第十二話
海蛇を切り飛ばしただけで沈む巨体二つが立てた波に揉まれた船に、二つの光の塊が落ちてきた。
それらはクルルとクラリスに吸い寄せられ、さらに強く光を放つ。
あまりに眩い強さには何らかの力があるのか、船を取り囲む海の生き物たちがそろって離れていくではないか。
え、なに? と思っていたら……光は凝縮されて、何かに形を変えて床に落ちた。
それを拾い上げるクルルとクラリス。
近づいて手の中にあるものを見てみると……。
「機械、か?」
魔界でしばしば目にする、人間世界にはないオーバーテクノロジーの産物。
強いて言えば元の世界で目にするたまごっ……ううっ! 猛烈に頭が痛い!
画面はフルカラーで描かれた小洒落た部屋の中を描いていて、中心にあるベッドに寝ているのは――……
「レオ!?」「ルナ!」
二人の母が我が子の名を叫ぶ。
そう、紛れもなく俺と彼女たちの子供が小さな機械の中でとても気持ちよさそうに寝ているのだ。
でも、いったいなぜ。どうして。
「ぱんぱかぱぁん!」
「その擬音は危ないからやめろ! ……はっ!?」
思わず脊椎反射でツッコミながら見上げると空に後光を背負った女神がいた。
「やっほー。世界の修復、いろいろ方法を探したんだけどさ。女神たち神さまの生み出す力があるなら、敵はどうやらその力を真逆に反転させているようだ」
お、今日は真面目か。いいぞいいぞ。
「なら敵が反転した力の根っこに、女神たちの本来の力が存在するはず。というわけで、海蛇の中に新しいタカユキたちの世界のための種を仕込まれていたみたい!」
「省きすぎだ! 力が存在するはず、から種を仕込まれていたまでの間をはしょりすぎだ! 何があったんだ!」
「……まあ、いいじゃん? それ、いいじゃん? 話すとさ、すっごくながくなるからさ。正直カンペを読み切れるか自信ない。っていうかめんどくさい」
「おい! おい! 言っちゃいけない本音を言いすぎだぞ、おい!」
「しょうがないにゃあ」
「別に見抜き頼んでねえから! くっ」
頭が痛くてしょうがない……!
「えっとねー……んーっと……んー? んん?」
目を細めて眉間に皺が寄る。
「神、と……勇者? が、つかう……力? ちょ、もうさー! 長い台詞だからって一つのフリップにまとめようとしてさー! いくらなんでも字が小さすぎるよ! ちょ、かして!」
女神がログアウトしました。
女神がログインしました。
「えっとーなになに?」
とうとうカンペを手にしたぞ。
「神と勇者が使う力は、世界を救うための力です。でも、破壊神と呼ばれる存在は、その力を滅ぼす方向へ反転させて利用しています。神や勇者が使う力が強いほど、敵はそれを利用して悪いことができます……え、悪いことってなに?」
いや、あの。おい。
「ちょっとさー。具体的に言ってよー。え? 世界を滅ぼしたりする? 神のリセットを利用した? 今の次元に巻き戻したの? それって一言で言うと、なに?」
おーい。そういうのあれだ、事前にやってくれ。
「女神、おい! いま本番だから。もう一度言うぞ、いま本番だからな!」
「あ、そうだった。えー、こほん!」
我に返った女神がフリップを眺める。良く見えないのかフリップに顔を近づけて、それでも見えないのか目元に手をかざした。光が集まり眼鏡になる。
突然の女神眼鏡。
「んーっとね。ただ破壊神が悪いことをしようとしたら、神や勇者に関わった存在を利用するしかないんだって。コハナの死神としての力も神たちや勇者と同じ力で、元々の勇者コハナとしての力と繋がりのあるもの。でも死神から勇者に巻き戻して揺さぶりをかけてきたよね?」
思わず俺とコハナは顔を見合わせた。それから女神に向かって頷く。
「海蛇の強化のために、世界の創造に関わるその二匹にタカユキの二人の子供を入れたね。もっとも女神自慢の勇者が、本来一人しかいないはずの存在が二人もいるなら敵じゃないけど」
まあ、事実あっさり終わったな。宣伝あけに終了くらいのノリだった。
「世界を支える元素、精霊の力……そして魔界の主。破壊神に落ちた時、彼女たちの力は侮らない方がいいよ。気をつけて旅を続けるのだ、勇者タカユキよ! 子供たちを、そして共和国のある世界の種を機械から出すために、育成しつづけよ! ……あ、それとこれはコルリから伝言ね」
消えるのか、と思ったら女神は眼鏡を外してコハナを見た。
「ずっと担当してきたけど、願いが成就してよかった……女神からは強いて言うことはない。あなたが望むように世界はできていると知っているから。じゃあねー!」
ばいばーい、と笑顔で手を振り消える女神を半目で睨むコハナ。言いたいことは山ほどありそうだが、しかし強いて言う気もないのだろう。大きな死神の鎌を背にしてため息を吐いている。
凝縮してめっちゃ喋られたけど、クルルとクラリスが助けを求めるような顔で俺を見てくる。
「ど、どうすればいいの?」
「あ、あの、レオに会いたいのですが」
二人の手の中にある機械を見た。
さながらぷち子供育成機ってところか。
ボタンは三つ。召喚、お掃除、そして確認と書いてある。
確認ボタンを押したらゲージが表示された。
さて?
「んん?」
ボタンを押したせいなのか、寝そべるレオとルナがめそめそして泣きだした。
そして画面端にうんこアイコンが表示される。となると、あれか。お掃除ボタンを押すのか。
ベッドが赤ちゃんにフィットするちっちゃなトイレに変わり、二人が息む。ぽん! と音がして、しゃーとした音が続いて聞こえた。二人が気持ちよさそうな顔をする。ふいーって風が吹く音がして、最後に二人が満足げになった時だ。
ゲージがぴっと変化して微かに増えた。溜めるとなんかいいことあるのかな?
それはまた今度女神にでも確認するとして。
「あ、あの」「タカユキさま」
はらはらしている二人が、そばにいるペロリたち仲間が何を求めているかは明白だ。
ならば押してみるか、召喚ボタンを!
「いくぞ……えい!」
押した瞬間、機械の画面から二人の赤ん坊が飛び出してきた。あわててキャッチする母二人。
わっと涙を浮かべて我が子を抱く二人にペロリが飛びついて、あのコハナさえもが目を輝かせて近づく。俺の隣に来たのはルカルーだ。
「その道具、大事にしないとな」
思わず意図を尋ねるように見た俺に、ルカルーは船の周囲に倒れた大蛇の亡骸を見渡す。
「みなで旅を続けるなら、二人が外に出ていたら危ない。だが外に出しておくのも……神出鬼没な敵を思えば、それも危ない」
「……そうだな」
確かにルカルーの言うとおりだ。
旅の道中は出来る限りこの小さな手のひらサイズの機械の中にいてもらわないとな。
さて、それを我が子に涙ながらに頬ずりする嫁二人にどう説明するべきか。
悩ましいが、それよりも。
「俺にも抱かせて!」
ずるいよ! 独り占めはよくないって!
俺の子だからね! だからなにとぞ!
つづく。




