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第三章 轟教官 4

「いやぁ~随分機嫌良さそうですね♪ 轟教官」

軽薄な声と共に私の横にスッと男が現れる。特殊部隊も経験している私に気配すら感じさせないという無駄なスキルつきだ。

「……なんでしょうか? 菊地教官」

私は嫌な顔を隠そうともせず、菊地教官に顔を向ける。ちょうど先輩に当たるこの男が私は一番苦手だった。

「いや、特に用事は無いんですけどね! ははは!」

馬鹿に明るい態度、いつも飄々としていて捉えどころがない。

「用事がないなら、後にしていただけますか? 見ての通り雑務が貯まっていますので」

「はははっ! そうですよね~いや、実は私も書類が溜まってて、教官は楽だと聞いてたんですがね~あはは」

溜まってるなら早くどっかに行け! 

心の中でそう呟く、がもちろん実際に声は出さない。

「で? 何を楽しそうな顔で見ていたんですか?」

そういって菊地教官はひょいと私の見ていた資料を奪う

「あ! ちょっと!」

流石に怒ろうとするが既に菊地教官は射程距離外に逃げている。

「ほほぅ~今期の学生のプロフィール表ですかぁ。やっぱり轟教官は仕事熱心ですね~見習わなきゃなぁハハ!」

爽やかに笑うその姿は何も考えていないように見える。しかし、この菊地教官が凶悪犯罪検挙率ナンバーワンの男だった事は周知の事実だ。

「で、誰か気になる奴でも居ましたか?」

何となしに世間話でもする様に菊地教官が尋ねる。

「いえ……別に」

別に菊地教官に答える義務もないので適当に答える。

「またまたぁ~嘘言っちゃて、雑務が溜まってるのに学生のプロフィール見るくらい気にしてるくせにぃ」

鬱陶しい……この上なく欝陶しい。学生なら確実に殴ってる。

殺気を込めた目で睨んでもどこ吹く風の菊地教官。

「当てましょうか? 轟教官が気になってる学生」

資料を見ながら何となしに菊地教官がそう言って来た。その様子がまるで私の事くらいお見通しと言わんばかりでカチンと来る。

「いいですよ。当てられるものならどうぞ、けれどもし外れたら自分の席にお戻り下さい。迅速に早く」

どうせ分からないに決まってる。いや、分かってるに決まってるか? 誰だって分かるだろう。今期のスーパースターが誰かと言うぐらい。

それほど九月レナは圧倒的だった。

今から埼玉県内の各署が争奪戦を行うほどに……。

しかし、私が見ていたのは九月ではない。私が調べていたのはこの学校で何の日の目も見ないであろう生徒だから。

「もちろんこいつでしょ? 轟教官が見てたのは」

分かるはずない……私が失笑しながら菊地教官が指差したファイルを見ると

「こいつ。坂本でしょ! いやぁ~間違い無いですよ!」

「なぁ!」

何で分かるんだこいつは!

私が驚きの表情を隠せずにいると。

「いやね、私の昔の上司も教官でして、自分の教え子と結婚したんですよアハハ!」

鋭いんだか、すっとぼけているのか分からない。

「まあ、まだまだ轟教官はお若いですから……アハハ!」

「……セクハラですよ菊地教官」

「アハハ! 冗談ですよ。冗談! では!」

アハハハハハっとこっちが文句を言う間もなく、自分の席に戻る菊地教官。

「くそ、何なんだあの人は」

苛立たしく私は机に置いてあるお茶を飲んだ。

あ~腹が立つ。

この苛立ちの責任はあれだ、教え子である、坂本に取って貰うしかあるまい。

私はにやける顔を抑えきれず、坂本の顔写真に×をつけた。


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