第2話 ゾンビー&モンスター世界へようこそ
続きです
「で、あんた何しにきたのよ。ゾンビが大量発生っても人間の問題じゃん。人間の問題にちょっかい出すのは禁止じゃなかった?」
大きな牙が全て見えるほど大きくあくびをしながらティアは尋ねた。
「変わったんですよ、この世界規模の問題で・・・」
「んなもん知らないもーん、さんざん税金持って行ったくせに困ったら助けろとか、厚かまし過ぎるでしょ。」
ヘレンに睨みつけながら、近づき、牙や爪を伸ばしていく、美しかった美貌は崩れ、皮膚が破けていく。薄皮の下には彼女本来の姿が見えていた。
「ええ、そのことです。その税金なのですが、滞納金額が多く、世界も変わり、返済の目途がたたなくなったので、労働で補っていいただこうと。」
「は?」
「ティア様、税金を持っていかれたとおっしゃられていましたが、それは人間界での税金です。ウチには一銭たりとも払われていません。」
「へっ?う、嘘でしょ・・・」
「事実です」
「・・・物納じゃだめ?」
その両手にはどこからかワインを取り出していた。
「だめです。まあ、労働といってもアナタにとってはラクでタノシイ仕事だと思いますよ。」
ヘレンはニヤリと微笑み、胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
「それは・・・?」
「依頼証です。ゾンビ狩りの」
手渡された紙をまじまじと見ると文字が細かに記載されていた。
「やーだー、税金税金って言われても、あんた達に何かしてもらった覚えないもん!人間さんたちはね、道路作ったりして街を守っているんだよ。それに比べたら、あんたら何してんのよ!税金ドロボー!」
ピキィ!!!
「ん?」
「あのですねぇ~」
レイナはわなわな震えだし、手は力強く握りしめ、口は耳まで裂け、頭から獣耳が現れていた。
「ひぃ!」
「私たちはあなたのように寿命が長いモンスターでも人間界で暮らしやすいように戸籍を調節したり、人間にばれないように情報の統制したり、モンスター専門の医師を育成したり、特殊な場所でしか住めない方のために住居を提供したり、色々やっているのに、毎回毎回ドロボードロボーと・・・」
「ご、ごめん・・・わかったから、やるから・・・」
「ゴ、ゴホン、失礼。ともかくゾンビ狩りの目標ですが、ゾンビ絶滅までです。」
冷静さを失っていたことを恥ずかしいと感じているのか顔を赤らめるとそう答えた。
「ええ・・・そんなにわたし滞納してたのかな・・・」
「いえ、そもそも生きていくのにゾンビは倒し続けなければなりませんし、他のモンスターや人間も戦い続けています。これはゾンビが絶滅するか、こっちが絶滅するかの戦いなんです」
レイナは冷静に説明していく。
「つまりは、この現状をどうにかするために手伝ってくださいということです。あなたもこのまま再度寝て起きたら、世界に塵一つ、ワイン一つない世界なんて嫌でしょう」
「う、うん・・・」
「おまけに承諾していただけるなら私もついていきます。ゾンビの知識もサバイバルの経験も豊富ですし、このまま一人でいるよりもお得ですよ」
「おお!それはお得だねぇ」
「それでは、まずは準備をしましょう。着替えと、武器になりそうなものを持って来て下さい。私はハンマーを取りに戻るのでワインセラーで待っています。それでは」
「じゃじゃーん!お・ま・た・せ♡」
寝間着から着替えたティアは黒と赤を基調とした姫騎士のような服装をしていた。
スカートは短く、二―ソックスはガーターベルトで留められ、へそも出されている。
彼女が持つ色気を最大限に引き出される官能的な恰好の中、背中に背負われた2本の人の腕の長さほどある刃物の異質さが際立っていた。
「その刀、少々錆びていますが、いいものですね。頼もしいです」
「ん?違うよ」
背負われた刃物引き抜くと、ワインセラーに向かい、ビンの口を切り落とした。
「これね、人間解体ショーで使った包丁。骨もスパスパ切れるし、見てよビンだってこの切り口!」
切り口を見せたあと、ビンの中身を飲み干すと、他のビンも切り落とし、飲み始めた。
「なにをされているのですか・・・?」
「ナニって、このワイン全部飲もうとしているんだけど。これから出かけるのに残していくとか勿体ないじゃん。あんたも飲む?」
「今の状況わかってます?」
「わかっているから飲んでんじゃん。これから旅に出てもう戻ってこれないかもしれない、ならば悔いなくイク為に、美味しいものは全部食べる、飲む! 厳しい戦争だからこそ、男はヤるし、女もヤる。私は死なないから食う寝る遊ぶ!」
「もうゾンビ中に入ってきてますよ」
レイナは自信の背後にいるゾンビに振り返らず指差した。
よたよたと足を引きずりながら近づいてきた生きる屍は血まみれで性別もわからないほどズタボロだった。
「うそ! アンタ、後ろ向いているのによくわかったわね」
驚いた表情だったが、ワインを手に取るスピードは変わらない。
敵が近づいてきているにもかかわらず、呑気に暴飲を続けている。
「鼻が聞くんですよ、狼ほど良くはありませんが、部屋の中の物をかぎ分けるぐらいはできます。ゾンビかどうかという事を含めて」
彼女はパンと手を叩き、壁へと寄った。
「ティアさん、ちょうど、一匹ですし、お相手をしてみてはいかがですか?初めてで大量に相手をすると大変ですから。」
「ほいほーい」
空になったビンを投げ捨て、両手に包丁を持った。そして近づき、距離を縮め、止まり、攻撃の隙をうかがった。
「ゾンビ化の原因はウイルスで、唾液が主な感染源です。血液感染はあまりないです。血を全部吸うみたいなバカな真似をしなければ、返り血は気にしなくていいですよ」
「了解!」という返事と同時に2つの眼球に刃の一閃を放つ。
そしてゾンビの後ろに回り込だ。けれども振り向き彼女に近づいていく。
「ふーん、目がなくてもわかるんだ」
「耳」
器用に2本の包丁で両耳を切り落とす。
「鼻」
「舌」
それでも近づいてくる。
切り傷だらけになった頭を首もとから切り落とすと身体は動かなくなったが、頭はかすかに動いていた。
「こいつらすごいねー。五感全部使って的確に近づいてくる。身体も意外と丈夫だし。なによりしぶとい」
「ええ、素体にもよりますが脳以外のダメージには強いです。血を多く流したり、心臓を潰したりしても死にますが、傷を負った際、血液が凝固するのが早いので切ったりするのは意味ないですよ」
その言葉を聞いた後、ティアは落ちた頭に包丁を突き刺し、引き抜くとソレは動かなくなった。
「ほうほう本当だ。じゃ、そろそろ本格的に始めますか」
周囲の屍の首を切り落としながら屋敷を出ていく、空には太陽が輝き、心地のよい風が吹いている。
草木は青々と茂り、周囲には赤黒い花がゆらゆらと揺れていた。
「うーん、久しぶりの太陽は目にしみますなぁ。さようなら資本主義社会主義現代社会!ようこそ新世界!」