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第五章 トリプルブッキング  8

『ジャララララララララララララララララララララララララララララ!』

 日常では聞かない大音量。

「美沙さん」

「何だ」

「…………ゲームセンターですか?」

 俺は周りを見渡した。なんというか馴染みのある場所だ。ていうか男友達と何度も来た。

「そうだ。見れば分かるだろ」

「いやぁ~まあそうですけど」

 ただ轟教官とゲーセンに来る機会があるとは思わなかった。

「美沙さんもゲームセンターに来るんですね」

「うむ。休日は必ずゲームセンターに居る」

「予想の斜め上!」

「通勤時はPSPだ」

「予想の斜め上!」

 どこまでゲーマーなんだ。警察学校にもゲームが好きな奴は結構居たが、轟教官のそれは群を抜いている。更に言うなら学校での轟教官は全くゲームをやらなそうな印象がある。

 鈴木史朗がバイオハザードをやっていた時並みの衝撃を俺が受けていると轟教官が俺の手を引いた。

「おい、坂本、とりあえずアレをやろう」

「え、あ? はい」

 轟教官が俺の手を握りながら指差したのは、ガンシューティングゲームだった。

 俺の返事もろくに聞かず、轟教官は百円を入れた。そのまま俺の分のお金も入れそうな勢いだったので、俺も慌てて百円を入れる。

「これはな、ガンシューティングの中ではずば抜けてストーリーが素晴らしい。エンディングは感動するぞ」

「エンディング? 俺こういうゲームでエンディングまで行ったこと無いんですけど」

「なにぃ? 坂本、貴様それでも警察官の端くれか?」

 ギロッと睨みつける目は鷹のように鋭い。服装とのギャップが激しい。

「きょ、今日はそういうのは無しって話でしょ? 美沙さん」

 俺が汗を垂らしながらそう言うと、轟教官から殺気が消える。

「うむ。そうだったな。まあいいだろ。安心しろ坂本。私が居れば大丈夫だ。必ずエンディングを見せてやる」

 自信満々で笑う轟教官。ふわふわした可愛らしい帽子を被りながら、大きな胸を逸らす様は子供が威張ってるみたいだった。

「はいはい。よろしくお願いします」

 俺は苦笑いして銃を持った。轟教官も慣れた様子で銃を構える。

 オドロオドロしい音楽と共に、ゲームが始まった。どうやら、特殊部隊の軍人になって、空港にいるテロリスト達を倒していくゲームらしい。俺は画面に敵が現れると銃を向ける。

「ズバババババババババババババババ!」

 すると俺が狙っていた獲物が瞬く間に打ち抜かれた。というか、一瞬で画面から敵が消え失せた。

「はぁ?」

 敵は次々現れる。しかし、それは一撃で頭を打ちぬかれ倒れていく。

 ス……スゥ……スゥ……。

 俺が驚いて隣を見ると、全く力みの無い動きで、轟教官が銃を構えている。撃つ弾は百発百中だった。

「ちぃ……センサーが二ミリずれている。整備はちゃんとしているのか?」

 隣で舌打ちする轟教官。やべえ、怖すぎる……。

 ゲームセンターに居る男達も、美少女の神プレイに呆然としている。もう上手いを通りこして何か怖い。

「おい、坂本何やってる! ボサッとするな、引き金を引くくらい子供でも出来るぞ」

「あ、はいはい」

 やべえ、見蕩れてた。観客の一人に成り下がっていた自分に気がつき銃を構える。

 はっきり言って轟教官のテクは超人的だ、だからメインは轟教官に任せ、俺はフォローに徹する。

「ほう、中々やるじゃないか坂本。拳銃の実技だけは良い成績だと聞いていたが、嘘ではなかったようだな」

「はは、ありがとうございます」

 俺の場合、拳銃の実技以外壊滅的だがな……。

 俺が撃ち漏らした敵は全て轟教官が倒してくれた。そのおかげで、一回もライフを削られる事無く、百円でラスボスまで辿りついた。

 そのころには結構なギャラリーが俺達の周囲に出来ていた。ゲームが上手い奴ならここら辺にゴロゴロいるだろうが、轟教官の芸能人ばりの可愛らしさと、次元ばりの腕前は、ゲームセンターを一つのステージにしていた。

