第9話 土地
8話を読み返したら、冒頭の部分が丸々抜けていました。コピペミスです。すみません。一度8話を読み返してください。
何かおかしいところや、誤字・脱字を見かけたら報告をお願いします。
「ハルトさん、起きてください。朝ですよ」
ハルトはロアの声で目を覚まし、重い瞼を開けた。
「ああ、おはよ。って何て恰好してるんだ!」
ロアは下着だった。白いブラジャーに包まれた小さい胸がハルトのすぐ目の前で揺れる。
「昨日は不評だったので、脱いでみました。どうですか」
ロアはハルトの顔を覗き込みながら答える。顔と顔の距離は10㎝もない。赤い綺麗な瞳とハルトの目が合い、ルビーのような赤毛がハルトの鼻をかすめる。最近は体をきちんと洗うようになったので、不快な臭いはしない。
「まあ、目は覚めたけど。よく見るとお前結構あるんだな、胸」
B~Cカップといったところか。小ぶりだが、まだ12歳であることを考慮すればなかなかの大きさだ。将来性がある。
「な、なに見てるんですか!!」
ロアは顔を真っ赤にしながら胸元を隠す。
「見せてきたのはお前だろ」
ハルトは苦笑した。
ハルトはロアに降りて服を着るように指示する。ロアが服を着ている間に窓枠の汚れをチェックする。汚れは見当たらない。昨日の反省を生かして、丁寧に掃除をしたようだ。
「ハルトさん、どうでした?」
顔をほんのり赤くしながら、ロアが尋ねる。
「どうって何が?」
「私の……体です」
あまりに直球に聞かれて、ハルトは顔を赤くした。からかったりして誤魔化すのは得意だが、こういった質問に答えるのは苦手だ。
「えっと、悪くはなかったよ」
「そうですか。なら良かったです」
ロアが答えてから、しばらく微妙な空気が流れる。ハルトは耐えかねて、話題を変えた。
「確か昼にユージェックに会いに行く予定だったよな。昼まで何しようか?」
「うーん、そうですね。石鹸でも作りますか?作っておいて損はないと思います」
「そうだな。そうしよう」
ハルトは相槌を打った。
____
太陽が真上に輝く正午、ハルトとロアは奴隷商館の前に立っていた。
「ちょっと早かったですかね?」
「そうだな。でも問題ないだろ。いなかったら待てばいい」
ハルトはドアを開けると、人の泣き声や怒鳴り声が耳に入ってきた。何か揉めているらしい。
「お願いします。あと1か月、いやあと1週間待ってください。必ず返しますから」
「無理だ。いったい何か月期限を延ばしてやったと思っている?これ以上は待てん。契約通り担保を差し抑えさせてもらう」
ユージェックの低い声が響く。
「そんな、お願いします。俺はどうなってもいい!どうか娘と妻だけは!!」
「馬鹿を言うな。自分の家族を担保にしたのは貴様だろう。安心しろ。奴隷になるのは貴様も一緒だ。まったく、貴様のせいでこっちは大損害だ」
「そんな……」
男は泣き崩れる。ユージェックは部下に男を連れていくように命じる。
「おいラスク、お前は担保を差し押さえに行け。逃げられると困る」
「了解」
ラスクと呼ばれた大柄な男はユージェックに軽く会釈して、部下を引き連れてハルトとロアの横を過ぎていく。
「……」
「……」
しばらく静寂が続く。
「ハルトさん」
「何だ?」
「成功させましょう」
「ああ」
二人は決意を新たにする。
「ん?なんだお前らか。いるならそう言えよ。声かけてくれればあんな奴の戯言なんて切り上げてお前と商談したぞ」
笑いながら近寄ってくる。ハルトとロアには悪魔が笑っているようにしか見えない。
「そう固くなるなよ。娼館や炭鉱にぶち込まれるだけで死にはしないんだぜ?それに借金返してくれさえすれば酷いことはしないさ」
ハルトの後ろに隠れるロア。ハルトはユージェックの顔を見つめる。
「まあ、お前も商売だから気にはしないけどさ。もう少し奥の方でやれよ。怖いだろ。あと、あのラスクっていうやばそうな奴はだれだ?」
ユージェックは肩をすくめる。
「分かったよ。これからは気を付けよう。あと、ラスクは別にやばくないぞ。人を見た目で判断するのは良くない。あいつは俺の雇っている傭兵だ。厳つい顔をしているが、ああ見えて子供好きなんだぞ」
ラスクを擁護するユージェック。子供好きの奴に人の子供を捕まえに行かせるユージェックはかなりの鬼畜だ。
「確か土地を貸してくれるんだろ。詳細を教えてくれ」
ハルトは本題を切り出す。ユージェックは悪そうな笑みを浮かべる。
「ああ、一等地を貸してやる。3か月は無償で貸してやるよ。それ以降は使用料を払え」
ユージェックは奴隷商館の外へ出て歩き始める。ハルト達は慌てて後を追う。
