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第十五話

 



 くさった勇者Aが現われた。

 くさった勇者Bが現われた。

 くさった勇者Cが現われた。


 …


 くさった勇者FFが現われた。


「勇者多すぎじゃない? まだ増えそうだけど」


 顔が引きつる俺にコハナは厳しい顔だ。


「ちょっとこれは……まずいです。彼らは、」


 俺に迫真の顔で説明しようとしたコハナだが――


 くさった勇者たちの攻撃!

 計測不能のダメージを食らった。

 勇者たちは死んでしまった。

 で、


「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」


 ふと気づいたら、城の広間で俺をカナティアが落ち着かない顔で見ていた。

 もうね。敵多すぎて何をどう食らってどう死んだのかもわからないよね。

 そっとふり返ると、棺が五つ。クルル、クラリス、ルカルー、ペロリ、コハナ。

 あわててクルルとクラリスの棺を開けたら、レオとルナがいる機械はちゃんとありました。二人とも無事だ。危ない危ない。

 にしてもだ。


「……待って。待って? あれ? 今までずっと教会に戻されていたのに、なぜにスフレ王国王都のお城に戻ってきたの?」

「し、しりませんわ! わたくしに聞かれても! 気がついたら不思議な光と共にあなたと棺があらわれたのです!」


 俺の問い掛けにカナティアは慌てて頭を振った。

 まあ、でも、そうか。そりゃあそうか。なるほど。ワープしてくるのか。そうか。

 そのあたりの理屈は女神でなけりゃわからないだろうし、女神に聞いてもざっくりとした説明しか返ってきそうにないのがなあ。何度も聞いてれば教えてくれるんだろうが。

 それよりも、だ。


「なんか……1とか2とか3を思い出すな」

「なんのお話ですの?」

「なんでもないんだ。こっちの話だ」


 4以降だっけ。それとも5だったっけ? 教会に戻されるのって。

 それもさておくべきだな。えーっと。待って。


「今からルーミリアに戻らなきゃいけないの?」

「で、ですからわたくしに聞かれても」


 戸惑うカナティアを見て、俺は一度頬を強めに叩いた。

 落ち着け。不満を言っても始まらない。急いで戻らなければ、街が大変なことになる。

 というわけでまず体勢を立て直す意味でも生き返らせなきゃいけないのだが。


「ふん、ぬぬぬぬ!」


 コマンド 引っ張る。

 無理だ! 女子五人の重さを舐めてはいけない……!


「くっ……圧倒的力不足!」


 筋肉番付のマッチョなゴリラみたいになれれば或いは引っ張れるんだろうが、俺一人では無理。絶対に、無理!


