第45話 殺人ギルド
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殺人ギルドという組織がある。名前の通り、金次第で殺人を行ってくれるギルドだ。殺人ギルドが生まれたのは今から百五十年ほど前。アルトとクラリスとの間での主導権争いが原因だ。都市国家連合では所属国同士の戦争を禁じている。そのため戦いは経済や政治、外交になる。アルトは経済的な不利を補うために秘密裏に暗殺組織を作り、クラリスの議員の暗殺を始めた。クラリスの議員達は疑心暗鬼になり、仲違いを始め、最終的に戦いはアルトが勝利した。その後用済みになった暗殺組織はアルトの手を離れ、独立。都市国家連合の暗部を担うようになったのだ。
殺人ギルドの本部がスフェルトに置かれているのもこうした歴史があるからだ。クラリスに置けば怪しまれてしまうし、アルトに置けば遠すぎる。人口がそこそこ多くクラリスと近いスフェルトが地理的に最適だったのだ。
殺人ギルド六代目ギルドマスター、ロロ・アムスの元に不思議な少年が訪れたのは今から二十五年ほど前、その少年は当時十四歳だった。
そもそも殺人ギルドの存在を知る者は少なく、仕事を頼める者はさらに少ない。暴力団などのいわゆる闇に属する組織でも、殺人ギルドと接点を持つのは幹部以上のクラスの人間だけだった。ロロは最初、十四歳の少年が自分にところに訪れるなど何かの間違いではないかと思い、少年に殺人ギルドを紹介した暴力団関係者に問い合わせた。返答は間違いなどではなく、冗談でもない。彼は優秀で目的のために殺人ギルドが必要だと言うので紹介した。力になってやってくれとのことだった。
ロロは少し悩んでから、少年の話を聞いてみようと思った。話を聞いてみないと少年がどんな人間で、信頼に値するか分からないからだ。
少年は表では素行良く振る舞う一方で、近所の不良をまとめ上げ麻薬の密売をしているのだという。そして暴力団の組長に気にいられ、暴力団に入ったらしい。そして暴力団の中で麻薬の密売で大活躍しているとのことだ。
当然ロロはなぜそこまで麻薬の密売に成功したのか疑問に思った。麻薬の密売は簡単なことではない。十四歳の少年が実行できることではないからだ。それに対して少年は自慢げに答えた。
自分の名前はレイナード・サマラスでサマラス商会の次男だという。そして泡の実の輸送を手伝う振りをしてこっそり麻薬を運んでいるのだという。
その話を聞いてロロは少し疑問が浮かんだ。サマラス商会はそこそこ大きい商会だ。麻薬の密売などしなくても贅沢な暮らしはできるだろう。それに手伝う振りをして麻薬を輸送するなんて成功するはずがない。スフェルトの警吏はそこまで無能ではない。
そのことを聞くとレイナードは曖昧に笑った。何か他に隠していることがあるのだ。だがロロは問い詰めるようなことはしなかった。なぜなら自分にも人には話せない秘密があったからだ。
ロロとレイナードは一年の時間をかけて交友を深めた。ロロがある程度レイナードのことを信用し始めたとき。ついにレイナードはロロに仕事の依頼をした。
内容は両親を殺して、その後に兄を殺してくれというものだ。家族を殺してくれという依頼は珍しいが、まったくないわけではない。ロロは快く引き受けた。
まず両親は落石に見せかけて殺した。通り道に大きな石を用意して落とすだけなので簡単だった。次に兄のリヴァス・サマラスを殺そうとしたとき、レイナードから待ったが掛かった。
「あのくそ野郎借金を抱えてやがった。予定変更だ。兄に全部押し付ける」
まだ暗殺は計画段階であったため、取りやめることはできた。
レイナードはサマラス商会の遺産が手に入らなかったことが相当ショックのようだったが、その後はすぐに開き直り暴力団の幹部として活躍を始めた。レイナードはたびたびロロ達に麻薬を格安で売ってくれたので、ロロはすっかりレイナードのことを信用し始めた。
五年の月日が流れ、リヴァス・サマラスが借金を返済しきったという話がレイナードの耳に入る。レイナードはずうずうしくもサマラス商会に戻った。もっとも暴力団やロロ達殺人ギルドとの縁を切ったわけではない。むしろ結びつきを強めた。レイナードは暴力団や殺人ギルドをたびたび使い、商談をまとめてサマラス商会での地位を上げ、信頼を掴んでいった。