「やった~! 全クリ!」

 ラスボスがゆっくりと倒れる中、轟教官が拳銃を握り締めたまま、感極まったかのように俺に抱きついてきた。

 ふわっと意外に柔らかい感触、首もとに抱きついてきて無邪気に笑う轟教官に、一瞬心を奪われる。香水を少しつけているのか、ちょっと甘い匂いがして、花の匂いに誘われるように、俺の体が引き寄せられた。

「ほら、見ろ坂本、エンディング」

 拳銃をブンブン振り回しながら轟教官が画面を指す。プレイ途中からかなり夢中になっているのが端から見ても分かった。今もそのテンションのままなのだろう。警察学校ではまず見ない女の子の轟教官だった。

「良いすね。何か……」

 俺はエンディング画面を眺めながらそう言った。確かに、今までの頑張りが報われるようだ。時間潰しに今までプレイしていたが、かなり楽しかった。

 まあそれも一緒にやる人次第なのだろう。俺は純粋に轟教官と遊んで、それが凄く楽しかったんだと思う。

「よし! 次は何する?」

 満足げにハイスコアの名前を記入し終えた轟教官が、上機嫌で尋ねてくる。俺は微笑み返すと一つの機械を指差した。

「折角だから、プリクラ取りましょう」

 俺が何と無しに口にすると、轟教官の顔が急速に火がついたようにボッと赤くなった。

「ば、馬鹿。あ、あれは女性専用だ。男子は入っちゃいけないのだ」

「え? でもカップルはOKって書いてありますよ?」

 俺はまあ、別に男女で入れば良い程度の認識でそう言ったのだが、轟教官の顔はさっきよりも更に真っ赤になった。

「お、お前、カップルって、いや、その……わ、私は教官でお前は生徒であってな、なんというか、一人の生徒を特別視するのは教官としてあるまじき行為であって……いや、別にお前が嫌いというわけでは、いや待て、別に特別って意味でもないからな!」

 大層テンパッておられる轟教官だった。

「いや、別に女性の方がおられれば、それで良いという意味ではないでしょうか?」

「なぁ! そ、そうか。いやははは。そうだな。お前と私は何でも無い、何でも」

「いや、強いてそこまで否定しないでも……」

「な、ならば行くぞ」

 耳まで真っ赤にしながら、轟教官が俺の手を引く。恥ずかしくて力の加減が出来ないのか、引かれる手がかなり手が痛い。

 轟教官は周囲の目をかなり気にしているのか逃げるようにプリクラの筐体の中に入った。

「いや~プリクラとか取るの超久しぶりっすわ~」

 カーテンの中に入ると、煌びやかというよりは、どこかケバケバしい、派手な内装が俺達を出迎えた。何度入ってもこの空間には馴染めそうに無い。

 だが俺以上にこの空間に馴染めていないのか、轟教官が目に見えてそわそわしている。

「あの~大丈夫ですか?」

 俺が心配そうに尋ねると、轟教官はちょっと涙目になる。

「わ、私はどうすればいいのか分からんのだ! お前が何とかしろ!」

「はい~。あ、何かフレーム選べるみたいです。どうします?」

 俺が好きなゲーム、ペルソナのジャックフロストがある。

「な、何でも良い」

 どうやら恥ずかしいらしい。目を伏せたまま轟教官がそう答える。

「じゃあこれで」

 俺は特段迷う事無く、ハートが散りばめられたフレームを選んだ。何となく、轟教官が可愛いもの好きであることは服装やらで分かっていたので、気を遣った形だ。

 うん。俺、気遣いが出来る子。偉い偉い。俺が自画自賛していると。

「ば、馬鹿者。こ、これじゃ、カップルみたいじゃないか!」

「え? そうすっか?」

 あ~言われてみれば確かに恋人同士が好きそうな感じだわ。

「いやでももう決定しちゃったんで。まあ良いんじゃないですか?」

「よ、良くない! 誰かに見られたらどうするんだ!」

「え、いや誰かに見られなければ大丈夫では……」

 気にしすぎじゃねえ?

