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異世界商売記  作者: 桜木桜
第一章 立志編
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第1話 転移

 「ここはいったいどこだ?」

 少年は辺りを見回すも、周りは木、木、木だ。それもそのはず、ここは山の中だからだ。だが少年は山に入った記憶はない。

 

「ほんとにどこだよここは……」

 

少年の問いに答える者は誰もいない。

 この少年の名前は遊馬陽斗という。複雑な理由で明日から一人暮らしだったことと、キレイ好きで石鹸作りが趣味であることを除けば極普通の高校生だ。ちなみに年は15。

 

「まずは状況を整理しよう。俺は明日からの一人暮らしに必要な物を買うためにショッピングモールで買い物をしていたはずだ。無事に買い物を終えて店から出ようとして……山の中。だめだ意味わからん」

 

ハルトは頭を抱える。もしかしたら夢じゃないかと思い頬をつねるが、非情にも痛みが現実であることをハルトに伝えた。

 

「とりあえず山を下ってみよう。人がいるかもしれない」

 ハルトは下山を始めた。

 

 しばらく山を下っていくと急に視界が開ける。目の前には大きな壁があった。城壁というやつだ。 

 「良かった。ひとまずこれであんしんん?」

 ハルトの目に信じられない物が映る。竜だ。竜がいた。正確には竜が荷台を牽いていた。

 「もしかして異世界トリップってやつか?」

 ハルトは自身に起こっている現象をそう結論づけた。

______


 「それで、入国の理由は?」

 「えーそうですね。観光です」

 「なるほど。観光ですか。お名前は?」

 「遊……いやハルト・アスマです」

 

ハルトは入国審査を受けていた。山の中よりは城壁の中の方が安全だと思ったからだ。

 「では、これが入国許可証です。紛失しても再発行は不可能ですのでくれぐれも。3か月以上滞在する場合は10万ドラリア、税金として徴収させていただきますのでご注意ください」

 

ハルトはミミズがのたうち回ったような字が書かれている板を受け取る。言葉は通じるのに文字は分からないようだ。ハルトは板をにらみつけた。


 門をくぐると、そこは完全に異世界だった。露店が立ち並び、変わった服装をした人々が歩いている。この国ではハルトの恰好のほうが変わっているだろうが。

 「さて、入国はできたし、次は金だな」

 ハルトはショッピングモールで買ったものを売るために歩き始めた。

_______


 「うーん、これは高く売れたってことかな?」

 

ショッピングモールで買ったフライパンや食器、ノートなどをすべて売却して金貨3枚と銀貨9枚そして大きめの銅貨9枚に小さめの銅貨8枚。大金であることは間違いないが、使い続けていればあっという間に失くなってしまいそうな金額だ。

 

「ていうか俺この世界の貨幣価値知らないしな。次は情報が必要だな…。ていうかここどこだ?」

 

辺りを見回すと、見慣れない裏道…いや見慣れないのは当然だが。まったく人気がなく、周囲には生ごみが散乱している。

 「汚いな、ここ。早く表に出ないとな。絡まれたら嫌だし」

 財布に入れた金を意識するハルト。とりあえず左手の法則なんてものがあったなと思い、左にすすもうとすると、

 

「お兄さん。そっちはスラム街です。身ぐるみ剥がされちゃいますよ」

 声がする方を向くと、赤毛の綺麗な顔立ちをした小汚い少女が立っていた。

 

「教えてくれてどうもありがとう。でもこの程度じゃチップはやらんぞ」

 「まだ何も言ってないじゃないですか。私はロア・サマラスって言います。お兄さんの名前は? 見慣れない服装ですけどどこから来ました?」

 

ロアと名乗った少女は言った。名乗られたからにはこちらも名乗り返さないと失礼だろう思い、ハルトも名乗る。

 「俺の名前はハルト・アスマだ。東の方から来た」

 ハルトは取り敢えずお決まりの出身地を答える。

 「東ですか……、つまり大山脈と大森林、大砂漠を越えて来たってことですか。それはずいぶんと遠くからですね」

 固有名詞が出てきて少し焦るハルト。慌てて話題を転換する。

 

「そんなことより、宿を探しているんだ。道案内してくれないかな」

 「いいですよ。でもタダというわけには……」

 チップをせびるロア。ハルトは少し顔をしかめたが、必要経費だと思いとりあえず銅貨を4枚手渡す。

 

