地獄 2
途中でリアルな番外編を書きたいです
「馬鹿め」
今の坂本の回数は百三十回。百五十回には届いていない。
私は倒れた坂本の側に行く。すると気持ち良さそうに無防備に眠る坂本の姿があった。
こんなにボロボロになるまで私の挑発に乗って……自然と顔が綻ぶのが抑えられない。
ああ、そうだ。私はこいつが堪らなく愛しい。
「ちゃんと認めているよ」
だから誰にも聞こえないようにそっと耳元で囁く、坂本は『っん』と少し身じろぎした。
「おい。この馬鹿を早く医務室に連れて行け」
私は教官の顔に戻ると近くの学生に声をかける。
『ハイ!』
教官の命令は絶対だ。跳ねる様に坂本に近づくと、何人かが抱え込み移動する。
『キーンコンカーンコーン』
すると丁度チャイムが鳴った。五時限目の授業だから別に続けても問題ないが、こいつらにも他にすべき事が山ほどある。
「貴様らこれで授業は終わるが、今やったのは警察官としては最低条件だ。出来ないのは許されない。出来なければ一線に出ても死ぬだけだ。だから出来ない奴は警察を辞めろ……分かったか!」
『はい!』
大きい返事が返ってくる。まだまだ未熟だがここのルールだけは把握しているらしい。
さて、私も教官室に戻らなければ、楽そうに思うかも知れないが教官の仕事はこいつらの数倍は忙しい。
私がそう思い振り返った時だった。帰る準備をしようと雑嚢を持った九月と目が合う。
九月はこちらを強い目でじっと見ていた。それはいつもの意志の強い目ではなく。どこか女特有の嫉妬するような目。それを見てピンと来るものがある。
ああ、そうだな……九月もだな。
九月が今どんな心境かはすぐに分かった。何故なら私も似た様な感情を持っていたから。
お前も坂本の事が好きだからな……。
九月は今自分がどんな顔をしているか気付いているだろうか? 案外自分の感情には鈍い奴だから気付いていないかも知れない。
「ふふ……」
自然と笑みがこぼれる。今まで仕事一筋で生きてきた自分がこんな事で心を動かされることがこんな事で心を動かされることが楽しくてしょうがない。
私は九月からこともなげに視線を外し教官室に戻っていった。