第一章 入校
ヒラヒラヒラ。
桜の花びらが足元に落ちる。
ぽかぽかと暖かい陽気が俺の背中を暖めた。
素晴らしいお天気だった。こんな日はブラブラ洋服でも見ながらアメ横でも散策したい。
しかしそんな事は実際には出来ない。出来ないからこそ、思いを馳せてしまうのだろう。
何故出来ないのか? それは俺にこれから用事があるからに他ならない。
しかも、この用事というのがとてつもなく気が重い物だった。叶うことならこのままばっくれてしまいたい。
ていうか実際今もばっくれようかと本気で迷っている……この警察学校の校門前で。
そんな俺の横をスーツ姿の者達がこちらを物珍しそうに見ながら通り過ぎていく。その面持ちは若干緊張しているように見えた。
彼らはつまりこれから俺の同僚になる奴らなんだろう。彼らからしたら、何故さっさと校内に入らないのかと疑問に思うかも知れない。
けれど彼らもきっと根底には俺と同じ気持ちがあるに違いない。何故ならここは離職率ナンバーワン、現存する職業の中で規律が最も厳しく、約半年間、鬼教官にしごかれまくるというあの警察学校なのだから。
ここに望んで来る奴は多分一人もいないはず、もしいるならそいつはよっぽどのマゾ野郎だろう。
こう見えてこの俺、坂本一輝は根性が無い。
一つの事が長続きした例が無いし、親の勧めで始めた柔道は三日で辞めた。校内のマラソン大会においては、常に友人と共にゴールテープを切り、勉強を始めたら何故か、漫画を読んでいる絵にかいた様な駄目人間だ。
それゆえにこの警察学校も恐らく三日も持たない自信がある。
いや自信じゃない、これは確信だ。
じゃあ何で俺がスーツ姿で慣れないネクタイまでしてこんな所に居るのか?
説明すると長くなるというか……大学四年生の時まで遡らなければならない……。