 しかし、轟教官は俺と価値観が違うのか、顔を真っ赤にして怒っている。

「大体貴様はいつもそうだ。何でも何とかなるだろうとタカを括っている。この前の件でもそうだが、お前の行動の尻拭いの為にどれだけの人間が動いているかを考え――」

「あ、シャッター切られますよ。ほら! あっち向いて!」

 何か説教をされていたような気がするが、シャッターの時間制限が迫っていたので、轟教官の肩を掴んで強引に前を向かせる。

「ひゃ、な、何を――」

『カシャ!』

 轟教官が抗議しようとした瞬間にシャッターが切られた。

「あ、まだ取れるみたいだ。美沙さんほら前向いて、笑顔、笑顔」

「な、貴様ぁ……後でただでは置かんからな」

「取りあえず取りまくって後で落書きとかするみたいっすね。はいポーズ」

 轟教官を胸に抱き寄せ、ピースをする。こんな美女とプリクラを取る機会なんて、もう一生ないかも知れない。出来るだけ、思い出に残るようにしよう。

 何だかんだ言いながらも、最後の方は轟教官も開き直ったのか、俺と一緒に手を取ってピースをしていた。やけくそになっただけかも知れないが。

「落書きかぁ~こういうの苦手だなぁ……」

 ポリポリとペンを持ちながら、俺は頭をかいた。描かなきゃいけないのは落書きだが、如何せんセンスというものを生まれて来る時に忘れて来てしまったのだ。

「貸せ。私が描く」

 すると横から轟教官が手を伸ばした。俺はペンを渡した。

『キュピーン!』

 そんな効果音が聞こえるかの様に、轟教官がペンを走らせる。

「お、おお~」

 俺はそれを見て思わず驚嘆した。まるで、画家の様に、あるいはデザイナーの様に、轟教官が筆を走らせるたびに、ただのプリクラが素晴らしい物に生まれ変わっていく。

 というか……やはり轟教官は可愛い物に目が無いのだろう。夢中になってペンを走らせる目は輝いており、鼻息が荒い。頬はちょっと蒸気して興奮状態だ。そこいらの女子高生よりも、よっぽど女子高生らしい。

