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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第一章 再びのスフレ、動乱リスタート
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第二話

 



 ルカルーと出会うためにも、クルルとクラリスに指定された最初の村を目指す。

 その道すがら、やはり盗賊が出現した。


「……この先へは行かせない」


 顔中を包帯で巻いた不気味な男だ。

 いつもはどこか抜けていたり、おかしな連中が出てきてはコントを繰り広げて立ち去るだけだったのに、こいつにはそんな気配が微塵もない。

 いわばガチだ。ガチ勢だった。

 やはりおかしい。まるでこの世界のシステムそのものが狂ったかのようだ。敢えて言うならば、コメディー路線からシリアス路線へ変更したかのような狂い方。

 盗賊一人で考えすぎか?


「俺の名はシュン。アンタ、最強の匂いがするなあ……倒してやるよ!」


 掲げられた盗賊の剣が炎を纏う。


「た、タカユキ!」

「任せろ!」


 クルルが投げ渡してきたパンツから、俺の力で大剣を出した。

 盗賊と打ち合う。激しい剣戟、飛び散る火の粉、こんなの最初の旅ではあり得なかったバトルだ。やはりおかしい――……。


「戦闘中に考え事とは余裕だなァ!」


 腹部を蹴り飛ばされてよろめきながら身体を起こす。

 眼前に剣が迫っていた。


「取ったァ!」

「リュミエイレ!」


 迫る盗賊をクルルの魔法が遥か彼方へ吹き飛ばした。

 荒い呼吸を繰り返しながら、クルルと顔を見合わせる。

 見ればクルルの瞳にハートの紋様が浮かび上がった。

 互いに顔が強ばる。


「状況、整理……んっ」


 鼻に掛かった甘い声を出して自分の身体を抱き締めるクルルに内心で俺は毒づいた。

 そうだ。最初の旅で、クルルはその身に刻まれた呪いと戦っていた。


「や、ぁ……んっ」


 クルルが身じろぎする。両手は足の間へと伸ばされた。

 抱き上げて、急いで王都へ戻る。

 宿の部屋を急いで取って、ベッドへ下ろした。

 その途端にクルルが俺の首をかき抱いて口づけてくる。割り入れられた舌の余裕のなさも、しかたない。スカートの内側、彼女の秘密に触れる。濡れていた。

 間違いない。クルルは発情している。

 呪い、それは――魔法を使ったら発情してしまうというもの。

 溢れんばかりの魔力を授かるために刻まれた、呪い。

 クルルの求めに応えながら思う。

 どうやらこの度、ただの焼き直しとはいかなそうだ。だって、前の旅よりもクルルは俺を夢中で求めてくるし、強い盗賊まで現われた。この段階に至って、女神も現われていない。

 状況を整理しなければ、みんなの記憶を取り戻す以前に出会うところまで至れなそうだ。

 俺はクルルと繋がりながら、途方に暮れるのだった。


 ◆


 裸で気絶したように眠るクルルの背に触れて、真夜中の部屋でため息を吐く。


「女神。なあ、おい。いるのか? いないのか?」


 呼びかけてみる。さすがに最初に出会った頃の状態に戻っているだろうと思いながら、しかし世界の案内役であり調停役も務めてくれた彼女がいるのといないのとでは冒険の難易度に天と地ほども差ができる。

 果たして。


「……えー。リハ中です。リハ。えー……こほん。んっんー!」


 空に光と共に女神が現われた。


「おい! おい! うつってんぞ」


 俺の呼びかけに女神が俺を何度も見た。


「いや、それ何度見なんだよ。二度見ですらねーよ……とかいう空気でもねーから。なあ、おい」

「あんた誰」

「えええええ」


 ショッキングな一言に思わず唸る。

 俺の声にクルルが身じろぎして、身体を起こした。

 そして女神を見て事情を察したのか、俺の手を握ってくる。


「なあ、おい。女神、」

「ちょ、ま、待って。呼び捨てやめろ、おいそこの男、呼び捨てやめろ」

「いや、そこの男って。お前が呼んだ勇者だろ」

「お前のことなんか知りませんーっ! 女神はこれから勇者を召喚するところですーっ!」

「……は?」


 固まった。さすがに、固まらずにはいられなかった。

 クルルもどうしていいのかわからず、俺の顔を見つめている。


「待った。どういうことだ?」

「だから、女神はこれから勇者召喚の儀式を始めるところなんですーっ! お前のことなんか知りませんーっ! ……え? なに? 召喚する人と顔がクリソツ? お前まさかそんな――……」


 あらぬ方向を見て誰かと喋る女神が、不意に俺を凝視してから呟いた。


「ほんまや」

「いやだから、俺が勇者だって」

「なんでいんの? え? え? なんでいんの? 女神、夢遊病になって呼び出してた? 忘れちゃうくらい女神ってば長生きしてた? くそ長生きしてた? え、ぼけた? 女神ぼけちゃった?」

