第二章 同級生 3
「大島勇人です。ふふふ……」
人の良さそうな顔で優しく挨拶する大島君。柔らかな雰囲気と相反するように、眉はキリっと整えられていて歌舞伎役者のようだ。
「あぁ~沢橋です。青森県出身です」
続いて自己紹介したのはガッチリした体格の沢橋君だ。耳が餃子の様に潰れていて、明らかに格闘技を嗜んでいるのが分かる。
「永井修平。よろしくさ~」
さいごに永井君。どことなく力の抜けた感じがする。というかこの学校に対するヤル気が感じられない為、妙なシンパシーを覚える。
というわけで、これが俺と寮で同室になった方々だ。これから半年間、一緒に生活をともにすることになる。
「そういえば、さっき菊池教官が大島君のお父さんの事言ってたけど、あれ何?」
沢橋君が大島君に尋ねる。
「あれ? いやあれは俺の親父が警視だからだと思うよ。多分どっかで知り合ったんじゃないかな?」
「警視? 警視ってどれくらいの地位なの?」
よく警察事情が分かっていない俺は何となく尋ねる。
それに大島君(これからは島ちゃんと呼ぼう)島ちゃんが困った様に答える。
「うん。俺も良く分かんないんだけど。今、俺達が巡査でしょ? その次が巡査部長。これは油井助教の階級で、次が警部補、これが菊池教官でしょ? 次が警部、でその次が警視かな。大体署長とかそんな感じ、ふふ」
「マジで? ボンボンじゃん」
相変わらずの物言いだった。やはり俺は隠し事が出来ない性質らしい。
「いや、全然普通だよ。俺も警察に入るまで親父が何してるか知らなかったもん。やたら家に居るな~親父。仕事ないのかなって思ってたよ。ふふふ」
「へ~やっぱり偉くなると暇になんのかね?」
「そうなのかもね。ていうか親父が偉いっていうのが実感湧かないんだけど。ふふ」
純粋そうに笑う島ちゃんはマジで親父さんの仕事を知らなかったのだと良く分かる。だが、その純粋さが逆に、育ちの良さを感じさせた。
「はあ~それにしてもこの室はすげえなぁ。確か沢ちゃんはレスリングで全日本、永井君は陸上でインターハイだよね? ポテンシャル高くない?」
俺を除いて皆さん輝かしい経歴を持っている。
「ああ~まあ気にするなよ。レスリングは競技人口少ないからさ。それに室長も柔道やってたんでしょ?」
「いや、俺の柔道はお遊びでやっていただけだよ……てかその前にちょっといいかな?」
俺は手を前に出し、一旦話を区切る。
「ああ~何? どうしたの室長?」
「いや、その室長っていうのを止めてくれないか?」
「ああ~どうして? 坂本君は室長でしょうが?」
「いや、その件なんだが、何故寮に入ったら既に室長が決まってるんだ? こういうのは話し合いで決めるもんじゃないのかね?」
室長……配られた学生必携を読んだところ、室を束ねる者。室内の責任は全て室長が負うものとある。
「いやいや、俺にはそういうの合わねえから、他の部屋の室長は年齢が上だとか色々有るのに、何で俺だけ?」
リーダーとかそういった役職が俺は大嫌いである。
「それペナルティらしいよ。菊池教官が言ってた。坂本がこの期生、始まってから第一号だって」
永井君がトーンの変わらない、若干方言のイントネーションが混ざった口調で言う。
「あれかぁー!」
入校式の校門で叫んでいた自分を思い出し、床に倒れ込む俺。
「まあいじゃん。俺、坂さん性格良さそうだし、良いと思うよ。ふふふ」
島ちゃんが人の良さそうな笑みでそう言う。やばい、彼は癒し系だ。
「それよりも、皆、気をつけた方が良いよ。ふふふ……」
気をつけるというわりに、全然緊張感が無い島ちゃんに三人が島ちゃんに椅子ごと向き直る。それを確認すると島ちゃんは続けた。
「ここの訓練きつすぎて、一週間で三分の一は辞めちゃうって親父が言ってたよ。ふふ」
『………………』
三人が黙り込む……なるほど確かに、気をつけなければならないようだった。