「ふふ、ありがとうございます。ではハルトさん、希望はありますか」

 「できるだけきれいなところがいいが、資金に限りがあるからな。安いところがいい」

 ハルトは潔癖症だ。少なくともゴキブリやノミがわくような宿には泊まりたくない。

 

「わかりました。では『シルフー亭』にしましょう。あそこなら一泊2000ドラリアくらいですから」

 ロアは銅貨4枚を大切そうにポケットに入れて歩き出す。

 

「すまないが、貨幣価値について教えてくれないか。確認したいんだ」

 ハルトは『ドラリア』という単語を聞いて尋ねる。

 「いいですよ。銅貨1枚です」

 笑いながら手を出すロア。ハルトは苦々しい顔で銅貨を1枚手渡した。


___________


 この町の名前は『クラリス』といい、『都市国家連合』を構成する都市国家のうちの1つだ。クラリスの東側には大山脈、その向こう側には大森林が広がっている。大森林を抜けると大砂漠があり、大砂漠を越えた先には東方国家が存在する。北には『王国』と接している。王国とはもちろん、東方国家とも細々とだが交易があり、クラリスは都市国家連合では5本の指に入る規模だ。都市国家連合は『ドラリア』という共通の通貨を発行しており、金貨で10万ドラリア、銀貨で1万、大銅貨1000、銅貨100、銭貨1という貨幣制度になっている。ただし、最近では銀札や金札なども存在する。


 「まったく、えらい出費だ」

 ハルトは持っていた最後の銅貨をロアに手渡す。

 「それはハルトさんが無知だから悪いんですよ」

 生意気なことを言うロア。

 

「それにしても物乞いのくせに金貨の貨幣価値や地理なんて知ってるんだな」

 「ええまあ、私は別に最初から物乞いだったわけではないですから」

 少し寂しそうな顔をする。無神経なことを聞いてしまったと反省するハルト。謝ろうとするとロアは赤い屋根が目立つ建物を指さす。

 

「あそこに見えるのがシルフー亭です。では私はこれで失礼しますね」

 ちょこんと礼をするロア。

 「ああ、どうもありがと」

 「いえいえ、私も儲けさせていただきましたから。何か用があったら私と会った裏道まで来たください。私は大体そこにいますから」

 そういって去っていくロア。

 

「結構感じのいい子だったなあ」

 ハルトはそうつぶやいてから、シルフー亭に向かった。


_______________


 シルフー亭に近づいてみるとなかなか大きいことが分かった。外見もなかなかおしゃれだ。ハルトは少し緊張しながら中に入る。中も外と同じようにおしゃれで、床や天井に汚れがないのはなかなか好印象だった。

 

「いらっしゃい、お客様。何泊だい?」

 声のした方に顔を向けると、そこには大柄な女性がいた。おそらく女将だろう。

 「こんにちは。1週間ほど泊まりたいんですが、いくらですか?」

 とりあえずこの世界について調べるためには時間と拠点が必要だ。3日やそこらで調べられるものではないが、1か月も予約するのは金銭的にも怖い。1週間が丁度いいだろう。

 

「1週間だね、1万ドラリアいただくよ。」

 一万ドラリア、つまり銀貨1枚だ。ハルトは銀貨を手渡す。

 「1万ドラリア、確かにお預かりしたよ。この板に名前を書いてくれるかい?」

 ハルトは板に名前を書こうとして気づく。自分はこの世界の文字について知らない。

 

「すみません、俺は遠方から来たもので……。この国の文字は書けないんです」

 そういうと女将は申し訳なさそうな顔をして言う。

 「あ、ごめんよ。たしかにあんたこの辺じゃ見ない顔だね。こちらの配慮が足りなかったよ。代筆するから名前を教えてもらえるかい?」

 ハルトが自分の名前を言うと、女将はすらすらと見慣れない文字を板に書いていく。書かれた字を見ると、妙に頭に入ってくる。自分の名前だからだろうか。

 

「これがカギだよ。部屋は二階の一番奥だから、好きに使っておくれ。何か質問があったらいつでも聞いていいよ」

 ハルトは女将に礼を言って、部屋に向かう。部屋には簡素なベッドと机とイス、そしてタンスがあった。ベッドを見ると急に眠気が出てくる。そういえば今まで歩きっぱなしだったことを思い出す。ハルトはそのままベッドに倒れこんだ。


 1ドラリア1円くらいだと思ってください。

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