「いーから! 俺の話を聞け!」

「えー」

「なんで嫌がるんだよ! いいから聞けよ! 話を!」

「しょうがないにゃあ」


 ああもう。相変わらずのペースだな。女神が路線変更しないのはおおいに助かるが。こいつが路線変更したらもう、俺の逃げ場はなさそうなので、どうかこのままでいて欲しい。


「つまり、だな」


 説明した。

 未来から俺はやってきたこと。元々女神に召喚されて、魔王を倒す旅に出て無事それを成し遂げたこと。再び魔王が現われて魔界と人間世界の和平を取り持ち、女神が作った新たな世界で理想郷となる国を立ち上げたこと。その国がどういうわけか崩壊の危機を迎え、天界でごたごたが起きたせいなので俺は過去へ飛ばされたこと。


「よくわかんないんだけどさー。天界でもめ事起きることと、タカユキを過去に戻すことと関係なくない?」

「……あっ」


 確かに。


「タカユキが会ったの、ほんとに女神?」


 嘘やん。え、そう見えましたけど。違うの?


「世界で何らかの異常が起きてるっていうけど……え? 起きてんの? マジで起きてんの? えええ、言ってよぉ」


 女神がまた虚空に向かって話しかけた。

 ふんふんと頷いてから、女神は渋い顔に。


「起きてんのね? 人間世界と魔界どっちにも? ちょっと言ってよー、早くさー。大事なことじゃーん。え? 時空の歪みがあるって? その中心地点は……」


 女神がちらっと俺を見て、なるほど、と頷いた。


「タカユキなんだってさ。タカユキが時空の歪みなんだって」

「えー……」

「特異点とかなんとか、よくわかんないフリップ出されても女神説明できないよー。むつかしいことわかんないからさー。もっとわかりやすい単語だしてよー」


 誰と話してんだよ、と突っ込む気力も湧かない。


「タカユキが会った未来の女神、ちょっとおかしい? 本物じゃない可能性も? 天界がやばくて人間世界が滅んだかも? 誰かがリセット装置を発動させたかもって……? やだこわい! そんな未来がくるなんてとても思えないけど、あは!」


 何も考えてなさそうな顔で笑っている女神を見ると、俺も天界はもっとお気楽なところのように思えるよ。


「あーでも。え? 未知の世界から襲撃を受けるか、天界の誰かが乱心したら? その限りでもない? リセット押すか、押された可能性もある? こわいねー、おっかないねー」

「なあ、おい。おい! 俺はどうすればいいの」

「あ、ごめんごめん。天界のこととか、タカユキの元いた世界やあれこれについてはこの女神がなんとかするよ。絶対にね? だから大船に乗ったつもりでいてよ!」


 どんと任せろ、と胸を叩く女神に頷く。とても頼りになるようには見えないが、しかし女神であることには違いない。

 信じるしかないし……案外うまくいきそうな気もする。この女神が約束を違えたことはないから。


「未来から来たタカユキ。お前がこの世界を救わなければならない。二度目の旅となるだろうお前だけでなく……え、なに? 世界そのものもつよくてニューゲーム状態? うっわ! バグみたいなのが世界で起きてるの? 怖いね、大変だね!」

「危機的状況を笑いながらさらっと言いやがった」

「でもまータカユキはすげーから、すげー力を使ってすげーなんとかがんばってくれれば、すげーなんとかどうにでもなると思うわけ」

「ちゃらちゃらした言い方すんな! しっかり話してくれよ!」

「ぶー」


 くっ……忍耐力だ。俺、耐えろ……こいつはこんな奴だったじゃないか!


「かつての知り合いにタカユキが接触すれば、きっと世界はゆるやかにざっくりと修復されるであろう」


 ゆるやかにざっくりなんだ。もうちょっとはっきりしてくれていいのよ。


「そうすれば真の敵とまみえるのも、そう遠くない未来になりそうだ。つまり、なにが言いたいかっていうと、最初の旅を思い出しつつがんばってねん」


 くっそう、軽いなあ。


「ちなみにかつての知り合いに接触って……えっちである必要性はあるのか?」

「女神あんまりハーレム好きじゃないんだよね。だから否定はしない代わりに推奨もしないし、その必要もないよ」


 そういえばそうだった。こいつはこういう奴だった。


「止めもしないけどね? タカユキがいまいる人間世界って、産めよ増やせよっていう世界になってるの。タカユキの産まれた世界の人たちよりも、この世界の人はとびきり頑丈だしさ。文化水準とか諸々の事情からさ、ちょっと常識違うんだよね」

「あー……」

「元の世界で同じ事したら速攻で捕まると思うけど、それは鬼畜の所業になると思うけど、でもこの世界にいる限りはおっけーだよ。合意をちゃんと取った上で、女子に乱暴はしないで欲しいけど」


 そういえばペロリと……俺から見たら明らかな子供とする時によく言われたな。

 頑丈だし、ペロリの種族はこれくらいの年で普通にするって。


「だからタカユキがえっちしたいなら止めないし、未来でやっちゃってるんなら敢えてしない理由もないとは思うけど。下も勇者か。タカユキ、下も勇者だったのか。やっるぅ!」

「女神が下ネタ言うなよ」

「えへ!」


 かわいこぶりやがって!


