第44話 会談
今日は二話投稿です。八時にもう一話投稿します。
支店を出してから七か月が経過し、11月になった。ハルトは二十歳、ロアは十七歳だ。
レイムやアルトやリンガに出した支店は軌道に乗り始め、順調に売り上げを伸ばしていた。人を後もう二百人雇ってしまおうかという話も出ているほどだ。
「そろそろスフェルトに出しても良さそうだな」
「そうですね。サマラス商会の内部もよくわかってきましたし。そろそろ決着を……」
ロアが言いかけた時、アイーシャがドアを勢いよく開けた。
「ハルト! お客さん」
「ああ、すぐ行くよ。行こう、ロア」
「はい!」
ハルトとロアは応接間に向かった。
_____
客はレオン・グレイザーと仲間たちだった。全員青い顔をしている。ハルトは嫌な予感がした。
「どうしました?」
「すみません。レイナードにばれました。解雇された次第です。あのままスフェルトにいては身の危険があったのでここまで逃げてきました」
「それは……皆さんが無事で何よりです。正式にアスマ商会で雇いましょう。ところでなぜばれたのですか?」
ハルトがそう聞くと、グレイザーは首を横に振った。
「分かりません。ばれないようにしていたつもりでしたが……あの男は感が鋭いところがあるんですよ。それに疑り深い。いいわけみたいですね。本当に申し訳ない」
レオンは深く頭を下げた。
サマラス商会から会談の申し込みが来たのは二週間後だった。
_____
「ハルトさん……」
「そんな心配そうな顔をするなよ。どうせスパイやってたことへの苦情だろ。しらばっくれてくるよ。どうせ物的証拠なんてないし」
ハルトはロアの頭を撫で、安心させるように言った。
「じゃあ行ってくる」
ハルトは待ち合わせ場所に向かった。
会談場所はクラリス内だった。相手から申し込んだのだから当然である。ハルトはアイーシャ達砂漠の民六名、プリンたち傭兵四名総勢十名の護衛を引き連れて会談場所のホテルに向かう。
会談予定の部屋のドアの前に着く。レイナードはすでに到着しているようで、傭兵十五名が並んでいた。
「護衛はここまででいいよ」
「本当に?」
アイーシャが心配そうに言った。ハルトは笑って答える。
「ああ。相手もドアの前で待ってるみたいだし。何かあったらすぐに呼ぶ」
ハルトはそう言ってドアを開けた。
______
男がソファーで腕組して座っていた。レイナードだ。ロアの叔父であるだけにどことなく似ていた。
「初めまして。私はハルト・アスマです」
「これはご丁寧に。私はレイナード・サマラスです。よろしくお願いします」
レイナードとハルトは握手しあった。
二人はソファーに腰を下ろす。レイナードはハルトの目を真っ直ぐ見てくる。ハルトはその視線に薄気味悪いものを感じた。
「さて、今回の会談の趣旨を教えてもらえませんか?」
ハルトは切り出した。当然加護を発動させるのを忘れない。
「いえ、私のところに居た従業員は今どうしているかと。とても気になりまして。何しろ私は部下思いですから。例えスパイをしていた者でも心配になるんですよ」(本当は我が姪の様子を確認しに来たんだけどな。いくら上手く隠れて行動しても俺の『読心の加護』は誤魔化せない。それにしても俺がロアとよく似ているねえ……まあ、そうだろうよ。何しろ俺は……)
そこまでお互い思考を読み合い、二人とも固まる。二秒後、ハルトは飛び上がりドアから部屋を出た。
____
「アイーシャ! 帰るぞ!」
「え?どうしたの?」
「説明は後だ」
ハルトは小走りで廊下を歩き、会談場所から離脱する。これ以上思考を読まれたら困る。『読心の加護』とやらがどこまで効果範囲があるか分からないが、一先ず建物から出なくてはならない。
(不味いことになった)
ハルトは唇を噛みしめた。
完全にロアのことがばれてしまった。しかもハルトの『言霊の加護』もだ。不用意に会談したのが間違えだった。自分が相手の心を読む能力を持って居るのだから、相手も持って居る可能性があることを視野に入れるべきだった。よくよく考えてみればウェストリア帝だって『千里眼の加護』などという物を持って居たのだからレイナードが持って居ても可笑しくない。ロアだって『金臭の加護』を、アイーシャだって『戦闘の加護』を持って居るのだ。自分の味方だけ加護を持って居て、敵が持って居ないだろうと考えるのは驕りだ。
ハルトは自分を責めた。ロアの生存を知ったサマラス商会が何をしてくるのか分からない。下手をしたらハルトのせいでロアが死ぬ可能性もあるのだ。
とはいえこれはハルトはまったく悪くない。『読心の加護』などというレアな加護を相手が持って居ることを念頭に置いて行動するなどどんな策士にも出来ないことだ。
(ばれてしまったものは仕方がない。対策を練らねば!)
ハルトは必死に頭を回転させた。
______
一方レイナード・サマラスはハルトとは対照的に落ち着いていた。それは相手に知られてしまった情報の量の差だ。ハルトの秘密は二つ、レイナードの秘密は一つ。つまりレイナードは得をしたのだ。さらに『読心の加護』が心を読むという使い方の上では『言霊の加護』の上位互換であることも大きい。余裕があるのだ。
「おい! ミレイ!」
レイナードは自分の秘書を読んだ。レイナードが言葉をかけるとドアを開けて女が入ってくる。
「会談はどうされたんですか?」
「説明は後でするが……俺のアレがばれた。あと餓鬼は間違いなく生きている。確証が取れた」
レイナードはレオンの心を読むことですでにロアが生きていることは掴めていた。とはいえ本当かどうか分からない。レオンが騙されている可能性もあるのだ。確かめる必要があった。それにレイナードとしてはロアが生きているとは思えなかったのだ。数年も行方が分からなかった姪がライバル企業の会長の妻になっているなんて言う都合の悪すぎる話を信じろという方が無理がある。
「スフェルトに帰るぞ。ミレイ、殺人ギルドを使う!」
レイナードはそう言って帰りの支度を始めた。至急本拠地であるスフェルトに戻らなくてはならない。
「死人に口なし。一番シンプルで確実な方法だよな」
レイナードは楽しそうに笑った。




