粗品
この物語はフィクションであり、実在する人物とは一切関係ありません。
遊園地の入場ゲートでなにやらゴネている男がいる。
「だから何でこのチケット使えないんだよ!!」
「ですから入場規制中はそちらのチケットでは入場出来ないのでありまして…。」
こんなやり取りをもう約三時間程繰り返している。係員もほとほと困り果てていた。
やがて男は、
「もういいよ!!二度とこんなとこ来ねぇ!!」
と捨て台詞を吐いて帰っていった。
翌日、男の自宅のインターホンが鳴った。男が出ると、そこには誰もいない。しかし、何やら小包が置いてあった。
その小包には『粗品』とだけ書かれた紙が貼られてあり、送り主が誰なのかが分からない。
不審に思いながらも小包を開けると、中は、昨日行った遊園地キャラクターのお菓子の詰め合わせだった。男には心当たりがあった。
遊園地に電話をする。小包の話をすると、相手は思いがけない返事をした。
「私共ではございません。」
「嘘をつかなくてもいいよ。君達なんだろ?」
「決して冗談を言っているのではなく、本当に私共ではないのです。」
「だって君の所のキャラクターのお菓子だったんだよ。」
「そう申されましても…。」
確かに遊園地のキャラクターグッズが届いたからといって、それだけでは遊園地側が送った物との証明にはならないし、何より、電話向こうの相手の口調は、本当に嘘や冗談を言っている様子ではなかった。
「では一体誰なのだろう?」
その疑問は拭えなかったが、得をしたと男は楽観的に捉える事にした。
翌日、自宅のインターホンが鳴り、出るとそこには『粗品』とだけ書かれた紙が貼られた遊園地キャラクターのヌイグルミが置かれていた。
「やっぱりだ。」と男が遊園地に電話をする。だが返事はやはり、
「私共ではございません。」
だった。
「嘘をつくな!!あんたらの遊園地のキャラクターグッズなんだぞ!!」
「しかしですねぇ…。」
らちが明かないと電話を切った。二日連続で届いた送り主不明の届け物に、さすがに男も不気味さを感じる。
翌日、自宅のインターホンが鳴る。急いで出るがやはり人はおらず、『粗品』の貼り紙がされた小包。開けると遊園地キャラクター達のジグソーパズルだった。 質の悪いいたずらだと、男は犯人を捕まえてやろうと思った。
翌日は休日、男は一日中玄関前で見張る事にした。しかし途中、トイレでその場を離れ、戻ると、玄関前に置かれていた。
『粗品』
男が少し離れた間、何者かに置かれていたのだ。開けると遊園地キャラクターがプリントされた陶器のマグカップ。 男は怒りまかせにマグカップを地面に叩きつけ割った。
翌日、男が出先から帰る。男は緊張していた。玄関前にあの『粗品』が置かれてあるのではないかと思ったのだ。
だが玄関前には何もなく、男は安堵する。しかし、自宅の鍵を開け、部屋に入り驚愕した。
テーブルの上にそれはあったのだ。
『粗品』
何故?一体どうやって?部屋の鍵は閉まっていた。
男はとうとう警察に連絡するが、それはほぼ無駄だった。届けられた荷物、部屋からは一切指紋や靴跡といった、犯人に繋がるものが見つからなかったのである。
男は部屋、玄関前に監視カメラを仕掛けるが、それも無駄だった。男を嘲笑うかのように、カメラには何も映っていなかった。
その間にも毎日必ず届く『粗品』
男は引っ越す事にした。だが、どこで調べたのか、男の引っ越し先にも『粗品』は届いた。
その内、男は誰かの視線を感じるようになる。初めは気のせいかとも思ったが、日に日に感じる視線は強くなっていった。どこからか、誰かにずっと見られている視線…。
そして、毎日、毎日『粗品』は届けられた。
ある日はベランダ、またある日は車の助手席。会社のロッカーに届いていた事もあった。
もう何人にも、
「この荷物を置いた、届けた人物を見なかったか?」
と聞いた。しかし、見た者は誰もいなかった。
感じる視線、必ず届く『粗品』
いつ終わるとも知れない見えない相手との鬼ごっこに、男の精神が異常をきたし崩壊するのも時間の問題だった…。