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異世界商売記  作者: 桜木桜
第三章 拡大編 第二部
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第25話 商売敵

 「それでサマラス商会はどこに店を出すんですか?」

 ロアは不安そうにハルトに聞いた。

 「この店の前だよ。舐めたことしてくれる」

 ハルトは不快そうに顔を歪める。こっちを挑発しているのは明らかだった。


 「ところでエル・スミスって奴はどんな奴だ?」

 ハルトがそう聞くと、ロアは困ったような顔をする。

 「すみません。私も知らない人です。あの時はまだ5歳でしたから」

 二人の間を沈黙が支配する。その沈黙を破る空気の読めない声が響いた。


 「はいはい!!質問です!サマラス商会って何?」

 ハルトとロアは顔を見合わせて笑った。アイーシャは不思議そうな顔をする。


 「え?なんで笑うの?」

 「いや、こっちの話だよ。サマラス商会ってのは泡の実を売っている商会だよ。値段が安く、質のいいのを売っている」

 ハルトに続いてロアが言う。


 「ちなみに私はサマラス商会の跡取り娘でした。いろいろあってこんなんですが」

 ロアが笑いながら言う。アイーシャは顔を引きつらせた。


 「それは……複雑な事情がありそうだね。深くは聞かないことにするよ。でも何があっても私はロアの味方だからね。友達だから」

 「アイーシャさん……」

 ロアはうるうるした瞳をアイーシャに向ける。


 「だからハルトも共有しない?」

 「なんでそうなるんですか!!」

 ロアはアイーシャを睨み付ける。アイーシャは楽しそうに笑った。


 「感動して損しました……」

 ロアはそう呟いてからハルトの方を向いた。


 「サマラス商会で売っている泡の実は普通の泡の実よりも数段品質が良いです。ですがそれは我々にとって脅威ではありません。問題は値段です」

 「確か泡の実と価格は3万ドラリアだったか?」

 ロアはハルトの言葉に頷く。


 「ですがサマラス商会の泡の実の値段は1万ドラリアです。泡の実の値段がここまで下がったのは私が逃げた後ですから、どうしてこんなに安い値段で売れるかは知りませんが」

 ハルトの石鹸を買っているのは下流層の上位と上流層の下位までだ。1万という値段は上流層の下位なら十分に買える。一部の客を奪われる可能性があった。


 「とはいえ一部の客です。今すぐに影響はないと思います」

 ロアはすました顔でそう言った。ハルトはロアを抱きしめた。


 

 「え!?何ですか?」

 ロアは困惑した表情を浮かべる。ハルトはロアを抱きしめたまま言った。


 「安心しろ。俺がお前を守る。サマラス商会は俺が必ず潰すさ」

 ロアはハルトの言葉に体を少し震わせた。そしてハルトの胸に顔を埋める。


 「本当はすごく怖いんです……生きているのがばれたら殺されるかもと思うと……」

 「大丈夫だよ。大丈夫」

 ハルトはロアの頭を撫でる。しばらくしてアイーシャが咳払いをした。


 「感動シーン悪いんだけどさ。そろそろ話を戻さない?」

 ロアはアイーシャの声を聴いてハルトの胸から顔を上げた。顔は真っ赤だ。


 「そ、そうですね。えーと、どこまで話しましたっけ?」

 「今すぐ影響はないっというところまでだ」

 ハルトがそう言うと、ロアは続きを話す。


「そうです。我々アスマ商会の客層とサマラス商会の客層はそんなに被っていません。ですから共存は可能です」

 ロアは少し戸惑いながらそう言った。ハルトは眉を吊り上げる。


 「共存はない。お前の両親を殺した奴だからな。それにあのエル・スミスって奴。俺を若いからって見下した目で見ていたような気がする。気に入らない。サマラス商会は潰す。これは確定事項だ」

 ハルトがそう言うと、ロアは目を見開く。そしてハルトに抱き付いた。

 「さすがハルトさん!!」

 ロアが抱き付いたのを見て、アイーシャが便乗した。


 「私獰猛な雄は好きだよ!!敵は食い殺してこそ男!!素敵!!」

 二人に抱き付かれ、ハルトは倒れこんだ。


 「おい、お前ら放せ。当たってるから!!ロア、そこはポジションが……痛!!アイーシャ、締め上げるな、死ぬ。死ぬから!!」

 そう叫ぶハルトの顔は笑っていた。


_____


 次の日の朝、ハルトとロアはユージェックを尋ねた。

 「お!アスマか。どうした?気が変わったのか」

 ユージェックは飲んでいた紅茶を置いてハルトに言った。

「ああ。1億ドラリア、貸して欲しくてね。残りの1000万はお前から借りた1億で返す」

 ハルトがそう言うと、ユージェックは借用書を懐から取り出す。いつも持ち歩いているのだろうか?


