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第五章 トリプルブッキング 2
柔道の黒帯習得は修羅の道だなぁ
「パンダ~可愛いわねぇ~」
トロンした目で柵越しのパンダを見つめる九月。何かもう九月っぽい別人と一緒にいる気分である。
そんな九月の視線に気付いたのかパンダが愛くるしさをアピールするようにバスケットボールをお腹に抱えゴロゴロと地面を転がる。
「きゃあああ! 可愛ぁいいい!」
『ビシビシビシビシビシ!』
口元を片手で抑えながら堪え切れないように、手をぶんぶん振る。
「ちょ、待て。いて、いてえよ」
だがそれは全弾俺に命中していた。
「ねえ! 可愛いと思わない?」
微かにほんの微かに微笑みながら九月がこちらを見た。
その笑顔はあまりに可憐で、パンダよりも注目を集めていたが、本人は気付いてない。
「うん。可愛いな」
「そうよね。私次に生まれ変わる時はパンダに生まれ変わるわ」
「はは、どんだけパンダ好きなんだよ」
九月はじっとパンダを見つめてる。このままだと何時間でもここに居そうだ。
「ほら九月、そろそろ触れ合い動物園の時間だぜ。行こう」
俺は九月の手を握って軽く引く。
「あ、でも、リンリンがこっちを見てるわ」
「じゃあバイバイしろ、次はうさちゃんが待ってるんだろ?」
「そ、そうね」
まだ九月はもの足りなそう顔をしていたが
「また、また会いに来るからね!」
まるで子供と生き別れる母親のようにそう言った。




