シャーロック・ホームズのお嬢様
心地良い日の光がカーテンの隙間から優しく射し込むとその温もりに思わず頬が自然と緩んでいる。そんな事は当然、人目見ただけで高価で寝心地の良いものだと分かるベッドに寝ているあたしには分からない。
起きる時間なのだが心地の良い暖かさにまだ寝ていたいが起きなければいけない、そう分かっているが眠りから覚めた頭はまだ寝ていたいと思っている。
そんな時は二度寝してしまえ。
一度開き掛けた瞼を閉じもう一度寝ようとする。しかしそれを許してくれる者は居ない。
扉をノックする音に気付かないフリをする。
「お嬢様、寝たフリ何て真似、私には分かっていますよ?」
「うおっ!ね、ねえ!毎日毎日驚かすのやめてくれない!?」
「毎日毎日驚かされるのが嫌であれば、是非私に起こされない様早く、起きてください。それとお嬢様。もう少しお嬢様らしく驚いてください」
爽やかスマイル。その言葉が似合いそうなこの男。東真人。
この男は毎日毎日あたしを起こそうと得意の爽やかスマイルを浮かべて驚かす、専属執事だ。今日も見事に真上から顔を覗かれ、驚いた。
…起きないあたしが悪いなんて知らない!
「お嬢様らしくない驚き方で悪う御座いました!」
あたしはこんな爽やかスマイルには騙されないぞ。だがしかし、マダムや女子高生だけでは足りず、様々な年齢層の乙女から人気絶大なのだ。
全く困ったもんだ。
あたしからしたら腹黒スマイルだ、あんなの。そんな腹黒スマイルを浮かべる東を部屋から追い出しパンツスーツに着替える。
染めた事の無い真っ黒な髪は痛みを知らないのか艶やかで、光を反射している。
胸下まで伸びた髪の毛をドレッサーの前で整えていれば窓の外から雀の鳴き声が聞こえそちらに視線を向けた。
今はカーテンが開かれており窓の向こうからは桜が見えている。
もう、4月かあ。…この前まで女子高生だったんだけど、ああ、戻りたい。
そう、あたしは高校を卒業したばかりだ。卒業したとは言え小中校大、揃った学校だから大学生なのだけど。
窓を開くと涼しい風と共に春特有の匂いが部屋に入り込み、多くの新しい生活のスタートに気合いを入れてくれるようなそんな感じがして笑みが溢れるもそろそろ朝食の時間だ。リビングへと行かなければ東にまた驚かされちゃう。
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レッドカーペッドの敷かれた長い廊下を歩きリビングへと向かえば良い匂いに思わずお腹が鳴ってしまった。
「わ、今日はあたしの大好物の目玉焼きじゃん!当然塩だよね?ね?」
「早く座って食べてください。それに私は醤油派です」
「醤油は許せるけど、ソースは絶対許さないからあたし」
「それを私に言われても困ります」
相変わらずの腹黒スマイルだコイツ。