レイナードがサマラス商会に復帰してから十年経った。レイナードは再びロロに依頼をした。
「リヴァスとヘレンを殺してくれ」
ロロはその依頼を断った。何も善の心に目覚めたわけではない。危ないからだ。会長夫妻が死んで得するのは裏切り物だったレイナードだ。しかもヘレンの実家はあのアルベルティーニ家。最悪殺人ギルドが潰される危険がある。
ロロがそう言って断ると、レイナードは笑って言った。
「お前が前のギルドマスタ―を殺してその地位に着いたのは知っている。殺人ギルドでは身内殺しはご法度何だろう?」
ロロはナイフを服の袖から取り出し、レイナードの首へ振り下ろした。レイナードはそれを予期していたのか、ナイフを素手で掴み止めて言う。
「俺が死んだら情報を殺人ギルドに振りまくように部下に伝えてある。いいのか?」
「くそ野郎……」
ロロはレイナードが暴力団でのし上がり、麻薬を密売できる理由が分かった気がした。こうして弱みを握り、脅しているのだ。
ロロも命は惜しい。仕方がないので二人は盗賊に襲われたように見せかけて殺した。こうして殺人ギルドはレイナードの私物になった。時を同じくして暴力団の組長にレイナードが選ばれた。レイナードはサマラス商会、殺人ギルド、暴力団の三つを同時に手入れたのだ。
ロロは部下と一緒に報酬を受け取りにサマラス商会に向かった。報酬だけは受け取らせて貰おうと心に決めておいたからだ。
「ほら、これが約束の報酬だ。ありがとよ。次も頼りにしてるぜ」
「ええ、確かに受け取りました。ところで遺書は本当にあれで良かったんですか?跡取りはそのままあんたにしちまった方が楽だろ」
「バーカ、それじゃあ怪しすぎるだろ。これでいいんだよ。あのガキが成人するまでにはまだ時間がかかる。それまでに完全に乗っ取っちまえばいい。ロアを殺すときはまた頼むぜ?」
「ひひひ、あんたは金払いがいいからな。いつでも受け付けるぜ。これからもよろしく、旦那」
部下が下品な笑う声を上げた。
そして次の日、ロア・サマラスは消えた。
その時のレイナードの動転しようは愉快だった。幸運なことにその動転により、犯人はレイナードではないのではないかという声が上がり始めたのは皮肉だったが。
その後、レイナードは暴力団、殺人ギルド、サマラス商会を使いスフェルトを支配し始めた。レイナードの天下は五年ほど続いた。
最初にレイナードが躓いたのはクラリスでの支店だ。アルトやリンガに支店を出し、ようやくクラリスに支店をだした。だがそれはアスマ商会のせいで失敗した。気を取りなおし、石鹸についての研究と更なる品質の向上を目指していたら、アルトやレイムやリンガの売上が急速に落ち始めた。
すでにロロにはサマラス商会の衰退は他人事ではなくなっていた、殺人ギルド、暴力団、サマラス商会は三位一体といってもいいほど癒着し合っているのだから。
そしてサマラス商会にスパイが入りこんでいることが発覚し、レイナードはクラリスに向かった。それは今日から三日前のことだった。
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ロロがステーキを味わっていると、レイナードがドアをこじ開けるようにして入ってきた。
「ロア・サマラスが生きていた! しかもあいつは俺たちが会長夫妻を殺したことも知っているようだ」
ロロは思わずステーキを落とした。とっくに死んでいると思っていたからだ。だがそれが事実となると大変なことになる。
「分かった。どうすればいい?」
「今すぐに殺してくれないか?」
ロロはため息をつく。殺人にはいろいろと段取りが必要なのだ。とはいえこれはロロからしても生死にかかわる重要案件だ。
「二億だ」
「分かった。払うよ」
こうしてロロは四人の仲間を連れてクラリスに向かった。
ハルト・アスマとロア・サマラスの住居の場所は初日に分かった。見取り図を手に入れるのに二日、二人の行動パターンを調べるのに一週間かかった。
本来なら城壁の外で始末してしまうのが一番安全だが、この二人はなかなか外に出る気配がない。仕方がないので夜襲をかけることにした。強盗に見せかけるのだ。
屋敷に忍び込むのは簡単だった。あっという間に二人が寝ている場所に着く。二人は毛布にくるまって寝ているようで、ベットの上に膨らみができていた。ロロ達はナイフを持ち、毛布に突き刺した。その瞬間、けたたましいアラーム音が響き渡った。
