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異世界商売記  作者: 桜木桜
第二章 起業編
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第11話 告白

「ハルトさん、起きてください」

 もはや聞きなれた声を聞いて、ハルトは目を覚ました。どうせ目の前には下着姿のロアがいるんだろうと思い、少し期待しながら目を開ける。


 「おはよう、ってその恰好は!!!」

 ハルトは異世界に来てから最大の声を上げる。ロアは下着姿ではなかった。その姿は……

 「メイド服だと……」


 その姿はまぎれもなくメイドだった。赤を基調としていて、赤毛のロアにマッチしていた。


 「ほら、ハルトさんは下着が好きって言いましたけど、正直それだけじゃつまらないと思ってたんです。下着だけじゃマンネリ化しちゃいますし。だからハルトさんにもらった貰った銀貨で……ハルトさん?」

 ロアのメイド姿を見て呆然としていたハルトは、ロアの声で我に返った。実はハルトはいわゆるメイドが大好きだ。具体的に言えば石鹸の次くらいに。そんなメイド好きのハルトにロアのメイド姿は効果覿面だった。

 

 「いいな」

 「え?」

 「いいぞ! 似合ってる。お前の可愛さが10倍くらいになって見える。惚れ直したぞ。これからはそれを着ろ。いや、むしろメイド服以外着るな」

  ハルトは興奮して捲し立てた。あまりの豹変にロアは少し驚く。


 「そんなに良かったですか?それは良かったです。っていうか今惚れ直したって言いました?」

 しまったと顔をするハルト。思わず重要なことを口走ってしまった。ハルトはできるだけ平静を装う。


 「言ったぞ。むしろ当たり前だろ。好きでもない奴を大金出して助けるか?好きでもない奴と一緒に寝るか?好きでもない奴と同居するか? いやしない。会った時から少しかわいいなくらい思ってたんだよ。買ったときも少しも下心がなかったかと言われたら否定できない。むしろ当然だ。今まで適当に受け流してたのはあれだ、照れ隠しってやつだ。当たり前だろ。気になってる女の子がやたらとアピールしてくるんだぞ。つい俺はお前なんか気にしてない風を装っても仕方ないだろ。あと俺がお前みたいな貧相な体の奴よりグラマーな女が好きってのは嘘だ。あ、でも貧乳が好きって言う訳じゃないぞ。胸は大きいに越したことないからな。これはあれだ、お前が夜のご奉仕とか言いだしたから慌てたんだ。俺は別に体型に関するこだわりはない。それにほら、お前とはちょっと境遇が似てるだろ。それで親近感がわいたっていうのもあるぞ。あと俺赤好きなんだよ。赤っていいよな。うん。それにお前の身長低いけど、俺は低い身長の子が好きなんだよ。最低でも20㎝差が欲しいね。お前今何㎝?大体145くらいだよな。俺は170ぴったりだ。調度いいな。分かったか? いや分かれ!!」


 「……」

 「……」

 微妙な沈黙が続く。二人とも顔が真っ赤だ。

 

 「ハルトさん」

 「何だ」

 「ハルトさんって慌てると饒舌になるんですね」

 「うるさい!」

 ロアは顔を赤くしたまま笑う。

 

 「私もハルトさんのこと好きですよ。会った時から少し気になってました。助けてもらった時にぐらっときて、ハルトさんの過去を聞いて完全に惚れました。良かったです。私てっきり女として見られてないかと」

 

 ロアの告白を聞いて、ハルトはさらに顔を赤くした。

 「そうか、いやまあ、お前が子供なのは本当だからな。惚れたのは本当だがお前の色香にやられたわけじゃない」

 

 少し落ち着いてハルトが答えると、ロアはメイド服を脱ぎ始めた。

 

 「な、何脱いでんだ?」

 「このままだと興奮したハルトさんに襲われそうなんで。ハルトさんが落ち着くまで普通の服を着ることにしました。ハルトさんは顔を洗ってきてください」

 

