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異世界商売記  作者: 桜木桜
第一章 立志編
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第6話 それぞれの事情

 ロアが捕まっていた。ハルトは慌てて言葉の裏を聞ける能力を使う。

 「いや、それはその……」(たしかに万引きしたことあるのは本当だけど、それは今関係ないじゃん……でもそれ言ったら自白になっちゃうし……ああ、反論できない……)


 

 万引きしたのは事実らしい。たとえ財布を盗でいなかったとしても犯罪を犯したのは事実。たとえそれが生きるためであったとしてもだ。法律は法律、ハルトはロアを助けられない。それにハルトとロアは出会ってから数日しかたっていない。ハ

ルトにはロアを助ける義理はないだろう。


 ハルトはそう思い、その場を離れようとする。だがその時ロアの笑った顔が脳裏をかすめた。

 もしロアを見捨てたらロアはどうなってしまうだろうか。間違いなく奴隷として売られるのだろう。ロアは汚れているが整った顔をしている。娼館や金持ちの爺さんのところに売られるのだろう。そしてロアは……

 そこまで考えた時にはハルトはすでに動き出していた。


 「ちょっと待ってください」

 ハルトはロアを押さえている警官に声をかけた。

 「なんだ、あんたは……こいつの知り合いかなんかか?」

 ハルトは動じずに答えた。

 「ええ、その子とは少し知り合いです。何があったんですか?」

 ハルトがそう聞くと警官が答える。


 「このガキが財布を盗んだんだ。庇おうとしても無駄だぞ。事実だからな」

 「だから盗んでなんかいないって言ってるじゃないですか!! 信じてくださいハルトさん。私がそんなことをする人間に見えるんですか!!」(財布は本当に盗んでません。まあ、万引きは否定できませんが……)

 なるほど、ロアが無実なのは本当のようだ。まあ、たとえ嘘でも助けられたら助ける予定だったが。


 「ですがその子は盗んでいないと主張していますが……盗んだという証拠はあるんですか?」

 「ああ、こいつの持っていた財布には金貨が入っていた。間違いなく盗んだものだ。それにこいつは過去に何度も万引きしている」(2級市民は犯罪予備軍だ。スリだって平気でやる)

 

(それは証拠って言わねえよ!!)


 ハルトは心の中で思わず突っ込んだ。持っていたからといって盗んだと決めつけるのはどうかと思う。だがロアは犯罪履歴がある。疑われても仕方がないだろう。ハルトも一度盗撮した奴が痴漢容疑にかかったとして、そいつが冤罪と主張しても正直信じられないだろう。人間とはそういうものだ。


 「ですが、それは確固たる証拠ではないですよね。すぐに決めつけるのは良くないと思いますが……」

 「そんなことで犯罪者を見逃してたら治安は悪くなる一方だ。こいつは3級市民に落とす。これは確定事項だ」


 さてどうしたものか……当然ハルトには警察にコネなどないし。このままではロアは奴隷市場行だろう。ハルトが悩んでいると奴隷市場から男性が現れた。

 「どうしたんだ。そんなに騒いで……」

 目つきの鋭い男だ。男はぐるりと周囲を見渡した。警官は慌てて男に話しかけた。

 

 「これはユージェックさん。これはですね……。」

 警官がユージェックと呼ばれた男に事情を説明する。

 「なるほどねえ、あんたがこいつの知り合いか?」


 ロアを指さすユージェック。いきなりため口だ。ハルトはこいつに敬語はいらないと判断する。

 「ああ、ハルト・アスマだ。あんたは?」

 「俺はユージェック・マルサス。奴隷商館の管理をしている者だ。事情は聞いた。少しなかで話をしようじゃないか。あ、君はもう下がっていいよ」

 警官は敬礼をして巡回に戻っていく。


 「さて、3級市民君。なに逃げ出そうとしているのかな?今から君の処分を決定するところなんだが。逃げると不味いことになるよ」

 ぎくりと震えるロア。この隙に逃げ出そうとしたようだ。

 「さあ、二人とも中に入りたまえ」

 ハルトとロアは言われるままに中に入る。


 「さあ、座ってくれ」

 ユージェックは2つのイスを指さして言った。1つはハルトのイス。もう1つはユージェックのイスということだろう。ハルトが座るとユージェックも座る。机に肘を置いてユージェックは切り出した。