 「利子は20%でいい」(最初は高く設定するか)

 「ぼり過ぎだろ。5%だ」

 「いや、さすがに安すぎる。15%」(5%はないな。こいつ一回俺を騙したし)

 「7%だ。利子が1500万は高い!」

 「10%はどうだ。これ以上は無理だぞ?」(この辺が落としどころだろう)

 「分かった。10%だな」

 

 ハルトが借用書にサインしようとすると、ユージェックはとっさにそれを取り上げる。ユージェックはにやりと笑った。


 「気が変わった理由を教えてくれ。教えてくれないなら15%だ」

 ハルトはイラッとしたが、堪えて理由を話す。


 「お前なら知ってるだろう。サマラス商会だ。それに対抗するためには金が必要だ。これでいいか」

 ハルトがそう言うと、ユージェックは目を細めた。


 「嘘だろ。お前のとことサマラス商会じゃあ客層が違う。対抗する必要がない。サマラス商会を追い出してやろうっていうなら別だけどな。お前は慎重な奴だ。実際お前は俺の1億の融資を一回断った。どうしてサマラス商会を潰そうと考えたのか、それを聞きたい。教えてもらえないか、ロア・サマラス(・・・・)嬢」

 ユージェックは悪そうな笑みを浮かべた。


_____


 「意地が悪い奴だな。気づいていたなら最初からそう言え」

 ハルトは隠しても無駄だと考え、そう言った。


 「少し驚かせてやろうと思ったんだが……あまり受けが良くないな」(せっかく溜めたんだがな……)

 ユージェックは少し不満そうに言う。ハルトは鼻を鳴らした。


 「驚いたぞ。でもお前がロアについて知っていてもおかしくはないさ。お前は王国の貴族にも金を貸すほどの大商人だ。帝国の皇室にも奴隷関係でつながりがあると聞く。そんなお前がサマラス商会について調べていないわけがない。借金関係で直接的な関係があってもおかしくないしな」

 

 サマラス商会は会長とその妻の死亡、そして娘の行くへ不明という大事件を起こしている。嫌でも耳に入るだろう。普通の商人ならレ―ナードの陰謀ではないかと勘ぐるはずだ。そもそもサマラス商会は莫大な借金をしていた。クラリスのみならず都市国家連合全体でも有名なユージェックがそれに関わっていないと考える方がおかしい。


 「なるほど。確かにな。ああ、お前の推理は正しいよ。俺はロア嬢、君の親父に金を貸していた。何度も土下座されたね。君の母親ともあったことがある。というか君を抱き上げたこともあるんだけどね。結婚式にも呼ばれたよ」

 ユージェックは楽しそうに言う。これに驚くのはロアだ。

 

 「私そんな記憶ないんですが……というかあなた私を娼館に売ろうとしましたよね?」

 ロアは不審な目でユージェックを見つめた。ユージェックは笑って返す。


 「そりゃあ、君は当時0歳だったからね。覚えてないのは当然だ。売ろうとしたのは……まあ、あれだ。その時は気付かなかった。決して俺に人の情がなかった訳ではない。そこは勘違いしないでくれ」

 ユージェックが気付かなかったのは無理はない。0歳の時と12歳ではまったく似ていないだろう。当時のロアは痩せて、汚い恰好をしていた。とても大商会の元令嬢だとは思うまい。そもそも死んだと思われていたのだから。


 「じゃあ、いったいロアにいつ気づいたんだ?」 

 ハルトの言葉にユージェックは答えた。


 「パーティーの時だ。そう言えばあんな髪の女がいたような……って思ったんだ。そしたらロア・サマラス(・・・・)なんて名乗るからな。それでヘレン・サマラスを思い出した。よく見るとリヴァス・サマラスにもよく似ている。それで間違いないと思ったわけだ」

 ユージェックは得意げに言う。


 「でもあなたは私を売るときに私の名前を見ましたよね?どうしてその時に気付かなかったんですか?」

 「俺は奴隷の名前は意識しないようにしてるんだ。思い出すと目覚めが悪いからな。それにあの時の君の髪は赤というより茶色だったろ。臭かったから早く記憶から消去したかった」

 ユージェックはそういい放つ。ロアはショックを受けた顔をした。ユージェックはさらに続ける。


 「大体な、あの時俺はアスマに直接売っただろう?あの時俺が機転を利かせなければ君はおっさん相手に尻を振っていたんだぞ。感謝しろ」

 ずうずうしい男だ。これくらいずうずうしくないと金貸し兼奴隷商人はできないということだろうか?


