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勇者タカユキと七人の少女~異世界パンツ英雄譚3~  作者: 月見七春
第一章 再びのスフレ、動乱リスタート
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第十一話

 



 コハナにクルルの呪いの手当てを頼むと、クラリスの錬金術の力も借りたいと言い出した。


「以前の旅で到達したポイントへの早道です。もちろん女神が持ってきた書物の手順を使って、最後には勇者さまにお手伝いいただきますが」

「ねえコハナ、あなたもしかして最初から私の助け方をしっていたのでは?」

「それは秘密デス★」


 コハナにクルルが飛びついたのは……まあ、よしとして。

 クルルの天使化、そして人への定着化を済ませた俺たちはジャックとリコの船で北へ向かった。

 先遣隊として偵察に出てくれたアメリア曰く、確かに海蛇はいたそうだ。

 だが悪辣なあの破壊神のことだ。何か手を打ってきたとしてもおかしくはない。

 さて、どんな手に出てくるか。


「ねえ、おにいちゃん」

「どうした?」


 声を掛けられてみたら、船に乗ったペロリが海を指差していた。


「あれ、なあに?」

「ん――……?」


 顔を向けて固まった。凍り付いたともいう。

 背びれだ。海に生えた無数の背びれが見える。

 いかにもサメの背びれだ。あんなの予定にない。


「ちょ、ちょちょちょ! リコー! ジャーック!」


 慌てて叫んだ。操舵をしているリコが、甲板で指示を出すジャックが俺に気づき、俺の指差す方向を見てすぐに反応する。


「戦闘準備!」

「大砲構えぇえ!」


 二人の呼びかけに海の男達が唱和して慌ただしく駆けていく中、俺たちは仲間で集まり武器を手にした。


「ど、ど、どうなるのかな。体当たりしてくるとか?」

「船にサメが体当たり……あまりひどいことになるイメージが湧きませんわ」

「シャチならいざ知らず。この船は大きいですからね」


 クルルの不安にクラリスとコハナが冷静に返す。


「な、なあ……ルカルーの目には、飛んでいる様に見えるんだが」

「「「「「 えっ 」」」」」


 ルカルーの青ざめた表情での発言に俺たちは慌てて海をみた。

 サメがトビウオ? はたまたイルカ? のごとく海面からジャンプしてこちらに向かってくるのだ。明らかに異様な光景だ。お前らそういう魚類じゃないやんけ!


「ふ、フライングシャーク」


 コハナの引きつり顔はレアだ。俺たちに素がばれたからこそ見せる様になったのか。

 考えている場合じゃない。あんなのに襲われたら人死にが出る。


「クルル!」

「わかったかな!」


 俺たちの魔法使いはマントをたなびかせて宙に浮かび、胸に手を当てた。

 瞬時に桜色の煌めく紋様が彼女の身体に衣服を越えて浮かび上がる。


「リュミエイル・バリエル!」


 サメたちの群れが俺たちのいる船に飛びつこうとしたまさにその瞬間、光の障壁が船を包んだ。その障壁に触れた途端にサメたちが弾けて消える。


「「「「「 ……おう 」」」」」


 俺や船員たちが口を揃えて呻く程度には、なかなかにスプラッタな光景でした。


「まだまだこんなものじゃないかな」


 どや顔で床に下りてくるクルルはいかにも自慢げだ。

 最初の旅ではクルルの魔法がなければやばかった。でも、それでも海蛇の退治は苦しかった。


「海蛇の相手、いけそうか?」

「前の旅を終えた頃に戻ってきたからね。海蛇が二匹出るとか、海蛇クラスの敵が山ほど出るとかしなければ楽勝かな!」


 ますますどやるクルルの発言に嫌な予感がした。したよ?

 お前それ、いかにもフラグやんって思ったよ?

 そしてそういう予感っておうおうにして裏切らないよね。

 数日を経て辿り着いた海域で、俺たちは言葉を失った。

 船の前後に一匹ずつあらわれたのだ。挟み撃ちだ! これでは逃げられない!

 一匹だけでも手こずるってのに……!


「リコ! シャチが出たぞ!」

「パパ、白鯨の奴がいる!」


 あちこちで悲鳴と怒号が飛び交う。

 あからさまにピンチだ。白鯨といえば二回目の旅でジャックの妻、リコの母であるアメリアの最強ともいうべき海賊船と操船術で退治した化け物クジラ。

 シャチはそんな海の王者ともいうべきクジラを食べるともいう海の最強の名をほしいままにする生物だ。そんなのが鮫みたいに飛んだなら? ぞっとしないどころの騒ぎじゃない。

 だから、俺たちがなんとかしなければ。


「クルル! 海蛇の一匹は俺とルカルーとお前でぶっ倒すぞ!」

「わ、わかったかな!」「がう!」


 最初の旅の要領で一匹をまず倒さなければ。


「でもそれだと残りはどうするの!」


 クルルの声に歯がみする。わかっている。一匹を倒している間に船がやられたら元も子もない。

 だからこそ、


「ペロリさま、クラリスさま、コハナに力をお貸しいただけますか!」


 背から大きな死神の鎌を取り出した彼女の言葉には勇気が満ちあふれていた。

 かつての勇者の言葉に、皇女と聖女が頷く。


「もちろん!」「なんなりと仰ってください!」

「では、勇者さま! 残り一体はお任せを!」


 背に生えるコウモリの羽根、真紅に染まる髪と瞳が彼女の本気の証拠だった。

 となれば白鯨とシャチか。


「ジャック!」

「舐めるな! 俺を誰だと思っていやがる!」

「アメリアの旦那だ!」

「嫁に負ける俺じゃねえ、いけ!」


 怒声でやりとりをしながら、互いに笑い合う。

 そうだ。そうだとも。

 俺たちの活力は、悪辣な破壊の衝動になんてそう易々と負けるものじゃない。


「いくぞ!」


 身体中に満ちる勇者の力。獣になる力。人であることを捨て、この世界の人へ変わる力。

 出し惜しみはしない。むしろ人で留まる理由が既にない。

 全力で行く。

 ルカルーとうなずき合い、俺たちは飛んだ。

 海蛇を倒さなくては、先へ進めないから。




 つづく。

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