第32話 恋
いつだか議員の年収は5億とか書いた気がする。でも冷静に考えてみたらそんなに安いわけがない。すみません。忘れてください。
「さて、こんな感じでどうだ?」
ドモールはハルトとロアに家の間取りを見せる。ハルトは風呂とトイレの位置を確認してから視線をドモールに移した。
一方ロアは間取り図を手に取ってじっくりと目を通す。
「できればこの辺をこうしてください」
「ここか?じゃあこんな感じで……」
ロアとドモールは話し合って、何度も間取りを修正する。ハルトはそれを興味なさそうに眺める。
「よしこんなもんでいいだろう。家の見積りだが……ざっと1億ドラリアだ」
ドモールはハルトとロアに笑って言う。ハルトは目を見開いた。
「高いな。どうにかならんのか?」
「いや、これは家だけの価格だ。風呂とかも含めるとあともう8000万ドラリアするな」
「な! おかしいだろ。風呂でそんなにかかるなんて」
ハルトは抗議の声を上げた。
「いや、お前が風呂を汲むのはめんどくさいから自動で汲むシステムにしてくれって言っただろう? それにトイレ。ずいぶんと注文を付けるなあ。水でケツを洗うシステムとか。発想がすごいな。あと露天風呂だっけ? 外から見えないようにするには木をたくさん植えなくちゃならないんだぞ。風呂だけでも贅沢だっていうのにそれを屋内と屋外に二つ付けるとは。本当にすごいな」
ドモールは捲し立てる。ハルトの注文に原因があると言われれば納得するしかない。
ハルトはロアを見る。ロアはキラキラとした目でハルトを見つめた。ハルトはため息をつく。
「分かったよ……これでいい」
ドモールは満面の笑みを浮かべる。そして2枚の紙を取りだした。
「家具がいるだろう? 紹介状だ。割引してくれるはずだ」
ハルトはドモールのくれた紙を見る。1枚はハルトも聞いたことのある大手家具商会。もう一つはウルフスタン商会へのものだ。
「なるほど。議員どうしこうして連携してるわけか。仲いいんだな」
クラリスの商人は仲が悪いようで仲がいい。商品が被らないかぎり、相互協力し合っているのだ。実際ハルトもユージェックやブランチ、アドニスにドモール、バッカスと仲がいい。
「まあ、同じ議員どうしだからな。うちの商会が扱っている釘を作っているのはバッカスさんだし、土地を売ってくれるのはユージェックだからな」
ドモールは笑って答えた。
「ところで至急、仕事を頼みたいんだ」
「ん? 何だ」
ハルトは話題を家から変える。
「工場の一部に壁を作って欲しいんだ。別に丈夫な物じゃなくていい。視界を遮る程度でいいから」
アルカリは電気分解装置で生産することに決まった。電気分解装置は秘密兵器だ。できればサマラス商会から秘匿したい。せめて壁で遮る程度の防犯は必要だ。
「まあ、それだけなら。100万もあれば三日以内にできるぞ」
ドモールはハルトの説明を聞いて簡単な見積りを言う。
「もう一つ良いか?」
「何だ?」
ハルトは地図を取り出す。クラリスから少し離れた場所……以前ハルトとロアが購入した土地に丸が付けられていた。
「ここに工場を作りたいんだ。いくらかかるかな」
ハルトがそう聞くと、ドモールは少し悩んでから言う。
「工場そのものは簡単だ。何しろ屋根を付けるだけだからな。だが放置された畑なんだろう? 土地の整地に手間取りそうだな。でも屋根を取り付けるだけだからなあ……まあ、500万だな」
相変わらず工場は安い。徹底的に手抜きしているからだが。
「よろしく頼むよ」
ハルトはドモールに軽く頭を下げた。
家の話はまた後日として、ドモールと別れた。
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「もう終わったか。早いもんだ」
「まあ、壁と言っても薄い板ですからね」
ドモールは契約通り、あっという間に工事を終わらせてくれた。外から見えないように薄い壁を作るだけだし、そもそも囲うスペースも狭かったのが早く終わった理由だ。