「じゃあそんなところかな。あっ、勇者の力についてはタカユキの認識通りだと思うけど、どこかにタカユキの世界と天界をはちゃめちゃにした、とーっても悪い奴がいると思うから気をつけてねんねんねん……」

「あっ! まっ――……たないよな。くそ、いつも通り、一番大事なことを去り際にさらっと言いやがって」


 しょうがねえなあ、もう。


「どうするの?」

「みんなと再会して、クロリアを説得する」

「最初の旅と……じゃあ、一緒かな?」

「ああ。できれば前の旅の流れをなぞりたい。ひょっとしたら敵も前の旅についてわかってて妨害してくる可能性があるから、気をつけなきゃいけないが」

「うん……」


 クルルはとても不安そうだった。

 そりゃあそうだ。俺も不安だし。

 強くてニューゲームって、基本的に同じ事をなぞれば強い状態になってるから楽勝でクリアできるシステムなのに……ひょっとしたら、今回の敵はそれすらも悪用している可能性がある。

 敵から何から強くなってるとか、あんまりすぎるだろ。


「女神様の言葉からすると、今日ってタカユキがこの世界に来る前の日なのかな?」

「っぽいな。厳密には、明後日から旅に出る流れなんだろう」


 どうしよう、と困り眉になるクルルを抱き寄せる。


「行くしかない。ルカルーを仲間にしに行こう」

「クラリス様もすぐ仲間にした方がよくない?」

「不確定要素だらけだ。できれば前の旅と違う行動を取って、不確定要素を増やしたくない。クロリアも敵に回せば恐ろしい魔王だからな、スフレの状況は動かしにくい」

「……パパとママに助けを求める?」

「それは……」


 どうしようか悩んだ。

 スフレの国防に携わっていると言っても過言ではない二人の協力を得るのは手だ。

 そして二人に手を借りるなら、クラリスに記憶を取り戻してもらって万全の体制で挑むべきだとも思う。

 ただ前の旅をなぞるか、それとも……。


「敵は現状、二つの勢力に分かれている」


 言葉に出して、曖昧な考えを具体的に変えていこう。

 状況を整理する。


「未来の世界をめちゃくちゃにした奴だ。状況から考えるに、俺が出会った女神は女神でない可能性すらある」


 言葉にしてみると、恐ろしい。

 世界の土台、根幹を揺るがすほどの大事件だから。


「考えも手段もまるで読めない、とびきり危険な相手だ。もしかしたら、俺がここにいることすらもそいつの思惑の内かもしれない」


 話せば話すほどにぞっとする。どれだけの脅威と向き合っているのかを認識して。


「そんな奴の相手ってだけでテンパるのに、もう一つの勢力としてクロリアがいる」

「スフレとルーミリアを追い詰めた、魔王……私たちの未来の、大事な仲間」

「ああ。クロリアの対策は……最初の旅と同じ行動を取ることで取れるはずだ。けど、」

「見えない、謎の敵……女神様に化けたかもしれない、敵は」

「何をしてくるかわからない」


 クルルの視線に頷く。

 こうして整理してみると、なるほど。


「最初の旅と同じ行動をなぞるだけじゃ、足りなそうだな」

「謎の敵が何をしてくるか、わからないもんね……」


 二人でうなずき合う。


「やっぱりクラリスの記憶を戻そう」

「わかった。パパとママもだね?」

「ああ……ん?」


 動き出そうと思ったら、クルルが俺の身体にしがみつくように抱きついてきた。

 なんだろうと思いながら腰を引き寄せ、くっつきあう。


「どうした?」

「……ルナはどこいっちゃったのかな」

「あ……」


 その悲嘆に返す言葉なんて、咄嗟には思いつかなかった。


「レオは? 共和国やみんなは? あのお祭りや……私たちががんばって積み重ねたすべては、戻ってくるのかな……」


 クルルを抱き締めて、囁く。


「だいじょうぶだ。絶対に、戻ってくるさ」


 強くてニューゲームっていうのは、経験と記憶しか引き継げない。

 ……本当に?

 頭が痛むだろうけど、思い出せ。元々俺が産まれた世界での知識を。

 確か、武器や防具を引き継げたりするゲームがあった。

 女神のあのノリを見ろ。いかにも同じシステムをこの世界に反映してそうだ。

 なら……きっとどこかに俺たちの国は、世界はある。そう信じよう。

 ルナとレオだって、絶対に戻ってくるさ。


「大丈夫だ。女神の太鼓判があるんだから……世界の創造主を信じろ」

「うん……」


 クルルの不安を抱き締めながら、決意する。

 俺たちの世界を、すべてをぶちこわした奴は許さない。

 絶対に正体を暴き、ケジメをつけてやる。

 もちろん、俺たちの――……共和国の流儀でな。




 つづく。

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