第4話 ビック ゾンビ パニック
少年は夢を見ていた。暖かな食事、血の繋がりはないが、寄り添い、協力しあった仲間、家族たちがいる。豊かではなかったが、幸せだったときの記憶。しかし、そこに自分はいない、不意に肩に何かがかかる。振り返ると・・・
鋭い牙を持つカイブツがいた・・・
瞬間、目を覚ます。どれほどの時を眠っていたかわからない。起き上がり、掛けられた毛布をどけると周囲を見渡した。その時、彼は自分がベットに寝かされていることに気が付いた。窓からの光が部屋全体の様子がうかがえた。ここは棚に食料が幾つか置いてある小さな部屋である。元々は仮眠室で、あの日からはイザという時に立てこもるための部屋の一つ。
棚に持っていた銃があることに彼は気ついた。音もなく近づき、手に取る。その瞬間、カイブツの事を思い出した。ふと、噛まれた首筋を触る。傷はなかったが恐怖が襲ってきた。
この世界では噛まれる事は死よりも恐ろしいことである。カイブツは生ける屍ではなさそうであったが、短い人生であるが知っているどの生き物に当てはまらない。未知なるモノであった。 武器を手に取ったとしてもコレでは効かない。しかし、コレ以上の物は少年にはなかった。
「ボクくんーヤッホー起きた?」
「うひゃあ!?」
突然開かれたドアに驚き、引き金を引く。けれども弾は出なかった。
「コラー、こんなものお姉さんに向けたら、メッだぞ!」
声色からして本気で怒っているのではなく、注意をしているのだと少年は理解した。
彼女は彼の元まで近づき、銃口をそらすと入っていた弾を渡してきた。
「はい、これは返しておくね。もう人に向けて撃っちゃだめよ」
受け取った際、小さな掌からこぼれそうになっていたが、器用に持ち直し、ショットガンに装填していく。全て入れ終え、ポンブをスライドさせた。
ぐー
少年はお腹を鳴らすと恥ずかしいのか、顔を赤らめうつむいた。
「あら?お腹すいた?結構寝ていたもんね。」
細い指で少年の頭を撫でる。
「ご飯はできているよ。野菜と缶詰肉たっぷりビーフシチュー!」
「シ、シチュー!?」
「あら、嫌いだった?」
彼は返事もせず、ドアを開けて飛び出していった。ティアはあっけにとられる。
「・・・そんなにお腹が空いていたのかな?」
子どもの表情とは思えないほど顔には恐怖と焦りが現れていた。走り、進むたび香りが強くなって感じている。扉を一つ一つ開け、探していく。角を曲がった時、扉が開いている部屋を見つけた。
飛び込むとそこにはフリルのついたエプロンを付けたレイナが鍋を混ぜていた。机の上にはどこからか探してきた携帯用コンロ、乾パン、コップがある。そして窓は開いており、目には太陽が沈んでいく瞬間が見えていた。
「おや、少年、目を覚ましましたか。私がついていながら、怖い思いをさせてすまなかっ・・・」
少年は彼女の話を聞かず、銃を机に置き、一目散に鍋に向かっていった。取っ手は金属製で熱くなっていたが構わず握り、窓の外へ放り投げた。
「私の料理が・・・」
「ご、ごはん・・・」
いつの間にかティアが部屋の前に立っており、彼女たちはあっけに取られ後、呟いた。
レイナは直ぐ冷静になった。少年に近づき、掌を見る。痛々しく赤くなっていた。
「どうしてこのようなことを?」
夕食用に入れてあったコップの水を彼の手にかけた。
「早くここから逃げなきゃ!僕の服、服はどこ?アレがないと!」
「落ち着いてください。まずは治療を・・・」
耳がピクピクと動かす、何かを感じたのか、床に耳をあてる。
ドシンドシンドシン
大きな振動があり、地面が揺れていくことに気が付いた。
ティアの瞳には大きな山がこちらに向かってくるのが見えた。
「二人とも目ぇつぶって歯食いしばって!」
彼女は叫んだ瞬間、少年を抱え、レイナの襟首を掴んだ。「ごほお!」とレイナは叫んだが構わず窓へ飛び込む。その瞬間、大きな手が部屋を削り取った。彼女は腕に着地し、胸に飛び、そのまま膨らんだ腹へと滑り3階ほどある高さから地面に着地した。
「ふぃー、ギリギリだったね。二人とも大丈夫?」
二人を床に下ろすと尋ねた。
「ゴフォゴフォ。ええ、く・び・が・痛みますがね!」
「ゴメンゴメン、少年は?」
「ぼ、ボクは大丈夫・・・ひぃ!」
「あれはでっかいねー」
「ええ」
彼女らが見上げた先には大きな人がいた。高さはおおよそ5階建ての建物と同じほどある。月明りがその輪郭を見せた。全体として太っており、首はない。肩などには岩の様なものがある。肌の色は灰色と所々に土色がかかっており、マーブル模様になっていた。顔は醜悪に歪んでおり、鼻を鳴らしている。伝承によって名前は異なるが一般的にはトロールと呼ばれるモンスターだ。
「あー、あれはトロールだね。ちょっと待ってて、話してくる」
トロールに近づきながらヘンテコな言葉と動作をおこなっていく。
「ウゴッウゴッ、ハゴハゴウガッホフェホフェ」
手を頭に乗せ、胸を叩き、手をクルクルと回す。
ふざけている様に見えるがトロール語である。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア」
巨人は咆哮を上げ、胸を叩く。
「あっ、ゴメン。こいつ話が通じない。これゾンビだ」
その瞬間、大きな足がティアに踏みつけられた。
次回はバトル回です。