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第一章 入校 3

 うん。やっぱり帰るわけにはいかないな。

 ここに来た経緯を思い返し、俺は覚悟を決める。今更『やっぱ辞めて帰ってきちゃった』とか言ったら、間違いなく親父に殺される。

 よっしゃ! と気合を入れ、俺が校門に向かおうとした時だった。

『ドン!』

 気合を入れた割りに前をあまり見てなかったので思いっきり人にぶつかってしまった。

「す、すいません」

 ぶつかった相手にすかさず謝ると、ぶつかった相手が俺を見た。

 その顔を見て、俺は思わず驚いてしまった。何故なら目の前に居る女性があまりに……可愛かったから。

 いや、月並みだが、可愛いとしか言い様がない。

 本当に染みの一つも無い顔は荒れる事無く瑞々しい。というか正直容姿だけなら、俺が見てきたどんな女性よりもドストライクだった。

 これは警察学校に行くんだよな……ということは同じ職場? うっそ~ラッキー。やばいテンションあがってきちゃった。ていうか出会い? 運命の出会い?

 珍しく俺が浮かれていた時だった。

「…………邪魔よ」

「へ? へえ?」

 俺はもしかして聞き違いかなと思い聞き返す。

「だから邪魔だと言っているのよ。聞こえなかった?」

 さっきと同じ事をこの女は言った。

 嘘だろ……それが俺の第一の感想だ。こんな天使みたいな顔した女が、そのプリティな顔で俺の事をゴミでも見るような目で見て、更にこんな酷い事を言うなんて……。

 何か色々と裏切られた気分だった。こんなに可愛いんだからそりゃ性格の優しい子かと勝手に思っていた。

「聞こえなかった?」

 女が再び聞いてくる。顔は未だに絶対零度だ。

「イエ、キコエマシタ」

 女は俺が自分の言葉を理解したのを知ると、そのまま何事も無かった様に立ち去ろうとする。

「ちょい待った!」

「……? 何?」

 俺は反射的に女の手を掴んだすると女は不快そうに眉を顰め、俺を睨みつけてきた。

 うお、可愛い子が睨むと迫力あるな……しかし、負けてはいれない。

「いや、何って言うほどの事じゃねえが、あんたこれから警察学校に行くんだろ?」

「そうよ。それがなに? 急いでいるのだけど」

「ああ、急いでいるのは分かるよ。俺も同じ場所に向かっているからな。でもよ、仮にも同期になる奴に邪魔だとかそういうのはねえんじゃなないの?」

 俺にしては結構きつめにズバッと言ってやった。

 すると女は少し俯く、その姿に言い過ぎたかなぁと声をかけようとした時だった。

「同期とか関係ない」

 だが俺の言葉は女が出した硬質な声に阻まれる。

 その声に文字通り俺の体は固まった。何と言うか、この女から発せられる気配がさっきとは全く違うとても冷たいものになったからだ。

女はそんな俺を追い詰めるように睨み付ける。

「無能な人と群れるのは、私が一番嫌いなことだから」

 それだけ言うと、女はスタスタ警察学校に歩いていった。

 俺はしばらくその場から動けなかった。何と言うかあの女があまりに真剣すぎて、人生で一番、人に言われたことで心に突き刺さった。

「おい君! 急げよ。いつまで突っ立ってんだ。もう説明会が始まるぞ!」

 そう校門で立っていた男に言われ、俺はハッと腕時計を見る。確かに説明会の時間まで間も無い。

「く……く、チキショー! ムカつく! きぃ~!」

 吠えた。ムカッ腹がたって仕方が無い。ストレスを発散するように大声で叫ぶ。

「お、おい……君」

 それに戸惑った顔を浮かべながら、門番のおっちゃんが近づいてくる。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぅ!」

 俺はそれを無視し、雄叫びを上げながら警察学校の門を走り抜けた。

 なんにせよ……これが俺の警察学校の敷居を跨いだ瞬間だった。

 そして俺は…………警察学校初任科生として初めてのペナルティを受けた者になった。



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