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異世界商売記  作者: 桜木桜
第四章 対決編
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第43話 寄付

 帝国法が施行されるのは四月だ。そして今は三月。つまり後一か月に迫っていた。支店を出すのは法律の施行とほぼ同時に行う予定だ。

 「工場はギリギリ完成しましたね。問題は労働者ですが……どうしますか?」

 「取り敢えず第一工場はアルカリを専門に作るところにしようと思う。第二工場には後三百人は入ったはずだ。だから合計四百人にする。これで生産量は二倍だな。三百人が普通の石鹸を、残りの百人が牛乳石鹸と高級石鹸を生産する。奴隷を全員アルカリに当ててしまうと牛乳石鹸や高級石鹸の情報が漏れる危険があるが……今更気にする必要はないだろ。この段階で俺たちに敵う商会なんてないからな」

 アスマ商会以外の石鹸は増えてきたが、まったく問題なかった。質ではこちらが圧倒的に上なのだから。

 「そして新しく作った工場には取り敢えず三百人募集する。彼らには油石鹸を作ってもらう。一つ百ドラリアで売ろうと考えてるよ。ラードなんてゴミ扱いだからな」

 質はあまりよろしくないが、皿を洗ったりする分にはこちらの方がいいだろう。油を落とす能力は他の石鹸とそこまで変わらない。

 「蜂蜜石鹸はどうします? 結構注文きてますよ」

 皇帝に売った石鹸の代金が支払われたのはつい最近のことだ。何分帝都までは非常に遠く、相手が皇帝というもともあり、とても時間がかかったのだ。ハルトが催促すれば総督府が支払ってくれたかもしれないが、ハルトも特に急かさなかった。

 とはいえ皇帝に売ったのはかなり効果があったようで、帝国の金持ちからかなりの注文が来ていた。ウェストリア帝が宣伝してくれたのだろう。

 「取り敢えず三百個は生産しなくちゃなりませんよ? どうするんですか」

 「奴隷にやらせればいいだろ。今の奴隷の人数は三百六十人。アルカリを生産するだけだと少し多いからな。注文がもっと増えて来たら信頼できそうな奴を何人か集めて売ればいい」

 蜂蜜石鹸は高すぎる。蜂蜜石鹸を購入するのは金があり余っている極々一部の金持ちか美容狂くらいだ。効果は牛乳石鹸よりは高いが、数倍の金を出して買うほど開きがあるわけではないのだ。需要そのものが少ないので商品としては不適合だ。


 「そんなことより給料だ。最低賃金は十万だが……俺は十二万ほど出そうと思って居る」

 「どうしてですか?」

 「募集する人数が人数だからな。賃金を他より高くすればたくさん集まるだろ。それにグレイ総督からできるだけ高い値段で雇うように頼まれてるんだよ。誰か一人でも賃金を高くすればそれに伴って他の商会の賃金も上がるからな」

 元々金の使い道があまりないハルトとしては賃金を上げることに抵抗はない。それに金は使えば返ってくると誰かが言って居たような気がする。実際庶民の生活に余裕が出れば石鹸もそれだけ売れるので長期的に見れば損はないのだ。


 「ねえハルト! みんなが到着したんだけど紹介していいかな?」

 アイーシャが大きな声で叫んだ。みんなとは砂漠の民のことだろう。

 「ああ。連れてきてくれ」

 ハルトが答えるとアイーシャは砂漠の民を五人引き連れて部屋に入ってきた。女三人、男二人の構成だ。

 「えーとこっちが……」

 アイーシャは五人の名前と年齢を一通り説明した。

 「みんな若いな。平均十六歳か」

 「まあね。若い人達は砂漠の外に出たがる傾向があるんだよ。私もだけど」

 取り敢えず給料は他の傭兵と同じ十六万で雇うことで五人は合意した。

 

 五人が部屋から出ていくと、ロアが嬉しそうに言った。

 「砂漠の民が五人もいれば大丈夫ですね。ところでユージェックさんに頼んだ傭兵の紹介はどうなってます?」

 戦力という意味では砂漠の民は心強いが、警備に必要なのは人数だ。だから砂漠の民とは別で傭兵を紹介して貰って居たのだ。

 「そっちは大丈夫だ。十五人ほど雇うことになってるよ」

 「そうですか。それにしても一気に人が増えましたね。今月から引き抜いた人も正式にアスマ商会に入るんですよね? 人件費が上がりそうですね」

 「まあな。でも売上も同じように上がるはずだから。何とかなるだろ」

 組織が肥大化すればそれだけ人数が必要になるのは当然のことだ。それを惜しんでも仕方がない。

 

