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Round one

「なーあ白いの。あれから数日も経つけど、その《追っ手》とやらは一向に襲ってこないぞ? 俺はいつまでこんな風にピリピリしてなきゃいけないんだ?」

 俺の気だるそうな発言を受けて、白いのは微笑しながら答える。

『ん、そろそろの筈だぞ……そろそろ……来る筈なんだがな……』

「おま、そう言い続けてもう五日も経過してんじゃねぇかよ。本当、やってらんねーぜ――お陰で俺は五日連続睡眠不足だってのに……」

『ふん、我々に睡眠などというものは必要ない。それは先日の《実験》とやらで理解したことだろう?』

「はーあー。俺もとんだ化け物になっちゃったよなー。どっかの竜さんのせいで」

『それは(みやび)が望んだから、というのもあるだろう』

「……うん、それはまあ、否めないよな」

 俺はそんな風に言葉を濁しつつ、今の自分の状況を改めて考える。

 現在俺は、地元の町をぶらぶらと歩き回っている。何故そんなことをしているのかと言うと、この《白いの》に対する追っ手の注意を引き、呼び寄せて戦闘に持ち込むため――だそうである。

 ……というかまず、この《白いの》について紹介をしておこう。

 白いの。

 本名、スターダスト・オブキュリオス・レナントなんとか……えーと、バチカン王国?

『スターダスト・オブキュリオス・レナントウィング・バチストキングダムだ。いい加減覚えろ』

 ……という名前らしい。

 長ったらしいので、俺は勝手に《白いの》(見た目が純白だから)と呼んでいるが、それがどうもこいつにはお気に召さないらしい。

 今は精神に住み着いていてその姿を拝むことは出来ないが、こいつは《竜》である――あの空想上の生き物である、竜。

 数日前、日本全域に大量の流星群が降り注ぐ事件……災害があった。その流星群は強烈な閃光とともに日本を破壊し、蹂躙した。

 そして、俺はその流星群の内の一つが落下する瞬間を肉眼で目撃していた――というより、俺の目の前(・ ・ ・ )に、その一つは、落下した。

 本当に、目の前に。目と鼻の先に、それは、落下した。

 地面には巨大なクレーターが出来上がり――そして、そのクレーターの上には――こいつが、いた。

 粉塵を纏い、閃光を反射し、凛々しくも綺羅綺羅と――巨大な、純白の竜がいた。

 こいつは、あろうことか俺を眼前に捉えるや否や、いきなり人語を、日本語を使って、俺にとある《契約》を持ちかけてきた――

 と、そこまで思ったところで。

『――おい、雅! 反応だ! 反応がある! 近いぞ、物凄いスピードでこちらまで接近している! 早く場所を移せ!』

「え……ええ!? き、来たのか!? マジかよ……くそっ!」

 白いのの言葉を聞いて、俺はすぐに駆け出した。

 向かう先はあらかじめ決めてあるので、道に迷うことは無い――問題は、俺が追いつかれないかどうかだ。こんな街中で追いつかれて、その場で戦闘にでもなったら洒落にすらならない――俺は力の限り全力で、目的の場所へと走る。

『おい、あの場所ならば走るより跳んだ方が(・ ・ ・ ・ ・ )早い! 足に力を入れて、跳躍しろ!』

「えっ……あんなに距離開いてんだぞ!? いくらなんでも無理だろ!?」

 ちなみに現在俺が目指している場所は、この町の名物でもある《弥生山》――小規模な山だが、秋には沢山の紅葉が色付くので、観光名所として有名である。

 今の季節は夏なので、人気は少ない――だからこそ、この場所を選んだのだが。

『大丈夫だ! 早く跳べ! お前はこの町を滅茶苦茶にしたいのか!』

「うぅ――……っ、……っ、くっそぉ!」

 足に力を全力で込めて、俺はその場から思いきり跳躍する――地面が削れる豪快な音と共に、一瞬で電柱の高さを越え、電線の高さを越え――町が地図ほどの大きさになるまでの高さまで跳躍し――俺の身体は、弥生山へと降下していく。

「おっおおおおお!? おぉぉぉぉ!? きっ、聞いてないぞこんなの! こ、こんな高く跳ぶ、跳べるなんて――」

『だから言っただろう跳べると! それに、本気を出せば恐らくもっと上空まで跳べるはずだ!』

 俺は間抜けな声を上げながら、やがて弥生山へと降下し――そして、足が地面に埋まるほどの衝撃を以って、地面に着地する。

「はぁっ、はっ、はぁああっ……! こりゃ、訓練が必要だな……」

『ぼさっとするな雅! 敵も更にスピードを上げてきているぞ!』

「くっそ、おい白いの! 敵の《能力》は何だ!?」

 今の俺の走力、跳躍力に付いてくるなど並みの能力ではない――俺は背中にうすら寒気を覚えながら、全方位に対応出来るように神経を張り巡らした。

『……恐らく《空間》に関係する能力の可能性がある。敵は一定速度を以って移動しているというより、途切れ途切れに場所を移る――ワープ、しつつ我々を追っている様な節がある』