「これでようやく電気分解装置をお披露目できるな。アイーシャ、倉庫から取ってきてくれないか?」
ハルトは隣にいたアイーシャに声をかける。
「別にいいけど……なにあれ?」
「ちょっとした魔法具だよ。慎重に持ち運んでくれ」
アイーシャは首をかしげながらも、倉庫から電気分解装置を持ってきてくれる。砂漠の民は老若男女、皆怪力だ。あっという間に5台すべて倉庫に運び込んでくれる。
「さて、これの説明をしよう」
ハルトは子供達を電気分解装置の前に集めた。
「これは電気分解装置と言ってな。アルカリを作る装置だ。こっちの浴槽に塩水を入れて、こっちの浴槽に純水を入れる。あとは起動させるだけでアルカリができる」
子供達は真剣な顔でハルトの説明を聞く。ハルトは説明を続けた。
「ここから出るのが水酸化ナトリウム……要するにアルカリだ。必要なのはこれ。こっちからは水素と塩素ガスが出るが、必要ないから外に捨てろ」
水素はともかく、塩素は有毒だ。ハルトは処分に少し悩んだ。だが5台で生成される塩素はごくわずかだ。外に出してしまっても問題ないだろう。自然環境は余裕が出てから考えることにした。
「注意事項がある。塩素と水酸化ナトリウムは猛毒だ。かならずマスクをして扱え。水酸化ナトリウムは3つの樽に入れて厳重に管理すること。あと換気を必ずしろ。雨の日でも怠るな。……換気ができない日は休みにする」
ハルトの言葉に子供たちは嬉しそうな表情をする。危険が増えたことよりも休みが増えることの方が嬉しいようだ。
「次はこれからお前たちに作ってもらう牛乳石鹸だが……あまり作り方は変わらない。油に牛乳を加えるだけだからな」
ハルトは子供たちに連絡事項をすべて話す。
「じゃあ、早速作業に取り掛かってくれ」
ハルトは子供たちを解散させた。
「お、ソル君。ちょうど良かった。今暇かな? 付き合って欲しいんだよ」
ハルトは工場を出た後、石鹸の配達から帰ってきたソルに声をかけた。
「付き合う? 別にいいけど……」
ソルはハルトの奴隷だ。ハルトが付き合えと言ったら付き合うしかない。
「そうか。じゃあ、付いて来てくれ。あとで小遣いもあげるよ」
こうしてハルトとソルは二人で出かけた。
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「それで俺に何をさせたい……させたいんですか?」
ソルは言いなおす。ソルは東北出身だ。キリス語はあまり堪能ではないのだ。
「東北の言葉で良いよ。俺は話せるから。大したことじゃない。馬を見て欲しいんだ」
「馬?」
ソルは首をかしげた。
「今まで馬車は全部レンタルだったろう? レンタルだと金が掛かるからな。馬を買うことにしたんんだ」
ハルトはソルに説明した。
「でもなんで俺が?」
ソルはハルトに質問する。
「お前は騎馬民族なんだろう? いい馬かどうか見分けてくれ。俺は素人だからな」
ハルトがそう言うと、ソルは納得した顔をする。
馬屋に向かうまでの間、ハルトは生活環境や仕事の様子などをソルから聞く。ハルトは東北地方の言葉で話しかけていることもあってか、細やかな情報をハルトに話してくれた。
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「予約していたハルト・アスマだ。馬を選ばせてくれ」
ハルトは店に着いてから係員に言うと、すぐに店主が手もみして現れる。
「これはこれは。お待ちしておりました。そこの子供は?」
店主はハルトの隣にいたソルを見て言う。ソルの顔つきはキリシア人のものとは少し異なる。かなり目立つのだ。
「こいつは俺の奴隷だ。見ての通り騎馬民族の出身でね。馬に詳しいようだからこいつに選ばせることにした」
ハルトがそう言うと、店主は納得した顔をする。
「ではこちらに来てください」
ハルトとソルは店の裏まで案内される。そこには馬小屋があり、たくさんの馬がいた。
「どうぞお選びください」