 「大体分かっただろ。俺がサマラス商会を追い出したい理由が。金を貸せ」

 ハルトが言うとユージェックは借用書を渡した。ハルトは借用書に名前を書き込む。


 「さて、これで契約は成立したわけだが……勝算はあるのか?」

 「ああ。要するに泡の実よりも質のいい石鹸を作ればいいわけだ。金と設備があれば何とかなる。心配しているのか?」

 ハルトがそう聞くと、ユージェックは紅茶を一口飲んでから言う。


 「まあな。俺も人の子だ。悲劇のヒロインには同情したくなる。それが知り合いの娘だと尚更だ。それにリヴァスはしっかりと金を返してくれたからな。逆にレイナードの奴は借金を兄に押し付けて逃げた挙句、返済が終わったらのこのこ帰ってくるような奴だ。気に食わん。お前があいつを潰してくれるなら俺もスカッとするからな。多少は協力してやろう」

 ユージェックはそう言って手を差し出してきた。ハルトはその手を握る。


 「じゃあよろしく頼む」

 「ああ、金はしっかり返せよ」


 ハルトとロアはユージェックの元を去った。


____


 「っというわけでサマラス商会とは完全に敵対することになった。もしかしたら妨害があるかもしれない。警備はよろしく頼むよ」

 ハルトはラスクとプリン、アイーシャに言った。


 「了解だ。子供たちは俺が守る」

 「お金を払ってくれるならなんだってやるのが傭兵。特に変わらないよー」

 「まあ、砂漠の民の私がいる時点で妨害なんてあるか分からないけどね」

 3人は口ぐちに言った。


 「ところでさー。勝算あるの?私たちも1年に一回くらいの贅沢で泡の実を使ったりするけどさー。あれはすごいよー。あれよりも良いのなんて作れるの?」

 「そうだ。それに1億は大金だ。俺らが一生働いてもそんな額は貯まらない。返済の見込みはあるのか?」

 プリンとラスクは心配そうにハルトに言った。ハルトはそれに答える。


 「返済の見込みはあるよ。泡の実よりもいい石鹸を作る自信もある」

 「具体的にどうするんですか?」

 ロアも心配そうだ。1億は大金、いくらハルトを信じているとはいえ不安になるのは当然だ。


 「まず高級石鹸を作る。1つは砂漠の民から届くココナッツオイルとブランチから買うパーム油にひまし油、オリーブオイルを混ぜた石鹸だ。これはオリーブ単体よりもずっと性能が良いはずだ。あといくつか石鹸を考えている」

 ハルトはさらに続ける。

 

 「次に洗濯や皿洗いに使うような安い石鹸を作る。これならさらに下流層の客も増えるし、いままで二の足を踏んでいた料理屋からの注文が増えるはずだ」

 「安い石鹸?何を材料にするの?」

 アイーシャは首をかしげた。ハルトはアイーシャの質問に答える。


 「ラードとヘットだ。要するに豚や牛の油だな。食用に向かないからかなりの量が余る。正直ゴミだ。このゴミを使う。ただ同然で手に入るだろう。べつに動物の油で作る石鹸が悪いわけじゃないぞ。ただ動物の油は臭いからな。それにイメージが悪い。だから今まで使わなかったんだ。でも洗濯用や貧乏人相手なら売れるだろう」

 ハルトの言葉にラスク、プリン、アイーシャは納得したように頷く。一方ロアは不安そうだ。


 「でもオリーブを使った石鹸はそのまま製造するんですよね?どうやってそんなに生産するんですか?奴隷はこれ以上増やせませんよ」

 ロアの言うことは尤もだ。いくら材料があり、技術があっても人がいなくては意味がない。子供の奴隷では間に合わないだろう。

 

 「それについてだが……2級市民を雇おうと思う」

 ロアは目を見開いた。2級市民は税金を払うこともできないほど貧しく、それゆえに犯罪者予備軍でもある。その数は多く、5万は越すとも言われている。彼らは安い賃金でも文句なく働く。


 「でもそれだと情報が……」

 「止むを得ないな。まあ、一朝一夕で真似できるようなものではない。重要なアルカリの生産は奴隷にやらせるつもりだしな。それに模造品ができるのも時間の問題だろう。ならとっととブランド力を高めてしまった方がいいかもしれない」

 ハルトも石鹸の知識の流出は避けたい。石鹸の知識はハルトの唯一の武器だからだ。とはいえサマラス商会に目を付けられた時点で流失は避けられないだろう。ロアの両親を殺した連中だ。奴隷を誘拐して情報を聞きだすということは十分にありえる。なら積極的に人を集めた方が安全だ。ハルトはそう判断したのだ。


 「そうまで考えているなら私には文句はないです。私も何が正しいか分かりませんから」

 ロアはそう言って引いた。納得してくれたようだ。


 ハルトは立ち上がった。


 「さて、忙しくなりそうだ。平和な時間は少しだったな。飲みに行かないか?この機会を逃したらもう機会がなさそうだ」

 ハルトはにやりと笑った。


 「いいぞ。行こう」

 「さんせーい。いま帝国産のワインが安いんだよねー」

 「いいね!!1億借金記念だ!!」

 「そうですね。先のことを考えても仕方ないですし。飲みましょう!!」


 こうして5人は飲み明かした。


エル・スミスについてはハルトの逆恨みです。

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