第二章 同級生 2
「随分ご機嫌のようですね。菊池教官」
「ダハァ~止めて下さいよ油井助教、敬語なんて」
油井助教のような大ベテランに比べたら俺なんてまだまだひよっ子だ。そんな大先輩に俺の方が階級が上だとは言え、敬語を使われては、こっちの方が恐縮してしまう。
「ただまあ昔を思い出したんですよ」
「昔……九月レナですか?」
油井助教が細い目を更に細める。その様相は正にスナイパーの名を冠する鋭さだ。
「まあ九月もそうですが……ね」
九月レナ、経歴を調べたが間違いなくあの九月だった。あの幼かった少女が今、俺の前に生徒として現れている。
「他にも誰か?」
「俺はどっちかというと坂本ですよ」
「坂本?」
油井助教が意外そうな表情で尋ねてきた。
「ええ、あいつの雰囲気と言った言葉。昔の慎吾にそっくりだと思いましてね」
「? そうですか? 私が見た彼の印象は坂本とは違って、もっと冷徹で、隙の無いようなタイプに見えましたが」
油井助教の分析は正しい。だがそれは変わってしまった後の慎吾だ。
「慎吾が俺の同期として、警察学校に入って来た時も坂本みたいな奴でしたよ」
「ほう……」
坂本は慎吾に似ている。何よりも目だ。気だるげだが、その中に熱い何かを秘めている様な、そんな目。
「子供が泣かないように……か。久しぶりに聞いたな」
坂本が、昔親友として過ごした慎吾と重なる。それだけに不安だ……。
ああいった人間の末路を俺は知っているから。
「曲がるんじゃねえぞ。坂本」
最後の言葉はきっと油井助教には聞こえなかっただろう。