店主はにこやかに言った。
「奴隷に触らせてもよろしいですか?」
ハルトは一応確認をとる。中には奴隷に商品を触れられることを嫌がる人間もいるのだ。
「ええ、構いません」
店主はあっさり了承した。気にならない人間だったようだ。
「予約したのは10頭だ。生きのいい馬を選んでくれ」
ハルトはソルに命じると、ソルは頷いて馬小屋に駆け寄っていく。
しばらくしてソルは10頭の馬を選んできた。
「ではこの10頭ですね。後日お届けします」
店主はゆっくりと頭を下げて、ハルトとソルを見送った。
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「ほら、約束の小遣いだ」
ハルトは大銅貨を3枚、ソルに渡す。ソルは腰に付けていた袋に大切そうにしまった。
しばらく歩いているとソルは突然立ち止った。ソルの目の前にはアクセサリーを売っている店があった。
「え!? お前こういうの欲しいの?」
ハルトは思わず引いてしまう。ソルは男だ。しかも騎馬民族だ。まったく似合わない。
「違う」
ソルは首を激しく横に振りながら否定した。そしてハルトに小銭の入った袋を渡す。
「……プレゼントしたい娘がいるんです。買ってきてくれませんか?」
「へえ、奴隷仲間か?」
ハルトがそう言うと。ソルは少し顔を赤らめながら頷いた。ハルトはにやりと笑う。
「そうか、そうか。そいつは結構だ。でもプレゼントっていうやつは自分で選ばなくてはいけないからな。お前も一緒に来い。俺となら大丈夫だろ」
ハルトはソルの腕を強引に引っ張って店に入った。
とはいえハルトもただのお節介で店に入ったわけではない。ロアにプレゼントするためだ。ロアには電気分解装置の件で埋め合わせをするように言われている。ちょっとしたアクセサリーを買って機嫌を直す作戦だ。
ハルトとソルは一緒にアクセサリーを見ていく。ソルは落ち着きなくそわそわしている。こういった店に入ったことがないのだ。
「ロアには……これでいいか。価格は……2万か。調度いいな」
ハルトは赤い石のネックレスを購入した。ロアはルビーのネックレスを持っているが、あれは高価すぎるので特別な時しか付けていない。
「お前も見つけたか?」
ハルトはソルに声をかける。ソルは首を横に振った。
「お金が足りません……これが一番安いやつなんですが、俺の全財産じゃ足りなくて」
「いくら足りないんだ?」
「大銅貨一枚」
ハルトは懐から大銅貨を一枚取り出して、ソルに渡す。ソルはハルトの顔を見た。
「給料から天引きしておくから。取り敢えず今はそれを使え」
ハルトはにやりと笑った。ソルはハルトに深くお辞儀をした。
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「それにしても恋か。いいねえ。若いねえ」
帰り道、ハルトは自分のことを棚に上げてソルをからかった。ソルは顔を赤くしてうつむく。
「子供は作るなよ? めんどくさいからな」
ハルトが笑いながら言うと。ソルは顔を上げる。
「か、からかわないでください!」
「悪い、悪い」
ハルトは笑いながら謝った。
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番外編
「ねえ、飲みにいかない? 三人で」
アイーシャはハルトとロアに言った。
「どうしたんだ急に?」
ハルトはアイーシャに尋ねる。
「いや、割引券もらったんだよ。居酒屋の。三枚しかないからさあ。行こうよ」
ハルトとロアは顔を見合わせた。
「まあ、たまにはウンディーヌ以外の場所で飲むのも悪くないかもな」
「そうですね。行きましょうか」
三人は居酒屋に向かった。
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「最近胸の成長が止まってるんですよ!!」
ロアは酒を飲みながら叫んだ。他の客の視線が一瞬ロアに向く。ロアはそれに気付かず、大声で話し始める。