大通りをしばらく進むと、ユージェックは立ち止った。
「ここだ。しばらく前に差し押さえた土地だ。立地は最高だろ」
建物は木造でできていて、なかなか大きい。確かにここは人通りが良く、商売をするなら悪くないだろう。だが逆に気になることがある。
「どうして前の店は潰れたんだ?」
ハルトが聞くとユージェックはにやりと笑う。
「前の主は脱税を含めてかなり悪事に手を染めてたんだよ。だから潰したんだ」
ユージェックには悪いが、『俺が嵌めてやったんだ』といっているようにしか聞こえない。
「まあ、ちょっと曰くつきだけど問題ないだろ。入ってみてくれ」
ハルトとロアはユージェックに勧められるままに中に入る
「汚れているけど掃除すれば何とかなりそうですね」
「そうだな。作りもしっかりとしてる」
部屋には二つ扉があった。まずは向かって左の扉を開ける。
「広いですね。でもなんか薄暗いです」
「ここは倉庫として使われていたんだ。かなりの量が入るはずだ」
ユージェックが説明する。その時ハルトの足元を何かが通った。
「うわ!」
べちゃっと嫌な音がする。恐る恐る靴をどけると黒い虫の死体が姿を現す。
「あー、やっちゃいましたね。でも洗えば大丈夫ですよ」
「……」
ハルトはショックで答える気力がないようだ。
倉庫を出て、二つ目の扉を開ける。
「ここは何に使われていたんですか?」
「ここは客間だ。奴はここで賄賂の受け渡しをしていたんだろうな」
本当に賄賂の受け渡しをしていたかどうかはともかく、客間というだけあって日当たりがいい。
「ハルトさん、取り敢えずこの部屋に引っ越しましょう。いつまでも宿というわけにはいかないでしょうから。ハルトさん!」
「そうだな……」
「虫だけでそんなにテンション下げないで下さいよ」
一通り部屋を確認したので、一旦建物から出る。
「次は工場用の土地だが、少し時間がかかる。大丈夫か?」
「……ああ、時間はたっぷりあるよ」
低いテンションで返答するハルト。ユージェックは苦笑いする。
「虫くらいでそんなに落ち込むなよ」
_____
一行は一度奴隷商館に戻ってくる。
「ちょっと待ってろ、今竜車を持ってくる」
ユージェックはそう言って一度その場から立ち去る。
「なあ、ロア。竜車って竜が引く馬車みたいなものか?」
ハルトは転移した初日を思い出す。ここが異世界だと分かったきっかけは竜だった。
「はい、そうです。ハルトさんの国では竜車はなかったんですか?」
「そもそも竜なんて創作上の生き物だったよ」
「え!そうなんですか?」
ロアは声をあげて驚く。この世界では竜はポピュラーな生き物で、生活に大きくかかわっている。
「馬車よりすごいのか?竜車って?」
「ええ、まず速度が違います。大体馬車の3倍のスピードです。積載量も馬車の3倍くらいです。ただ物凄い高いらしいですよ。竜は馬の10倍はします。食費も3倍はかかるとか。それに街中では速度制限がされていますから、街で使うメリットはあまりありません」
つまり竜車を持っているユージェックは金持ちということだ。話を聞く限りかなりの資産を持っているようだ。自分も竜車を持てるほど金持ちになりたいとハルトは思った。
「待たせたな」
ユージェックが姿を現した。ユージェックの後ろには、車を引いた竜と竜の手綱を握っている女がいた。
「この女はプリンだ。俺の雇っている傭兵の一人だ」
「ご紹介にあずかりましたプリンでーす」
ハルトはプリンと名乗った女を見る。髪はピンク色、背は平均くらい、顔は美人だがどこかで見たことがあるような気がする。
「こいつはラスクの妹だ」
そういわれてハルトは思い出す。口元がどことなく似ている。
「兄さんは母さん似で、あたしは父さん似なんですよー」
母親の方が顔が厳ついらしい。マリアの両親の逆バージョンといったところだろう。
「さあ、無駄話はこれくらいにして早く乗れ。大体20分で着く」
言われるままにハルトとロアは竜車に乗った。
_____
竜車が動き出してから5分、ハルトに異変が起こり始めた。
「う、酔ってきた……」
「大丈夫ですか?」
ロアが心配そうにハルトの顔を覗き込む。ハルトの顔は石鹸のように白い。
「おい、この中でぶちまけたら清掃代を払ってもらうからな。絶対に吐くな。やばくなったら窓からぶちまけろ」
ユージェックが顔をしかめながらハルトに言う。
「ああ、大丈夫だよ。今のところは……」
ハルトは少し笑って答える。その笑いにはだいぶ無理があった。
さらに5分が経過する。
「ハルトさん……横になったらどうですか?私の膝を貸してあげます。私の太ももで揺れが緩和されるかもしれないですし」