「お義兄さまの情けないところなんて、見ていられませんわね。ネイトたちを呼びます」

「……ほんとすみません」


 義理の妹に頭があがらない勇者がいるよ。ここに。


 ◆


 中途半端に生き返らせてもらった仲間たちの動物モードを引き連れて街の外で経験値を稼ぎ、無事に人の姿を取り戻してもらった。

 というわけで、


「戻るか」

「いや、返り討ちでしょ。一瞬で殺されたのにすぐ戻ったって、状況は変わらないかな」

「ぐう」


 クルルの的確なツッコミに何も言い返せない俺です。


「コハナ、あの腐った死体たちを倒せますか?」

「クラリス様、残念ながら難しいです……腐ったとはいえ、タカユキさまと私のように彼らもまた世界を救った特別な力を授かる勇者ですから」


 頭を振るコハナに重たい沈黙が下りる中、機械から出されたルナとレオがじぃっと見つめる人がいた。


「だう!」「あぅ……」

「ん? なあに?」


 二人の赤ん坊に手を差し伸べた、視線を浴びた少女はペロリだった。

 俺たちの仲間であり、聖女のペロリなのである。


「ペロリ……浄化とかできないか?」

「え。えっと、ゆーしゃあいてにするの? そういうのは、ペロリよくわかんない……」


 ま、まあそうだよな。

 腐った勇者を成仏させるなんて、限定的だもんな……そんな奇跡があるんならさっさと使えよ、という話でもある。


「……待ってください?」


 はっとした顔でペロリを見つめるコハナに、ペロリの顔が引きつった。

 嫌な予感がしたのだろう。そしてそれは、


「悪魔になった勇者さまを浄化したように、もしかしたら……同じ事をすれば浄化できるかもしれません」


 真っ先に浮かんだ行為をひとまず横にさておいて、俺は机の上に両手を組んで尋ねた。


「聞こう。どういうことだ」

「女神の力によって霊体として留まる彼らは、おそらく破壊神の手に落ちたであろうナコ様によって操られています」


 まるでネクロマンサーですね。


「根源は破壊神による、世界を滅びに導く力。対するペロリ様は世界を救いに導く女神の力がこの世界の誰よりも宿っています」


 涙目になってかぶりを振るペロリ、言葉もなし。


「なので、ここは全員におしっこをかければ倒せるはずです」


 その場にいた全員がごくりとツバを飲み込んで、一人の幼女を見つめた。

 彼女は涙を流して叫んだ。


「もうやだ! ペロリまるでへんたいさんだもん! だいたいそんなにおしっこでないよ!」


 確かに!


「く、クルおねえちゃんが、まほーつかえばいいじゃない!」

「え、えと……広範囲で一斉にブチ倒すとなると、街や土地に被害がでちゃうかなあ」


 さっと顔を背けるクルルの顔には自信がなさげ。


「クラおねえちゃんが、れんきんじゅつのくすりでどうにかすれば!」

「ざ、材料が……ないですね」


 目が泳ぐクラリスの言葉に嘘はないだろう。


「る、ルカおねえちゃんがたおせば!」

「……さっき、瞬殺された。タカユキとコハナも」

「うううう!」


 唸るペロリの目がどんどん潤んでいく。

 そりゃあそうだ。山ほどいる腐った死体たちにおしっこを浴びせろ、というのだ。

 紛れもなく変態の所業である。


「ほ、ほかにてはないの?」

「あれば話しています」


 確かに。ただコハナ、今この状況下でどや顔をしながら胸を張る必要性はないのでは?


「で、でも……ペロリそんなにおしっこでないよ……」


 俺たちはペロリに何を言わせているんだろうね!


「て、てんしのクルおねえちゃんとルナのおしっこは?」

「ふぇ!?」


 飛び火した。幼女が切羽詰まって巻き添えにする道を選んだ。


「ちょ、ちょちょちょちょちょ、待って、待って待って待って! なんで私とルナの名前が出るのかな!?」

「クルおねえちゃんてんしさまなんでしょ! なれるんでしょ! ならいけるでしょ!」

「う、う、うううん……」


 ペロリの迫真の顔にさすがのクルルも唸りながら引っ込む。

 救いを求める顔をする筆頭魔法使いの願いを、死神は笑顔で断ち切った。


「いいですね。ルナ様はタイミングが取れる保証がないので、クルル様とペロリ様のお二人でお空に浮かび、心地よく放尿していただきましょう」


 ……わけがわからないよ。

 それで救われる街って大丈夫なの?

 ずうん、と落ち込むクルルと最悪の事態を避けた気になっているペロリ。

 申し訳ないけど、ペロリ。お前、おしっこする運命からは逃れられてないよ。

 言ったら可哀想だからそっと胸にしまいつつ、明らかに助かったという顔をするクラリスとルカルーと一緒に俺は内心でほっとしていた。

 ごめん。瞬殺された俺からは言えることはないです。

 しかし、そうかあ。おしっこで倒すのかあ。

 今回はそれで乗り切れたとしても、次は何が待っているのかな。考えるのも怖いな……!




 つづく。

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