 「率直に言うとそのロアという小娘を助けることはできん。クラリスは最近治安が悪化していてね。取り締まりを強化しなくてはならないんだ。例え怪しくても逮捕させてもらう」(2級市民は減った方がこちらとしてもうれしいしね)

 きっぱりと言われてしまう。ただ、ここでハルトも引き返すわけにはいかない。


 「だが疑わしいと「大丈夫、君の言い分も分かっている」

 ハルトの言葉を遮るユージェック。にやりと笑って続ける。

 「このまま君が裁判なんかにでて大騒ぎを起こされたらこちらも困る。だから代替案を提案させてもらう」( うるさい連中がまた騒ぎ出すからね……)

 ユージェックは一呼吸おく。


 「要するに君は知り合いであるこの小娘が不当な目に合うのが嫌なんだろう。だから彼女を特別に売ってやろう。そうだね……250万でどうだ」

 「な!子供の相場は100万のはずです。そんなのぼったくりじゃあないですか」


 ロアが叫ぶ。まったくその通りだ。相場の2.5倍なんてふざけているようにしか聞こえない。


 「いやいや、そんなことないよ。君はなかなか可愛らしい顔をしているし、髪もきれいだ。まだ子供だけど成長を見越して買おうとするやつだっているし、君のような子供が好きな奴だっている」

 そういわれてロアは微妙な顔をする。褒められているのは確かだろうが、高値で売れると言われてうれしいわけがない。


 ユージェックはハルトに向き直る。

 「それに本来なら競りに出すところを特別に君に売るんだ。多少高くても文句は言えないはずだよ。1ドラリアも負けないからね」(切羽詰まってるのはこいつだ。俺としたら今売れなくても構わない)

 ハルトは悩む。あとで競りに参加して買った方が安く済むかもしれない。だがハルトは奴隷市場の競りに参加したことはない。もしかしたら買えない可能性もあるだろう。今買ってしまった方がいいかもしれない。


 「わかった。これでいいだろう」

 ハルトは金貨を25枚出した。ユージェックは驚く。

 「いや、ローンで分割払いでも良かったんだけどね。まあ現金払いしてくれるならそれでいいけど」

 ユージェックは金貨を受け取ったあと、書類を取り出す。


 「サインしてくれ」

 ハルトとロアは契約書にサインする。

 「さてこれで解決だ。そのガキはどうにでもしてくれ」

 そういってユージェックは奥に消えていく。ハルトとロアは一緒に奴隷商館をでた


 奴隷商館を出たあと、そうそうにロアは切り出した。

 「どうして助けてくれたんですか?」

 「なんとなくだ。あと味が悪いからな」

 「優しすぎですよ……」

 「そんなことないぞ。親しくない奴は助けない。お前とはなんというか、わりと話した仲だからな」


 ロアは納得していなさそうな顔をする。会ってから数日しかたっていない人間のために250万も出す人間はそうそういないだろう。当然だ。 


 「それはそうと、ありがとうございます。ところで私どうすればいいんですか?」

 「とりあえず250万相当の働きをしてもらわんと俺が困る。お前何ができる?」


 ハルトが聞くとロアが少し悩んでから答える。

 「母の手伝いはしていたので家事は一通りできます」

 生憎ハルトは宿に泊まっている身だ。食事も買って食べている。家事スキルは必要ない。


 「俺は宿に泊まってるからな……それ以外になんかないのか?」

 ハルトがそう聞くとロアはほんのり頬を赤らめて言う。

 「じゃあ、その……夜のご奉仕とかは……」

 ハルトはロアを冷めた目で見る。

 「な! なんですか、その目は!!」

 「いや、お前自分のこと正しく認識できてんの?その貧相なからだで夜のご奉仕?生憎俺はこう、胸とか尻のでかいグラマーな女が好きなんだよ。あ!もしかしてギャグだったか?そいつはすまん。俺が勘違い野郎だったな」


 ハルトがまくしたてるとロアが顔を真っ赤にして言い返す。

 「そんなに言うことないじゃないですか!確かに私は12ですし、栄養が足りてないせいでちょっと肉が足りてないですが、成長すればナイスバディになるはずです。っていうかギャグって何ですか! 確かに少し冗談も入ってますが、そのくらい感謝してるって意味ですし、そんな冗談も言うくらいは信頼してるってことですよ!!」