 「あ!大事なことを忘れていた。子供達を連れてきてくれ。確か名前は……エミルとケイミーとアン、それからインとウルスとクロルとキルとサウル、後ソルだ」

 「なるほど! 確かに今のうちに済ませておかないと不味いですね」


_____


 しばらくしてロアは子供達を連れてきた。彼らはデニスやロアのところで経営について学んでいた子たちだ。全員十二歳。


 「ほら、この書類にサインしてくれ」

 ハルトは紙を渡した。

 「えっとこれは……なんですか?」

 エミルが手を上げて質問した。

 「お前ら字くらい読めるだろ? 見れば分かるだろ」

 そう言われて子供たちは書類に目を通す。

 「奴隷解約書?」

 「そうだ。今からお前らがその紙にサインして役場に出せば晴れて自由だ。良かったな。あ! 条件がある。これからもうちの商会で働くことだ」

 子供達は紙にサインをしていく。表情は晴れやかだ。

 「取り敢えず給料は十二万だ。お前らの仕事は経営を担当する奴らの補助だ。あ! ソル。お前は別な。お前は警備員に転職だ。他の東北出身者と一緒に警備を頼むよ。じゃあ解散」

 子供達は嬉しそうに部屋から出ていく。一応書類を役所に出すまで奴隷だが、細かいことは気にしない。

 

 「四月から奴隷解放税が上がりますからね」

 「九人減ったくらいじゃあんまり変わらんがな。本当は十五歳まで待つつもりだったが……人材の確保は急務だしな。あいつらは優秀だから大丈夫だろ」

 「彼らには引き抜いた人材の監視について貰いましょう。定期的に様子を聞かないとだめですね」

 結局、引き抜いた人材は裏切り者だ。アスマ商会を裏切らないという保障はない。一応ハルトの加護で探りを入れているが、それでも念には念を入れたいところだった。

 「雇った傭兵もな。ソルがいれば傭兵が変なことをする心配はない」

 傭兵は素行が悪いものが多い。傭兵が何かやらかさないように監視する人材も必要だったのだ。

 「これで完璧ですね。あとは四月を待つだけです」

 「そうだな。取り敢えずレイム。一か月後にリンガとアルト。上手くサマラス商会の勢力を縮小させられるといいんだけどな」

 ハルトは呟いた。


______



 あっという間に一か月が過ぎた。高い賃金を設定したおかげで労働者は六百人全員確保することができた。定員を確保した後も雇ってくれとアスマ商会の門を叩く人もいたほどだった。


 レイムの支店にはデニスを派遣することになった。クラリスの外なので何が起こるか分からない。デニスなら対応できるだろうという人選だ。

 

 「ハルトさん。デニスさんからの報告です。追加で石鹸を送ってくれとのことです」

 「そうか。問題はなかったんだな。荷馬車班に連絡しておいてくれ」

 ソルたちが警備員に転職した影響で石鹸を輸送する人材がいなくなってしまった。そこでハルトは馬を扱える人材を募集して、荷馬車班を新たに作ったのだ。総勢三十人。支店の売上によってはさらに増やす予定だ。

 「今のところ順調ですね」

 「そうだな。計画通りに来月にはリンガとアルトにも出してしまおうか」

 ハルトはロアに言った。リンガとアルトからサマラス商会の支店を追い出してしまうのが目標だ。


 「ねえ、ハルト。衛兵さんが総督府に来てくれって。どうする?」

 アイーシャがドアを開けてそう言った。アイーシャ含める砂漠の民六名はアスマ商会本部の警護についていた。砂漠の民が六名もいる本部に忍び込もうとする勇気ある人間はそうそういない。 

 「分かった。ロア、行くぞ」

 「はい!」

 二人は総督府に向かった。



 総督府は議会の目の前に建設された。大きく、武骨な作りは見る者を畏怖させる。周りには帝国兵が目を光らせていた。

 ハルトとロアは身分を明かすと兵士たちは一礼して通してくれる。おそらく総督府に一番通っているキリシア人はハルトだろう。


 「これはアスマさん。早速本題に入ってもよろしいですか?」

 部屋に入ると早々に総督は話を切り出した。

 「構いません。それで何の用件ですか?」

 ハルトがそう聞くと、「まずは読んでください」とグレイ総督は書類をハルトに手渡した。

 内容は学校建設に関するものだった。ざっくりまとめると帝国全土で義務教育を行うという内容だ

 もっとも日本の小学校のようにたくさんのことを教えるわけでなく、基本となる読み書きと四則演算、帝国の歴史を少し教えるだけのようだが。

 「どう思われますか?」

 グレイ総督はハルトに試すような目で聞いた。ハルトは思ったことをそのまま告げる。

 「商人である私としてはいいと思います。読み書きや算術ができるのと出来ないのではまったく違いますから。国民にとってもいいことだと思いますよ。おそらくこの法案の最大のミソは歴史教育でしょう? 帝国の歴史を属州の子供達に刷り込むことで徹底的なロマーノ化を図る。読み書きや算術は隠れ蓑。そこまでは分かります。ただ……」

