第二章 同級生 5
「貴様! 何だその髭面は!」
グラウンドでいつもの様に全校生徒で集まり、訓練をしようと整列していた時だった。名も知らぬ、厳つい顔の教官が俺に向かって怒鳴りつけてくる。
やっべ~捕まっちまった~今朝、室長の用事で忙しかった俺は髭剃りを怠っていた。
しかし一般人から見れば全然髭など生えていないが、目敏くこの教官は見つけたらしい。
「はい! すみません!」
俺は素直に謝った。ここでは下手な言い訳をすれば、より酷い目に遭うのは今までの生活で身に染みてよく分かっている。
「私は何だと聞いてるんだ!」
それでもなおしつこく聞いてくる教官に対し。
「はい! すみません!」
俺の返事は変わらなかった。というか、もう正解の無いクイズみたいな物だこれは。
「謝れば済むと思っているのか? 犯人は貴様が謝ったところで許してくれないぞ! ……気をつけ!」
既に気をつけの姿勢だが限界まで背筋を俺は伸ばす。
「前ぇ~進めぃ!」
号令がかかる。号令がかかれば何時如何なる時でもGOだ。
「イチッ! イチッ! イチッニィ!」
俺は一人掛け声と共に前進する。他の生徒はその間直立不動で待機だが、目線が俺を追っているのが分かる。
「イチッ! イチッ! イチッニィ!」
俺はその視線を感じながらもグングン前に前進した。指揮官である教官が止めるまで、歩みを止めることは許されない。
「イチッ! イチッ! イチッニィ! イチッ! イチッ! イチッニィ…………」
しかし途中で俺の掛け声が止まった。というか止まらざるをえなかった。
何故なら目の前にはフェンスがあり、それ以上進む事が叶わなかったから。
俺は足を止め、その場で立ち止まる。すると……。
「貴様! 誰が止まれの号令を出した!」
背後から教官が怒鳴る。いや、どうしろと?
「進めぃ!」
「ええ!」
進めぃ! ってあんた目ん玉ついてないのか?
「どうした! 早く進め!」
そうかい、そういう事かい? いや分かった。OKだ。やってやろうじゃないの。
「イチッ! イチッ! イチッニィ!」
俺は掛け声を再開した。だがそこは行き止まり。
『ガシャ! ガシャ!』
フェンスにぶつかりながらも行進を止めずにぶつかり続ける俺。かなりシュールな図だ。
魁男塾かよ……心の中で突っ込みながらも、行進を続ける。
「全体ぃ~止まれぃ!」
「イチッ! ニィ!」
それから一分後、ようやく号令がかかって俺は止まる事が出来た。
これが……永井君が思い出し爆笑したフェンス事件である。