 どうやらロアはハルトにだいぶ気を許してるらしい。ハルトもそこまで言われるのは満更でもない。だが、ハルトには一つだけどうしても言わなくてはならないことがる。

 「そりゃあどうも。でも一つだけ言わせてくれ。お前くさい」

 「なっ!!!」


 ショックを受けるロア。そして自分の服を鼻に付けて臭いをかぐ。

 「スンスン、別に臭くないじゃないですか」

 「そりゃあ、そんなに臭い状態で過ごしてたら鼻もおかしくなるだろ。風呂入れ風呂」


 ハルトが言うとロアは困った顔をする。

 「私みたいに汚いと浴場にも入れてもらえません……」

 「だろうな、俺も管理人なら入れたくない。っていうか浴場なんて素敵なものがあったのか……これは不覚だった。まあいい。とりあえずシルフー亭に向かうぞ。そこで湯を貸してもらう。話はそれからだ」

 ハルトとロアはシルフー亭に向かった。


 「っというわけなんです」

 ハルトが事情を説明すると、ハンナは困惑した顔になる。


 「要するに知り合いの女の子が奴隷になるのが見てられなかったから買ったと……あんたもお人好しだねえ。お湯だね。用意しておくよ」

 そういってお湯を準備しにいくハンナ。

 「ハルトさん……重大な問題に気づいてしまいました……」

 「何だ?」

 

 ハルトが尋ねるとロアは深刻そうな顔をで言う。

 「着替えがありません……」

 ハルトは思わずずっこけそうになる。そんなに深刻そうな顔で言うことではない。

 「俺の服でも着とけ」

 「なるほど、後で私の臭いをクンかクンかするつもりですね!」 

 「誰がするか、アホ」


 そう言いあいながら部屋に向かう。部屋につくとハルトはロアを止める。

 「お前は部屋に入らんでいい。汚れるからな」

 そういうとロアは不服そうな顔をするが、事実なので反論しない。ハルトは自分の服とタオル、石鹸の入った瓶を手渡した。


 「こいつが石鹸だ。泡の実みたいなもんだな。しっかりと洗ってこいよ。」

 「これが石鹸ですか……」

 ロアは始めて見た石鹸を眺め、臭いを嗅ぐ。

 「お湯が沸いたよ!!」

 ハンナの声が響く。

 「早く行って来い。」

 「はーい」


 ロアは中庭にかけていく。ハルトが階段を降りるとハンナがいた。

 「ところで宿代ですが、当然ロアの分は含まれませんよね。何しろ奴隷ですから。まさか物の宿代は請求されませんよね?」

 ハンナは苦笑して答える。


 「いや、料金は部屋ずつだから別に物だろうが者だろうが取らないよ」

 それを聞いてハルトは安心した。ただでさえ食費が2倍になるのだ。

 「それにしても奴隷をそんなに簡単に買えるなんて、あんた実は金持ちだったのかい。奴隷は大体一般市民の年収位するだろ?」

 「いや、そんなことないですよ。おかげですっからかんです」

 「そうかい。あんたがいいならあたしは特に文句はないけどねえ」

 

 ハンナと話をしているとロアが体を洗い終えてこちらにやってくる。

 「ロアが終わったみたいなんで、俺は昼飯を食いに行ってきます」

 「ああ、わかったよ。あんた今日の夜もお湯はいるかい?いるんなら準備しておくよ」

 「じゃあお願いします。ではこれで」

 ハルトはハンナに別れを告げて、ロアと一緒に食事をとりに行く。



 「ハルトさん……これぶかぶかです」

 「それはお前が小さいんだから仕方がない」


 ウンディーヌについてハルトは魚のムニエルを二人分注文する。しばらくするとマルソーがムニエルを持ってきた。

 「ハルトさん!! これ食べていいってことですか?」

 「ああ、とっとと食べろ」

 ロアは嬉しそうにムニエルを食べ始める。いい食べっぷりだ。


 「なあ、お客さん。その娘は何だい?」

 「いやこの娘はですねー……」

 ハルトはマルソーに事情を説明する。マルソーは呆れた顔をする。

 「お客さん……お人よしすぎないか?」

 「まあ、一応250万分の働きをしてもらう予定ですから……」

 ハルトとマルソーが会話をしていると、食器を置く音がする。ロアが食べ終わったのだ。


 「お前食べるの早いな……ちゃんと味わって食べたのか?」

 「む!ちゃんとよく噛んで久しぶりのまともな食事を堪能しました。こんなにおいしいのを食べたのは3年ぶりです」

 「それ料理を褒めてくれててるのか?なんか重いね……」

 微妙な空気になってしまったので、ハルトも急いで食べ終えて店を出る。

 