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「ようやく釣れたな」
「まったくです」
「遅かったね」
ハルトとロアとアイーシャはロロ達が襲撃した寝室の横で目を覚ました。何者かが付け回していることは五日前から分かっていた。だから寝室を変え、変わりに衝撃が加わるとアラームが鳴る魔法具を寝かせ、屋敷中に傭兵や砂漠の民を伏したのだ。
「早速鼠狩りだ」
ハルトはそう言って護身用の弩を手に取る。
「まあ、すでに捕まっていると思うけどね」
そう言ってアイーシャはドアを開ける。案の定、すでに襲撃者は捕まっていた。襲撃者はハルトの姿を見てしばらくもがくと、にやりと笑った。
「危ない!」
プリンは襲撃者の一人の口にナイフをねじ込み、口を閉じれないようにした。その瞬間、他の襲撃者は泡を吹いた。
「奥歯に毒を仕込むとは……プロだね。アイーシャちゃんよろしく」
「はーい」
アイーシャは襲撃者の口に手をつっこっみ毒を仕込んである歯を引き抜く。襲撃者は苦しそうなうめき声を上げた。
「くっそ、砂漠の民が五人なんて……不可能だ!」
悔しそうに涙する。
取り敢えず警吏に引き渡さないといけないので、襲撃者の手を縄で縛り立たせる。全員で死体と襲撃者を運び、外に出ると気の抜けたような笑い声が聞こえた。
「いやあもしものために監視して来いって言われたけどさあ。まさか返り討ちに合うなんて、ビックリだよ」
ぼさぼさの髪の男が現れた。男は右手に短剣を、左手に一メートル以上の大剣を持って居た。
「お前は?」
ハルトがそう聞くと、ぼさぼさの髪の男は愉快そうに言う。
「ここは名前を聞く前にお前が名乗れ! って言うところだけど……襲撃者に名乗る名前なんてないだろうしなあ。分かった。名乗るよ。俺は剣聖セリウス。お金が大好きな傭兵さ。座右の銘は金の切れ目が縁の切れ目、よろしく。取り敢えずそこの人……ロロさん返してくんない?」
セリウスはへらへら笑いながら言った。
「バカじゃねえか? 死ね!」
砂漠の民の若者がセリウスに斬りかかる。セリウスは大剣で砂漠の民の若者を弾き飛ばした。
「ならば二人がかりで!」
そう言って二人の砂漠の民が躍りかかる。プリンも矢をつがえ、セリウスに射かけた。
「甘いなあ」
セリウスはそう言って矢を短剣で弾き飛ばした。そして大剣を振り回し、二人の砂漠の民を剣で叩き斬る。二人はとっさに槍で剣を防いだ。木が折れる音が響く。砂漠の民の若者はボールのように吹っ飛び、空中で態勢を整えて着地した。
「こんな感じで俺ってば結構強いんだよね。君たち全員と戦ったらさすがに死ぬけど、そこにいる会長さんと赤毛の女の子くらいは死ぬ気になれば殺せるの。とはいえ俺も命は惜しい。だから交換条件だ。ロロさんを放してくれないかな? そしたら帰るよ」(砂漠の民が六人もいるなんて聞いてないなあ。さすがに死にそう。まあ突っ込んで剣を振ればあの二人は殺せるけど、その後に滅多刺しにされるからなあ)
ハルトは悩んだ。今ここでロロを解放したら折角の証拠が死んでしまう。だがセリウスの本音を聞く限り、本気であることが分かる。ハルトは悩んでから言った。
「アイーシャ、そのロロとかいう奴の足を折れ。足を折れば戦えないだろう。折った後セリウスに投げ渡してやれ」
「本当に良いの?」
「ああ。命には代えられない」
アイーシャはセリウスにロロを投げ渡した。セリウスは頭を下げる。
「これはありがとうございます。賢明なご判断ですよ。では俺は帰りますね」
そう言ってセリウスは去っていた。
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「ふむ。ロロは回収したのね」
ミレイは遠眼鏡で見ながら呟いた。彼女はセリウスを見張るために来たのだ。レイナードはセリウスを信頼していないのだ。
「本当はロア・サマラスを仕留めて欲しかったけど……傭兵にそこまで求められないか」
ミレイは呟いた。
ちなみにロロの部下が薄汚い笑い声を出さなければ、ロロはロアの足音に気付いていた可能性があります。
ちなみに前半はこれで終了です。あと五話くらいかな? 最終話までは




