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第五章 トリプルブッキング  5

「そろそろ昼飯にしないか?」

子供と一緒に白熊の山に身を乗り出す九月に尋ねる。

「…………そうね」

言われるまで空腹感に気付いていなかったのだろう、九月はお腹に手を当てて頷いた。

俺達はそれからブラブラと園内を歩き、見つけた屋台で、適当に軽食を注文する。

手近な所にベンチとテーブルがあったのでそこに俺達は座った。

「あひぃ~疲れたぁ」

園内を歩き回って正直くたくただ。

「そう? 四十三キロ競歩の方がキツイんじゃない?」

「止めてくれ思い出したら萎える」

警察学校名物、四十三キロ競歩のキツさは機会があれば話す。

「…………つまらなかったかしら?」

九月がポテトをかじりながらぽつりと呟く。

「全然……」

俺は同じ様にポテトをかじりながら九月を見る。すると視線を上げた九月とバッチリ目が合った。

「全然面白かったよ。たくよう、ていうかお前はどうなのよ? 動物が好きなのは分かったけど俺と居て楽しいの?」

「楽しかったわ昔お父さんと杏と来た時のようで……」

懐かしむ様に目を細める九月。その優しげな表情に何だか気恥ずかしくなってしまう。

「お父さんか……九月の親父さんは何してる人なの?」

「警察官だったわ」

「へぇ~警官……」

だった? 過去形ということはつまり。

「うん? もう違う仕事してるのか?」

転職した。俺はそう思ったしかし――。

「死んだわ私が子供の頃に」

返って来た答えはヘビーなものだった。

「そうか……」

俺が返せたのはこんな言葉だけだった。こういう時俺は何て言っていいのか分からない。

静かになった雰囲気の中九月は続ける。

「坂本はどこかお父さんに似ているわ。いつも笑っていて、破天荒でどこか子供みたいな。でもいつも私達に優しかったお父さんに」

九月は買ってきたカフェラテに手を伸ばすとストローを使わずに一口飲んだ。

どこまでも絵になる姿だった。

「ごめんなさい。つまらない話をしてしまって」

「いや、そんな事ねえよ。つうかまぁ変な話、話してくれて嬉しかったっていうか……」

あぁ駄目だ考えがまとまらねえ、どうして俺はこんなに頭が悪いんだ。

「俺は最初会った時お前が嫌いだった。高飛車で人を見下してるような奴で、暗くて、何考えてるか分からねえとんでもねえ毒吐く、性格ブスで……」

俺の一言一言に九月が怒りを溜めていくのが分かる。あー! でも俺が言いたいのはこんな事じゃ無く!

「でも本当はすげえ優しい奴で! 困った奴はほっとけなくて! 感情表現が苦手なだけで実は結構気分屋の所も可愛いっていうか! 動物と遊んでる子供ぽい所とか守ってやりたいと思った!」

あぁもうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 何を言ってるんだ俺は。訳が分からない。でもいいや! どうとでもなれ!

『ドン!』

俺は思いっきり机を叩いた。九月が驚いた顔で俺を見た。

「九月! 俺はお前が好きだ!」

――何か……告白しちゃった。

俺の告白を聞いたとたん。九月の顔が火がついたように真っ赤になる。

「…………え。それって、え、え……」

パクパクと口を動かし完全にフリーズする。九月。

ちなみに俺も完全に真っ白である

「そ、それは付き合ってほ、欲しいという意味?」

九月が動揺してるのが分かる。九月さん貴方が今口にしてるのは俺のコーラです。

「そ、そうです?」

「何故貴方が疑問形なのよ?」

「いや、俺もテンパっちゃって」

「俺も? べ、別に私はテンパって無いわよ」

「嘘つけ」

「嘘じゃないわ」

「嘘だ」

「嘘じゃない」

何故か言い合いになってる俺達。

「ははっははは」

それに気付いて俺は堪えきれない様に笑ってしまった。

「ふふ……」

九月も微かにわらっていた。

「考えてあげてもいいわよ付き合うの」

「え! まじで?」

目を大きく見開いて俺は言う。あんまりに意外過ぎて聞き間違いかと思った。

「何よ。貴方から言い出したのよ。それにまだ答えは出せないけれど……貴方がそれでもいいなら」

恥ずかしそうに目を伏せながら九月が呟く。その様が何ともいじらしい。

「それで良いよ。返事待ってるわ」

あぁ何と言うか俺はこの歳にして初めて恋をしているのかもしれない。

今まで恋愛なんてしょーもない。こっぱずかしいもんだと思っていたが、自分がそうなってみると足元がふわふわして落ち着かないというかテンションがずっと上がりっぱなしだ。

その後俺は自分が何を話したのかあまり覚えていない。

まだ見てない動物を九月と見て回り、取り留めの無い話しをした。

だけどそんな行為が最初の時とは違ってどこか二人ともソワソワしてた。けどそれは決して不快な物ではなく。どこか新鮮な感じがした。

「そろそろ時間だ」

俺は腕時計を見る。時刻は二時ちょうど、轟教官との待ち合わせは2時半だ。

「そう……」

残念そうな? いや分からない。相手に感情を読ませないような表情で九月は頷いた。

多少の名残惜しさを感じながら九月と出口に向かう。今感じている寂しさを九月も少しでも感じてくれていたら良いと思った。



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