 店を出るとロアは、

 「よし!」

 っと気合を入れてハルトに向き直る。

 「ハルトさん!!」

 「な、なんだ?」

 ハルトは思わず身構える。

 「久しぶりにお腹も一杯になったことですので私の過去について話します!!」

 ロアはそう宣言して語りだした。



 「なるほど、大体事情は理解した。それにしても重いな」

 ロアはかなり苦難な人生を歩んでいるようだ。日本ならドキュメンタリーが1本作れるだろう。

 「どうして話してくれたんだ?」

 ハルトが聞くとロアはニコリと笑って答える。

 「助けてもらったのに自分の事情を話さないなんて不義理です。それにもう過去のことですから。すごい辛いわけでもないんですよ」

 それが不義理なら、過去を話してもらったのに自分の事情を話さないのも不義理だろう。ハルトはそう思い、ロアに自分の素性について話すことにした。

 「じゃあ、俺についても話そう。実は俺は異世界人なんだ」

 

 ハルトの話が終わるとロアが口を開く。

 「正直信じられませんが……確かにハルトさんの今までの言動や行動、石鹸のことを考えるとつじつまが合いますね。2つだけ質問していいですか。まず1つ目です。異世界なのに言語が一緒とは考えられません。その辺はどうなんですか?」

 それについてはハルトも分からない。だが何らかの不思議な能力みたいなのが働いているということは分かる。

 「いや、それなんだが俺は無意識のうちに頭のなかで言葉を翻訳して話すことができるみたいだ。あと文字なんかも意味を1回教えてもらっただけで理解できる。あと言葉の裏で思ってることが分かるみたいだ」


 そう言うとロアは驚いた顔をする。

 「言葉の裏ってことは、今話しながらなにを考えてるか分かるってことですか?じゃあ今使ってみてください」(今晩はお肉がいいです。)

 「ああ、肉な。考えておこう」


 ハルトが答えるとロアは目を輝かせる。

 「すごいじゃないですか!!たぶん妖精の加護の一種ですね。今度図書館で調べてみましょう」

 加護という言葉に首を捻るハルト。聞いたことがない。

 「何だ、それ?」

 「いや、私も良く分からないんですが何らかの能力のことです。妖精に気に入られると得ることができるとか。ちなみに私も持ってます。金臭の加護っていうんですが、儲け話が嗅ぎ分けられるっていう能力なんですが」

 ハルトはいい加減この世界には慣れてきて、妖精ごときには驚かなかった。


 「2つ目聞きますよ。帰りたいとか思わないんですか?」

 困ったと頭をかくハルト。この質問は少し答えずらい。

 「あ、すみません。帰りたいのは当たり前ですよね。無神経なこと聞いちゃいました……」

 ハルトの沈黙を怒りと受け取ったのかロアは慌て謝る。

 「いや、いいんだ。怒ってなんかいないよ。確かに別に帰りたいって言ったら帰りたいけどね。何というのかな、帰る理由がない?」

 予想外の答えだったのか、ロアは大きく目を見開く。


 「え?どういうことですか。だってもうお父さんとかお母さんに会えないんですよ?」

 「いや、それなんだが……両親は俺が5歳の時に死んでるんだ」

 呆然とした顔をするロア。まあ、いきなり切り出されたら驚くのも無理はない。ロアの場合は物乞いをしていた時点で両親の生死について予想がつくが、ハルトのカミングアウトはいきなりだ。


 「祖父や祖母も4人とも病気とかで死んでね。兄弟もいないし。俺家族がいないんだよ。だから帰る理由がないってこと。」

 しばらく沈黙が続く。最初に沈黙を破ったのはロアだ。


 「重いですね」

 「お前に比べたら対したことないだろ。死んだのも俺が幼いころだからな。とくに悲しいとかないし」

 「いやいや、なおさらじゃないですか。私は両親との思い出がしっかりと胸に残ってます。ハルトさんにはそれすらないんでしょう?それに私の場合は母方の祖父が生きてますし……」

 どちらの話が重いか押し付け合戦になる。最終的にどっちも重いという方向でまとまる。


 「まあ、お互い事情も話したことだしよろしくな。ロア」

 「はい、私こそ。不束者ですがよろしくお願いします」

 二人は握手する。これから何度も助け合い、頼りあう関係になる二人の物語が始まった瞬間だった。

 支出 

 ロアの代金 250万

 お湯 300

 食費 1000

 

 残金 850600


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