合跳んだり跳ねたりせずにはいられないんだよなあ。さすがに妊婦にそれをさせるのもどうなのよ、一応ルカルーってルーミリアの姫なんだぞ……ということになるので、部屋にいてもらわないと困るのだ。

 それがあんまりいい結果に繋がってないんだよなあ。基本的にアウトドアなタイプだからな、ルカルーは。

 しょうがないな。


「クルルの番組、ルカルーもなにか面白いの考えてみてくれ」

「……がう」


 ベッドに腰掛けさせたルカルーの頭を撫でながらお願いすると、こいつは案外素直に言うことを聞いてくれるのだ。

 さあ、気持ちを切り替えて仕事していこうか。

 ミリアさんにテレビ局の話をしないとな。彼女の反応が今から怖いよ、やれやれ。




 つづく。

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