 ハルトはそこで言葉を切った。そして少し悩んでから言う。

 「ロマーノ化にそこまでのメリットがあるとは思えません。これは帝国全土でやるんですよね? 帝国は財政難だと聞きました。そんな金はどこから出すんですか。それに教師も必要です。何より民が賢くなるのは権力者として不味いのでは? メリットよりもデメリットの方が大きい。ウェストリア帝は何をお考えなのですか?」

 ハルトがそう言うとグレイ総督は大きく頷いた。

 「やはりあなたもそう思われますか。実は疑問に思ったのは私だけなのではないかと心配していたのです。実のところ私もウェストリア帝のお考えはさっぱり分かりません。あの方は我々とは少し違う世界を見ていられるようですから。あ! これは貶しているのではなく、褒めてるんですよ。とにかくこれはウェストリア帝が無理やり議会に通過させた案件です。あの方がそこまでするならそれだけの価値があるのでしょう。たぶん。だから私はウェストリア帝の法案の実現のために努力していくつもりです」

 グレイ総督は言い切った。ハルトはグレイ総督のあまりのウェストリア帝への愛で少し引いた。


 「さて、先ほどアスマさんは財源はどうするの? という質問をなされました。実は処分した貴族の財産を売り払ったおかげで資金は十分にあるんです。とはいえそれだけではほんの少し足りません。そこで!」

 グレイ総督は長い間溜めてから言った。

 「寄付を受け付けています。一億ロマーノ以上寄付してくださった方の名前は大々的に公表した上で子爵の爵位をプレゼント。さらに三十名の名前は学校に建てる石碑に刻みます。未来永劫あなたの名前が知れ渡るんです。世界中にですよ。締め切りは来年の四月までで定員は三十人です」

 「寄付頼りかよ……それで大丈夫なんですか?」

 「ええ。あとたったの三十億ロマーノだけですから。爵位を欲しがるお金持ちは多いんですよ。三十人くらいすぐに集まります。それにアンダールス一世はこの方法で軍資金を集めました。帝国伝統の奥の手です」

 そんなことをしているから貴族の権威が落ちるのだろう。

 「ということでお願いできませんか? 子爵位ですよ。それがたったの一億ロマーノで買えるんです。アスマさんが買ってくだされば他の商人も買ってくれます。実は各州三名以上の寄付を集めるように秘密の勅命が出されてまして……アスマさんが買ったと言えば買ってくれる方が出てくれるはずです。子供たちのために大金を出す資本家。いいじゃないですか。ほらほら」

 グレイ総督は書類をハルトに押し付けるように渡す。ハルトはロアを横目で見た。

 「……しょうがなくないですか? これからもこの方の協力は必要でしょうし。一億ロマーノ、つまり五億ドラリアです。たった……全然たったではないですが、払えない額ではないですし」

 払えない額でないというところが厳しい。これが十億ドラリア以上だったらハルトは首を横に振れただろう。しかも今、アスマ商会は儲かってるのだ。払えてしまう額なのだ。五億は。

 

 ハルトは深いため息をついた。

 「分かりました。払いましょう」

 「ありがとうございます!」

 グレイ総督は嬉しそうにハルトの手を握った。


 こうしてハルトは子爵になった。一応。

 

1月~4月 (4か月分)

収入 16億


支出 15億


売上-支出=1億

負債 0

残金 9億3473万

実質残金 9億3473万


奴隷 400

従業員

会計担当兼奴隷取締役 ロア・サマラス

会計輔佐 デニス →給料45万

現場指揮 アッシュ兄弟(姉妹)→給料20万

正規雇用労働者 20人→給料15万

傭兵 ラスク&プリン ラング・タルト アイーシャ 砂漠の民五人 その他傭兵15人

労働者 700人 (第2工場400人・第三工場300人)

解放奴隷 9人



かなりざっくりにしてみました。ざっくりにし過ぎかな?

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