第二章 同級生 4
あれから島ちゃんが言っていた一週間が経った。
結論から言おう。いや結論から言うのがもったいないほど色々あったが、まあとにかく結論から……いや……なんというか……すげえきつかったよ!
やばかった。マジやばかった! 人生で一番きつい時間だった。
そのきつさを少しでも理解して貰う為に、ここに警察学校の一日のスケジュールを書き記しておこう。
起床――六時半。
グランドで体操――六時四十分。
清掃――七時。
朝食――七時二十分。
身支度――七時三十分。
申告、報告――七時四十五分。
部屋の整理――八時。
教室に移動――八時二十五分。
教官から連絡――八時四十分。
授業――九時~十二時。
昼食――十二時~十三時。
授業――十三時~十七時半。
課外訓練――十七時半~十九時。
風呂・夕食――十九時~二十時。
自習時間――二十時~二十二時。
夜点呼――二十二時~二十二時半。
自由時間――二十二時半~二十三時。
消灯――二十三時…………終わり。
お分かりだろうか……?
自由時間は三十分である。三十分のうち、二十分はトイレ、洗顔である。三十引く二十イコール十である。お分かりだろうか……自由時間は十分である。
正直……意味が分からない。ていうか明らかに可笑しいだろ。法を守るはずの警察が労働基準法よかかってこいや! である。
だがまあ勘の良い方は分かったかもしれないが、就寝時間は七時間半もある。成人が寝過ぎじゃねえ? 超楽勝じゃん、と思うかも知れない。
実際、そう思い夜更かしにチャレンジした者がいた。森田祥吾二十二歳。俺と同じクラス。
彼は三十分間部屋でMP3プレイヤーで音楽を聴いていたところを発見され……軽くひくくらい怒られた。
夜十一時から始まった説教は、他の室員も叩き起こされ二時間続けられた。
二十二歳の日本男児が三十分の夜更かしをしただけで二時間も怒られたのである。
その日から夜更かしをしようという者はいなくなった。リスクとリターンの割合が合わないからだ。
それに正直、七時間半の睡眠じゃ足りない。何故なら訓練があまりにきついからだ。
俺達が最初にやった訓練、それは……立つことだった。直立不動で三時間。制服を着て、気をつけの姿勢を取る。指先まで神経を集中させ、つま先の開きは十五度。更には横になる者と一直線になるように誤差一センチで修正しなければならない。
正直足がガタガタになる。この時、足の腱を傷めた者もおり、長期戦線離脱している。
それに加え、直立不動の俺達の周りを教官方がガンを飛ばしながら歩いてくる。
姿勢が悪い者、服装が乱れている者には容赦なく罵声が浴びせられる。
隣のクラスから、
「真っ直ぐ立つ事も出来ねえのか? そんなクソはいらねえんだよ! 帰れ!」
という怒声が聞こえてきた時は俺も正直帰りたくなった。
実際大島君の言う通り、初日にして、何人もの生徒が辞めていった。だが訓練は二日目に突入し、易しくなるどころか、厳しさを増した。
警察の基本動作を永遠繰り返され、更にはトレーニング。次に必要書類の提出など、時間に追われる生活は続き、夜更かしは出来ないから早朝四時に起きて準備するという生活は、俺達の気力と体力を根こそぎ奪っていった。
まあ、そんなこんなで冒頭の通り、一週間が経ったのだが、島ちゃんが宣言した通り、最初三百人いた同期生は二百十人まで減っていた。丁度三割ジャストである。
だが、彼らを根性無しと言う者は一人もいなかった。一歩間違えば自分がそうなることが皆分かっていたからだろう。
「はぁ~だるぅ」
教官が居ない教室で俺は机に寄りかかったまま大きく溜息を吐く。
「確かにだるいさぁ、したっけ、坂本、昨日のフェンスの件はウケたな」
「ちょっと永井君止めてよ。俺結構あれ気にしてるんだから」
「はは。したっけ、マジでウケたよ。どうしてあんな事になっちゃうの?」
永井君が腹を抱えて笑う。永井君が笑っているのは昨日のある事件についてだ。
その内容はこんな感じだ。