 そういわれて、ハルトは自分が妙な勘違いをしていたことに気付く。話の流れから、ハルトが勘違いしても仕方がないが。


 「そうだな。いい判断だ。俺は顔を洗ってこよう」

 ハルトはそういって、部屋を飛び出した。


____


 「落ち着きました?」

 「ああ、すまんな。取り乱した」


 顔を洗い、ハルトは冷静を取り戻した。ロアはメイド服を脱いで普通の服装だ。メイド服を脱いだロアを、ハルトは少し残念そうな目で見つめる。


 「もう一回着ないのか?」

 「じゃあ荷物を片付けて、家具をセットしたら着ることにします。汚れたら嫌なので。」

 普通は汚れないためにメイド服を着るのではないかと、ハルトは思ったが、着てくれるならいいかと気にしないことにする。


 「早く荷物をまとめよう」

 ハルトとロアは荷物の整理に取り掛かる。とはいえもともと大した物は持っていない。小さい金庫と石鹸、衣服くらいだろう。


 ちょっとした荷物もって階段を降りると、下にはハンナ・マルソー・マリアが待ち構えていた。

 「引っ越し、手伝ってやるよ。人では多い方がいいだろ」

 悪そうな目つきでマルソーは言った。

 「こうして知り合ったのも何かの縁だしね」

 人の好さそうな顔でハンナは言った。

 「ロアお姉ちゃん、勉強教えて!!」

 何か一人だけ違う。


 突然のことで、ハルトは一瞬戸惑う。こんなに好感度が上がっていたのかと。今思えば食事の時や、すれ違うたびに世間話をしていたことを思い出す。ロアがどういうわけかマリアと仲良くなったのも好感度アップの理由だろう。


 「いいんですか?」

 「当たり前じゃないか。というかあたしたちに声をかけないなって水臭いじゃないか」

 ハルトはお言葉に甘えて手伝ってもらうことにする。


____


 「ん?ここは以前脱税で捕まった奴の店だよな。たしかユージェック・マルサスの物になったて聞いたが……まさかお前達、マルサスから借りたのか?」

 ハルトとロアの新居を見たマルソーは、顔をしかめた。

 「ええ、そうです。何か問題が?」

 ハルトが答えると、ハンナが心配そうな顔をする。

 「あんた達、マルサスに騙されてないでしょうね?」

 「契約書もありますし大丈夫だと思いますけど……」

 

 確かにユージェックは胡散臭いし、情け容赦がない。ハルトもまったく疑わなかったというのは嘘になる。


 「まあ、あいつは犯罪だけは犯さないからな。契約書があるなら大丈夫だろ。」

 マルソーが言った。『だけは』なんて言われるとはユージェックは日ごろから何をしているのだろうか。


 

