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第四章 深夜研修  4

ヤバイ……どうしよう……。

俺は呼び出された和室教場の前の廊下で落ち着きなくうろうろしていた。

和室教場なんて普段使わないところに呼び出された事には理由がある。というか勿論先日の命令違反の件である。

あの日気絶した俺は大事をとり一日入院した後、問題無しとなりこうして帰ってきたのだが、帰って来て早々、轟教官に呼び出された。

「はぁあああああああ」

めっちゃブルーである。

だがこうしてうろちょろしていても始まらない。俺は覚悟を決め、和室教場の扉を思いっきり開いた。

『ガララララ!』

勢い良く開いた扉の先。

轟教官は居た。

だが――何故か上半身裸で。

「ひゃあ!」

轟教官から聞いた事の無い甲高い、女性らしい声が響く。

しかし、俺は轟教官の裸に脳を焼かれていた。美しい……いや、かっこつけた。エロい体をしていた。

「きゃああああ!」

そんな轟教官が胸を抑え顔を真っ赤にしながらこちらに突進してきた。

『メキリィ!』

そして俺のにやけ面に拳が突き刺さった。

「ぬべら……」

そのまま吹き飛んで壁に激突する。

「の、ノックぐらいせんか貴様!」

恥ずかしそうに怒鳴る轟教官。可愛いと思いたい所だが再び入院してしまいそうな俺である。

「す、すみません」

だが殴られる価値のあるワンシーンだった。

俺の思考がお花畑に行っている間。轟教官はいそいそとジャージに着替えた。

そして咳ばらいしてスイッチを切り替えたのか。教官の顔になる。

「坂本、そこに座れ」

「はい」

俺は言われるままに正座する。もうお遊びは終わりだ。

俺が真剣な空気を出していると

「さ、坂本ぉ……」

プルプルと、轟教官が何故か震えた。

「貴様、そのにやけ面を何とかせんと殺すぞ」

「え?」

慌てて横の鏡をみると、にやけてました私。

「そんな事よりも轟教官、本日はどういったご用件でしょうか」

「そんな事ぉ?」

『ビギィビギィ』

血管の音を私、初めて聞きました。

「ふん。まあいい。貴様も分かっているだろう。自分がどうして呼ばれたのか」

そう渋い顔で言った轟教官を見て思う。あぁ、クビかぁ~。短い警察人生だった。再就職先はどうしよう。今氷河期だから難しそう……とりあえずフリーター? とりとめの無い事を考えていると。

「おい! 聞いているのか坂本!」

「あ、はい。聞いてます。すみません」

「たく……いいか坂本、今回の件は不問だ処罰は無い」

「え? まじっすか?」

唐突な吉報にぽかんとするが、とりあえず首の皮は繋がったらしい。

「勿論、貴様をクビにすべきだと言う意見もあったというかほとんどがそうだったがな。私を含むごく僅かな教官の反対で、今回は不問になった」

「え……」

俺は耳を疑った。轟教官は真っ先に俺のクビを進言したと思ったから。

「だがな坂本。この警察という組織はスタンドプレーを嫌う。僅かな天才の為に組織に影響があるくらいなら遠慮なく切り捨てる所だ」

轟教官はビシィ! と俺を指差すと。

「もちろんお前はただの馬鹿だがな」

『ズーーーーーン』

自分の心が落ち込む音を初めて聞いた。

「そういう訳だ。もう二度と先日のような真似はするな」

轟教官が釘を刺す。

「え、えっと……う、う~ん」

俺はそれに歯切れの悪い返事しか出来なかった。

「どうした? 何か気に入らんのか?」

轟教官は咎めるようにそう言った。

「いや、気に入らないというか難しいというか……」

「ハッキリ言わんか!」

俺の態度にイライラしたのか轟教官が怒鳴る。

「あ、はい。あの~怒られるかもしれないですけど多分同じ事がまた有ったら俺は同じ事をします」

嘘は苦手だ。本当に大切な事では嘘をつけない。

「そうか……お前は組織には向かないな」

轟教官は呆れたように深い溜息を吐く。そして腕を組んで胸を強調すると、苦笑いして俺を見た。

「坂本今度の土曜日空けておけ」

「はい?」

土曜日……それは俺達警察学校生にとって命の次に大事な日である。平日は勿論出られない俺達にとって貴重な一日、やりたい事が色々ある。

外出禁止? 俺が再びズーンとした気分になった時だった。

「出掛ける場所はお前に任せる。しっかり準備しておけ」

「え? どういう?」

轟教官の言っている事が分からない。

「貴様、まさか私に迷惑をかけておいて、何もしないつもりか? 貴様が組織に向いてないのは分かった。だが、恩を受けた相手に何もしないのは人として可笑しいだろ」

「は、はぁ……」

「分かったらせいぜい私を楽しませろ、つまらない思いをさせたら殺す。みっともない格好をしていても殺す」

何そのハードルの高いお出かけ!

「わ、分かりました」

とにかく外出禁止じゃないし良しとしよう。

「うむ。では戻れ。くれぐれも他の者に話すんじゃないぞ」

轟教官はそれ以上話す事は無いとばかりに手を振る。

俺は轟教官に頷くとぎこちない動きで退室した。



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