「出来た~。はは、意外と楽しいなこれ!」

 顔に無防備に満面の笑みを浮かべながら、轟教官が振り返る。その仕草が余りに不意打ちで、俺は自分でも驚くくらいに、胸が高鳴った。

 落書きも終わり、外に出ると、轟教官は写真が出てくるのをそわそわ、わくわくとしながら待っていた。

「楽しみですね」

 俺がそう言うと轟教官は自分の今の状況に気が付いたのか、はっとした顔をすると恥らう様に少し俯いた。

 そんな事をしているうちにプリクラが出てきた。轟教官はそれを見ると嬉しそうに頬をかく。

「おい、坂本。このプリクラをどうする?」

 俺に半分手渡して、轟教官が困った様に聞いて来る。恐らく轟教官はどうしようか悩んでいるのだろう。

「あ、じゃあ、とりあえず携帯に貼ります」

 俺は一枚剥がすと、ペタリと携帯の電池ケースの裏側に貼った。

「なぁ……」

 轟教官が絶句する。一体どうしたのだろう……。

「馬鹿者! 携帯に貼る奴があるか! 他の者に見られたらどうする!」

「いや、大丈夫だと思いますよ。これ見て美沙さんだと分かる奴は居ませんから。俺も絶対に他の奴には見せませんから」

「ぬう……」

「二人の記念として取っておきたいじゃないですか。こういうの。俺、他の場所に置いとくとなくしちゃいそうだし」

 なおも渋い顔を見せる轟教官を俺は説得する。

 俺の言葉を聞くと、轟教官の顔が火をつけた様に真っ赤になる。

「き、記念か……ならしょうがないな」

 教官はそう言うと、自らの携帯を取り出すと、俺と同じ様に電池ケースを取り外し、その裏にぺたりとプリクラを貼った」

 俺はそれが微笑ましくてクスッと笑う。

「おい、何を笑っている! 坂本!」

 轟教官は視線を微妙に逸らしながら俺の袖を引っ張った。

 俺達はその後、格ゲーや、クイズなどゲーセンを制覇する勢いで遊び倒した。

「もうこんな時間か……」

 俺は腕時計を確認する。くそう警察に入ってから腕時計を確認するという妙な癖が付いちまった。

「うむ、そうか?」

 轟教官が釣られる様に時計を確認する。現在の時刻は六時半、俺は七時から佐伯と約束がある。

「むう……あっという間だな」

 拗ねた様に轟教官が呟いた。まだまだ遊び足りないらしい。

「楽しかったですね。美佐さん」

 俺がそう言うとふっと轟教官は笑みを浮かべた。

「まあな。それでは行くか」

 轟教官と連れ立って、ゲームセンターを出る。この時間になると日が落ちて、商店街の明かりが一層輝きを増している。

「なあ、坂本」

 風が涼しく気持ちが良い。そんな中、轟教官がそう切り出した。

「お前は警察が好きか?」

 突然の言葉、何だか俺に問うというよりは自分に問いかけている様だった。

「まあ、好きじゃないですね」

 俺はそれに正直に答える。

「ふ、そうだろうな。坂本、私もそうだ。私も警察という組織が……嫌いだ」

 意外だった。轟教官は警察という組織に居る事に誇りを持っている人だと思っていた。

「何か意外です」

「ふふ、まあ学校では警察として誇りを持てとか色々言っているからな。しかし坂本。警察では理不尽な事も多い。例え正しいと分かっていてもそれが行えない時もある」

 それはまあ、俺も大人なんだから、正しい事だけやって生きて行けるとは思っていない。

「この前のお前の件もそうだが、例え正しい事をしても、それを悪しき事だと言われる事もあるんだ」

「それでも俺は……構わないですよ。あれが正しくないなら、俺は正しくなくていい」

「ふ、そうか……」

 目を伏せ言った俺に、轟教官は優しい目でこちらを見ていた。

「目の前の石を蹴り飛ばす様な生き方では、この組織で生きて行くのは息苦しいだろうな……だが、それでもお前が良いのならば、貫いてみるのも良いかも知れん」

 轟教官は俺をまぶしい物でも見る様な目で見て、俺の背中を叩いた。それはとても力強く、俺は咽てしまったが、轟教官が肯定してくれるだけで、とても心強かった。

「確か、坂本は日比谷線だったな。ならここで良い」

 俺の使う路線をしっかりと把握していた轟教官が、ゲームショップの前で止まった。もしかしたらゲームを買っていくのかも知れない。

「そうですか? じゃあ、美沙さんも気をつけて、あんまり遅くなると危ないですよ。ガラの悪い奴もいますから」

「ふん。問題ない。私なら十人相手でも制圧出来る」

 確かにそれぐらいはやってしまいそうだ。

「駄目っすよ。女の子なんだから、もし何か有ったら俺の責任です」

「お、女の子だと? ば、馬鹿にするな。私はお前より年上で、お前よりも強い」

 口では反発したが何故か顔は褒められた様に嬉しそうだった。

 俺は轟教官に挨拶すると、その足で次の目的地に向かった。



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