 仕切りなおして、家具を運び出す。家具屋から新居までの距離は短いので作業は順調に進む。しかし、問題が一つ。


 「ロア……もういいからマリアと遊んで来い」

 「ぐぬぬぬ」

 ロアが想定していたより非力だった。本人も自覚しているのか、あっさりと引き下がる。


 ロアが抜けたとはいえ、家具がもともと少ないので作業は午前中に終わる。


 「よし!終わった。ちょっと早いけど飯にしよう。奢るぞ」

 マルソーが言った。ハルトは申し訳ないと思いながら断る。

 「すみません。実は後で出かける用事がありまして……俺は昼食を抜くことにしたんです。」

 マルソーは訳が分からないという顔をする。出かけるから飯を抜くという意味が分からないのだろう。


 「ハルトさんは車酔いが激しいんです。食べてもすぐにリバースしちゃいますから……」

 ロアが補足説明すると、マルソーは同情した顔をする。


 「そいつは大変だな。ロアちゃんは大丈夫か?君だけでも食べていってくれ」

 「はい、喜んで。マルソーさんのご飯は美味しいですから」

 ニコリと笑って、ロアは答えた。マルソーは機嫌を良くする。


 「俺は先にユージェックのところへ行ってくるよ。ここで待ち合わせしよう。」

 ハルトとロアは一時別れた。


_____


 「だから竜車を貸してくれないか?」

 「いきなりだな、おい」

 足を組んでユージェックは言った。


 「使用料を払うなら別に問題ないぞ」

 「ただで貸してくれよ。俺とお前との仲だろ」

 「お前といつからそんなに親しくなったけ?」

 馴れ馴れしい態度のハルトに、ユージェックは困惑する。


 「お前ケチだな。そんなんだから評判悪いんだぞ。いくら払えばいい?」

 「2万払え」


 正直ハルトには2万が高いかどうか分からない。ただ昨日大金を払ったばかりなので、2万くらいでは出し渋りはしない。ハルトはユージェックに銀貨を2枚手渡す。


 「どこに行って何をする予定なんだ?」

 ハルトはユージェックに事情を話す。するとユージェックはにやりと笑う。

 「そうか、海藻ね……。じゃあアケ村に行け。あそこは2年前、嵐で何隻も船をやられたばかりでな。俺が船を買うための金を貸してやったんだ。ところが最近不漁続きのようでな。借金の返済が滞ってるんだ。もしお前が海藻を買ってやれば村が救われる。お前は海藻が手に入る。そして俺は儲かる。皆幸せになるわけだ。今紹介状を書いてやる」


 ハルトには漁村の当てなどなかったので、正直助かる。同時にユージェックにだいぶ借りを作ってしまっていることに気付く。これ以上借りを作らないようにしようと、ハルトは決意した。


 「ところでお前竜車運転できるか?」

 ユージェックに言われて気づく。操縦することを失念していた。出来ないことを伝えるとユージェックは笑って言った。

 

 「じゃあ、プリンを貸してやろう」


 また借りを作ってしまった。


____


 プリンに送って行くかといわれ、それを丁重に断ったハルトは歩いて待ち合わせ場所に向かう。


 「ハルトさん!」

 ロアは一足先に待ち合わせに着いていた。しっかりとメイド服を着ている。

 「竜車を借りることはできました?」

 「ああ、ついでに漁村まで紹介してもらったよ」

 ハルトはロアと一緒にまた奴隷商館まで戻る。ロアは歩きだしてすぐ、くるっとターンして、

 「どうですか?メイド服。何か要望はありますか?」


 ハルトはそのしぐさに一瞬くらっとするが、耐えて意見を言う。

 「個人的にスカートはもう少し短い方が好きだな」

 「何か食いつきが激しくなりましたね……」

 ロアはあきれ顔をする。ハルトはすまし顔だ。もはや隠すことはないと開き直っているのだろう。


 奴隷商館に着くと、竜車に乗ったプリンが手を振った。


 「おおメイドだ!!ロアちゃんだっけ?いいね。かわいいね。もしかして君の趣味?」

 ロアのメイド姿を見て興奮するプリン。ハルトが頷くと、さらにテンションが上がる。

 

 「君とは旨い酒が飲めそうだよー」

 「クラリスは何歳から酒が飲めるんだ?」

 ハルトは未成年なので、酒を飲んだことはない。ただ酒を飲んでいい年齢は国によって違う。もしかしたらクラリスは15歳以上は飲めるのではないかと思い、プリンに聞いてみる。


 「ん?別に特に年齢制限はないけど?大体みんな12、3歳ごろから飲むよ。もしかして二人とも飲んだことない?じゃあいつか一緒に飲もう!!ロアちゃんのメイド姿をつまみにしてね」

 

 びくりとロアは身震いする。すがるような目でハルトを見る。

 「そうだな。いろいろ落ち着いたら語り合おう。ついでに傭兵について教えてくれ」

 「ハルトさん……」

 ロアは絶望した表情をした。


____

 

 「う、だめかもしれない」

 「頑張ってください!!」

 竜車の中、ハルトはロアの太ももの上で苦しんでいた。動き出してから30分経っている。未だにハルトが耐えられているのは、おそらくロアがメイド服だからだろう。


 「あと20分くらいだよー」

 「く、後20分……1200秒……だめかもしれな、う!」

 「しゃべらないでください!!プリンさんもハルトさんを絶望させないでください」

 ハルトの顔面は蒼白だ。限界が近いだろう。

 「だめだ……ロア。俺はもうだめかもしれない……」

 「ハルトさん!!」

 ハルトの冷や汗をふき取り、必死に看病するロア。念のため言っておくがこれは車酔いだ。


 「漫才やってる元気あるなら大丈夫でしょう」

 プリンがそんなことを言って、スピードを速める。さらに竜車が揺れて、ハルトのうめき声が大きくなる。例え漫才のように見えても、本人たちは必死なのだ。


____

 「着いた!!」

 ハルトは竜車から転げ落ちる。顔に生気が戻ってくる。ロアもほっとした顔をする。

 「良かった。やっぱり昼食を抜いたのが大きかったですね」

 「いやー、たぶんロアちゃんのメイドパワーじゃないかな?」

 適当なことを言うプリン。

 

