エピローグ 4
「じゃあ行くわね」
「うん。頑張れよ」
荷物を纏め、草加行きのバスに乗る九月と俺は学校最後の会話をかわしていた。
「次に会うのは初任補修科かしらね。貴方が辞めてなければ」
「辞めねえよ。ふざけんな」
「ふふ、そうね。貴方はきっと変わらず轟教官にいびられてるでしょうね」
不吉な事を言いながら笑う九月に俺はゲンナリとした溜息をする。
「ねえ坂本……坂本は私の事をどう思う?」
髪の毛を弄りながら、尋ねる九月に俺は歯を出して笑う。
「細かい、凶暴、冷たい、可愛くない……」
九月は黙って聞いていた、だから俺は続ける。
「そりゃ全部間違いだったな。お前はおおらかで、優しくて、情に厚い。動物が大好きな可愛い女だったよ」
俺の言葉に九月は頬を少しだけ赤くした。
「私の坂本の印象を教えてあげようか?」
「おう、言ってみろ」
褒めたたえろこの俺を。
自信満々の俺に九月はくすくすと笑う。
「……ただの馬鹿」
「……おい」
おい!
「でも大好きよ。貴方の事が」
九月はそう言って俺に抱きついた。フワッと柔らかい感触、ずっと抱いていたい様な、幸せな感覚だった。
「メールくらい出来るでしょ」
「ああ、メールするよ」
「一日一回は必ずよ」
「はっ! 意外と頻度高いな」
「浮気はしない。プライベートで女の子と会わない」
「大丈夫だろう……遊ぶような女の子いないし」
「他の女の子とのメールと電話は一ヶ月に一回まで、三十分を越えない程度に」
「ん……まあ、努力する。ていうか、そんなに普段電話してねえ……」
「というか、携帯から女の子のアドレスを全部消しなさい」
「意外と束縛するなお前! ちょっとは俺を信用しろよ!」
九月は俺から離れた。そして俺の唇を人差し指で押さえる。
「そして……彼女を大事にする事」
初めて、九月は自らの事を彼女といった。今まであやふやのまま過ごしてきたけど、今ようやくはっきりとした気がする。
「ああ、分かった」
「そ、ならいいわ」
九月は満足した様に頷くと、足元の荷物を取った。
「もう行くわ。バスの出る時間だから」
「おう。気をつけてな」
別れ。これでもう三ヶ月は会う事は無いだろう。いや……休日くらい会えるかな?
九月が背を向けて去っていく……おっと忘れる所だった。
「九月!」
「はい?」
九月が振り返る。
「俺も、お前の事大好きだよ」
俺の言葉にびっくりした様に目を開くと……。
花が咲いたような満面の笑みで笑った。