「背の成長も止まっちゃいました。どうしてですか!」
ハルトは少し高い酒を飲みながらロアに言う。
「お前何歳だっけ?」
「14ですよ。14歳!」
「胸の成長は15歳で止まるらしいぞ。ということは後6か月くらいか……頑張れ!」
「うわあーん」
ロアはテーブルに突っ伏せる。そして酒を呷り、憎々しげにアイーシャの胸を睨んだ。
「なんで私の胸はアイーシャさんのよりも小さいんですか!!」
「いや、そんなこと言われても……というか私Dカップくらいだから超巨乳というわけでもないよ?」
「私だってCくらいだから貧乳じゃないですよ!!」
謎の張合いを始める二人。だいぶ酒が回っているらしい。
「なにか胸を大きくさせる方法は知りませんか?」
ロアはハルトに詰め寄る。
「えーと、牛乳を飲むといいらしいぞ?」
ハルトはどこかで聞いたことがある知識を披露する。
「揉まれると大きくなるらしいぞ!!」
隣の席の客がロアに声をかける。隣の客もだいぶ酔っていた。
「それは本当ですか!! ハルトさん! 揉んでください!!」
「いいね。私も揉んで!」
ロアとアイーシャはハルトに詰め寄った。周りの客がさらに大きな声を上げる。
「兄ちゃん羨ましいぞ!!」
「ここで揉まなかったら男じゃないぞ!!」
「俺にも分けろこの野郎!!」
「リア充爆発しろ!」
ハルトはため息をついた。
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「寝ちゃったね。散々騒いで」
「騒ぎの原因の半分はお前なんだけどな」
散々飲んだ後、三人は帰路に着いた。酔って寝ているロアはハルトが背負っている。
「ねえ、ハルトってさあ……」
「何だ?」
ハルトはアイーシャの方を向いた。
「私のこと嫌い?」
アイーシャはハルトに面と向かって言った。
「……まあ、嫌いじゃないよ。むしろ好きの方だ」
ハルトは答える。
「じゃあなんで私を愛人にしてくれないのかな?」
アイーシャはハルトの顔を覗き込みながら聞いた。
「ロアに悪いからな」
ハルトはぼそりと言った。
「じゃあさ、ロアよりも先に私と出会っていたら私の恋人になっていてくれたかな?」
「……わからん。もしかしたらそうなってたかもしれない。そんなことないかもしれない。ただ一つ言えるのはお前を愛人には出来ないことだ」
「そう……」
二人の間に沈黙が流れる。
「まあ、いいや」
アイーシャは大きな声を上げた。ハルトは思わずアイーシャの方を向く。そこにはアイーシャの唇があった。
「んっ!」
ハルトは目を見開いた。アイーシャはハルトの頭を掴んでハルトが逃れられないようにする。
三秒後、アイーシャはハルトから唇を放した。
「私はあきらめないからね!!」
アイーシャはそう叫んで走り去っていく。
「……どうしようか」
ハルトは大きなため息をついた。
最近出番が少ないのでアイーシャ回にしました。結構シリアスなシーンだけど、酔っぱらったロアを背負いながらキスしていることを考えるとなかなかシュール。
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収入 1億6500万(高級石鹸3万個+石鹸15万個)
支出 4000万(石鹸の材料費)450万(高級石鹸の材料費)5万(牛乳石鹸3000個分の牛乳)3000万(新工場)50万(壁)1億8000万(家)1億1500万(電気分解装置)500万(奴隷維持費)400万(2級市民)700万(馬車)90万(傭兵)45万(従業員)495万(売上税)1650万(所得税)合計……4億885万
売上-支出=-2億4385万
負債 3億(年利10%)
残金 2億839万
実質残金 -9161万
奴隷 160
従業員
会計担当兼奴隷取締役 ロア・サマラス
会計輔佐 デニス
現場指揮 アッシュ兄弟(姉妹)
傭兵 ラスク&プリン ラング・タルト