「……お言葉に甘える」
ハルトはロアの太ももに頭を乗せる。つい前まで孤児だったせいか、あまり肉はなく柔らかくはない。それでも女の子に膝枕をされるという生まれて初めての体験のおかげか、少し酔いが緩和されたような気がする。
「ハルトさん、後半分です。頑張ってください」
「あと半分もあるのか……」
ロアの声援は逆効果だったようだ。
そして10分後。
「ついた!!!」
ハルトは竜車が止まるとすぐに外へでて、深呼吸する。外の空気が気持ちいい。体に溜まった悪いものがすべて出ていく気分だ。
「それで貸してくれる土地はどこだ?」
ハルトは辺りを見回す。人がほとんどいない。おそらくクラリスの郊外なのだろう。
「ここから、あの建物までだ」
ユージェックがボロボロの建物を指さす。ここが貸してくれる土地らしい。だが本当に何もない。
「あの建物はぼろいが、基礎はしっかりとしてるからすぐに手を入れれば何とかなる。あれもセットだ。この土地は1年は無償で貸してやる」
いくら郊外とはいえ、この広さの土地はかなり高いだろう。それを1年間とはいえ無償で貸してもらえるのだ。感謝しなくてはならないだろう。
「ありがとう。正直助かるよ」
「なに、この恩は後でじっくりと返してくれればいいさ」
にやりと笑うユージェック。ハルトは同じような笑みを浮かべて互いに握手する。
「うわ……悪そうな顔」
ロアが思わず呟く。
「もういい?そろそろ出発しよーよ」
プリンが悪い笑みを浮かべる二人に声をかける。
「いや、建物もチェックしなきゃだめだろ」
ハルトはそう言って建物に向かおうとするが、
「やめとけ。ぼろいから危ないぞ。間取りが書いてある紙は持っているから大丈夫だ」
ユージェックに止められる。
「建物以外にも水とか確認しないと……」
食い下がるハルト。よほど竜車に乗りたくないのだろう。
「その資料もちゃんとある」
「ハルトさん、腹をくくってください」
「くそ……」
ロアとユージェックに急かされてしぶしぶ竜車に乗った。
____
「あとは人手が必要だよな」
奴隷商館についてそうそうユージェックは切り出した。ハルトはなんとなく嫌な予感がした。
「何か当てがあるか?」
「2級市民を雇おうと思っている。人件費が安く済みそうだ」
「いやー、それはやめた方がいいぞ」
ユージェックはにやけながら語る。
「あいつらはすぐに情報をばらす。石鹸の作り方を盗まれるぞ」
ハルトはまだあまりクラリスの身分について分かっていない。だからユージェックの言葉に反論できない。
「どうだロア?」
ハルトはロアに意見を求める。ロアは2級市民としてこのクラリスを過ごしてきたので、そういった事情にも詳しいのではないかと思ったからだ。
「確かにそうですね……。あの人たちには守秘義務の概念がありませんから。むしろそんなんだから2級市民になるわけですし」
2級市民だったロアが言うと妙に説得力がある。石鹸の製法はハルトの唯一の武器だ。もし製法を盗まれたら一大事だ。
「それで、お前は何を言いたいんだ?」
ハルトは予想を付けながらユージェックに聞く。
「うちで奴隷を買わないか?」
やはり予想通りだ。生憎ハルトはロアの一件で奴隷の値段について分かっている。奴隷を買う余裕はない。
「安心しろ。そのガキが高かったのは見た目が良かったからだ。見た目が微妙なガキは30万もしない」
石鹸作りには特別力はいらない。だから十分子供でも労働力として期待できるだろう。だがそれでも30万は高い。20人も買えば資金が尽きてしまう。
「無理だ。それでも高すぎる」
ハルトが断ると、ユージェックは笑みを深める。
「実はな、今ガキの奴隷が大量にいるんだ。正直子供は使い道がない。置いておくだけでも費用が嵩むから、買い取ってくれると助かる。一人10万でどうだ?これなら30人買っても200万残るぞ。まあお前が買わないなら炭鉱に送るだけだな。可哀想に、すぐに死んじまうんだろうな……」
ユージェックが悲しそうな顔をする。おそらく微塵も思っていないだろう。
「分かったよ……買えばいいんだろ、買えば。いいさ。確かに奴隷なら情報も漏れない。解放奴隷にすることを餌にすればよく働いてくれそうだしな。お前に恩を売るつもりで買ってやる」
奴隷を買うことでハルトにはメリットはあるが、買わないことでデメリットはほとんどない。今回困っているのはユージェックなのだ。とはいえ土地を貸してもらったり、資金を融資してもらっている身で断るわけにはいかない。
「まいどあり」
ユージェックは嬉しそうに笑った。
収入 0
支出 0
負債 500万
残金 579万
実質財産 79万