 一行がワイワイやっていると、青年がやってきた。ハルトは我に返って辺りを見回すと、かなりの人に見られている。


 「あんたたち、アケ村に何の用だ?」

 少し声はこわばっている。警戒されているようだ。普段見ることのない竜車から、よくわからない3人組が現れて、大騒ぎすれば警戒されるのも無理はないが。


 「これは失礼。実はこの村の人に頼みたいことがありまして。ユージェック・マルサスさんの紹介で来たんです。村長に合わせてもらえないか?」

 ハルトは人のいい笑顔を浮かべて応じる。ユージェックの名前を聞いた途端、青年は表情を変えた。


 「そうか。あの借金取りから……。村長はこっちだ」

 そういって歩き始める青年。一行は慌てて追いかける。


 ハルトは周囲の人間を観察する。街にいる人達よりも、日に焼けていて痩せている。痩せているのは不漁と借金のせいだろう。


 一行は村の中で一回り大きい建物に案内される。中には今にも死にそうな顔をした老人がいた。

 

 「爺さん、あの借金取り関係の客だとよ」

 青年は乱暴な言い方で一行を紹介する。プリンはともかく、ハルトとロアをユージェックと同類のような言い方をされ、ハルトは苦笑いをする。


 「一体なんのようじゃ?この村には今金がない。あと少し期限を延ばしてくれ」

 どうやら村長はハルトたちが借金の催促に来たと思っているらしい。ハルトはまず勘違いを正すため、口を開く。

 

 「俺たちは催促に来たんじゃない。まずはこれを読んでくれ」

 ハルトはユージェックにもらった紹介状を手渡す。村長はそれを開いて読み始める。最初は暗い目をしていた村長だが、徐々に光が目に戻っていく。


 手紙を読みを終わった村長はハルトを見つめて口を開く。


 「この手紙には、お前さんがわしらに仕事をくれると書いてあった。わしらに何をさせるつもりじゃ?」

 どうやら乗り気になってくれたらしい。というよりも、例えどんな仕事でも今は金が欲しいんだろう。借金を返さないとユージェックに奴隷にされてしまう。


 「そんなに難しいことじゃない。海藻を売って欲しいんだよ」

 「海藻?」

 ハルトの言葉に首をかしげる。海藻を食べる文化は世界的に見てもあまりない。ハルトが海藻を求める理由がまったく理解できないのだろう。


 「海藻を取ってきて、蒸し焼きにして灰に加工して樽に詰めてくれ。1樽1000ドラリアで買い取りたい」


 村長の目が見開かれる。彼らにとって海藻はゴミでしかない。それが大銅貨に化けるのだから驚くのも当たり前だろう。


 「どうしてそんなものを……いや、いい。この話受けよう。どれくらい用意すればいい?」

 受けてくれたようだ。大銅貨1枚は大したことないが、食事すら危うい彼らにとってはそれでもやる意義のある仕事なのだろう。


 「取り敢えず1週間で10樽用意して街まで運んでくれ。問題ないか?」

 「それくらいならお安い御用だ」

 ハルトと村長は握手をする。ハルトは契約書を2枚取り出した。


 「サインしてくれ。海藻以外の灰を混ぜたらすぐに分かる。お願いだからやめてくれよ。契約違反は罰金を取らせてもらう」

 ハルトが少し冗談めかして言うと、村長も笑って言い返す。

 「そんなことをするか。ちゃんとした灰を届けるよ。住所を教えてくれ」

 ハルトは村長に住所の書いた紙を渡し、契約書を1枚返してもらう。


 「今夜は泊って行かんか?」

 「いえ、先を急ぐので」

 ハルトは誘いを断り、竜車に乗って別れた。


 ハルトが誘いを断ったことを後悔したのはその5分後のことだった。

収入 0

支出 0

負債 500万

残金 383万

実質財産 -117万


その他財産

奴隷16人

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