「そ、それってテレポートじゃねえか……! いつ襲い掛かってくるか分からないってことだろ、畜生……!!」

 自分の声に少し、いや大分怯えの色が混じるのを感じた。初めての戦闘ということも相まって、緊張度はメーターを振り切っている。

 そんな俺の怯えた発言を受けて、白いのは宥めるように言う。

『ふふ……安心しろ、雅……。確かに《空間》に関する能力となれば上級、または最上級に属するものかもしれんが、我々は《超肉体強化》、《超肉体強化》だぞ! 超がつくレベルの最上危惧級能力だぞ! 反応や感応は勿論、身体能力の超大幅強化、そして《復元》能力までが備わっているのだぞ! これをして、臆する理由など何もないだろう!? 安心して戦うが良い、雅!』

「それは分かってるけどさ……。でも、《代償》の件だってあるじゃねえか……迂闊に攻撃をくらい続けてたら、あっという間に干上がっちまうだろ」

『攻撃などくらわなければいいだけの話だ。それに、《代償》はそんなガンガン減るものでは無い』

「そっ、そうなのか!? でもお前、あの時巨大な代償を伴うって……!」

『ああ、あれは緊張感を持ってもらうための誇張表現だ』

「て、てめえ! このクソドラゴン! この分じゃ身体能力だって――」

 があん、と。

 突然、乾いた音と共に、何かが俺の側頭部――こめかみ辺りに直撃した。

 強烈な衝撃。揺れる脳。続けて響く複数の乾いた音――

 視界が揺れ、俺の身体はふらふらと千鳥足で踊る。

『雅! 狙撃されているぞ! 敵の位置を割り出して反撃しろ!』

「――……っ! ああ、分かってるよ!」

 頭を軽く振って、意識を覚醒させる。そして、全神経を集中し、狙撃された方角を割り出す――そこで。

 があん、があん、があん――と再び乾いた音がした――

 が、俺はそれを目で見切って、しゃがんで回避した。

「北東らへんか……! とりあえずは、牽制――」

 地面に落ちている、人の頭程の大きさの石を手にとって、割り出した方角へ投げるべく振りかぶ――ろうとしたが、瞬間、石は乾いた音と共に、破壊されてしまった。

『敵は相当腕の良いスナイパーか何かか……? 随分と良い人材を見つけたものだな、あちら側は!』

「悪かったな、俺は普通の高校生で!」

 ともかく、一点の場所にいるのはまずい――移動しつつ反撃していかなければ、この様にいつまでもなぶり殺しにされるだけだ。

 弾丸は身体を貫いてはいないようだが、やはりその衝撃やら打撃やらは《復元》されてしまっているので、《代償》は支払われてしまっていることだろう。そうなれば後は時間の問題、いくら時間がかかろうと撃ち続けていれば敵方が勝つ。

「おい、白いの! 相手から見ると、俺の位置はバレバレなんだよな!?」

『ああ、サーチの精度はあちら側が圧倒的に高い。こちらは漠然としか相手の位置を掴めないのに対して、あちら側は的確にこちらの位置を掴んでいることだろう。それに加えて《空間》に関する何らかの能力をもっているのだ、明らかにこちらの分が悪い!』

「なんだよ! さっきまで強気で勝気だったくせに!」

『予想以上に敵方が出来るというだけの話だ! ならば慎重にいかなければならないだろう!』

 先程割り出した敵の位置情報はもう使えない。敵が空間を移動したのか、それとも空間そのものが変わったのか……とにかく、敵の位置は割り出し直しである。

 俺は再び神経を集中して、次の狙撃に備える――片手には拳程の大きさの石を握りしめ、敵の狙撃と同時にカウンターをする形で投擲する。

 しばらく走っていると、なにやら聞きなれない音が俺の耳に届いた。

 ひゅるるるる――……みたいな、そう、まるでミサイルのような――

「って、そのまんま――……っ!」

 爆音。

 俺のいた場所は根こそぎ吹き飛び、小規模なクレーターが俺を中心に出来上がる。

「あっ、はぁあ……ぐっ。はぁ、ぁあ、はああ……」

『ふん、どうやら敵は軍隊に属している人間の可能性が出てきたな。それにしても、個人であれだけの装備を所有しているとは――これも、《空間》関連の能力を用いてのことか?』

「はっ、ゆ、ゆうちょに、はぁっ、はぁっ……」

 こいつは何を悠長に分析しているんだ。ロケットランチャーをもろにくらったんだぞ。くそ、もう息がしづらくて仕様がない。身体は一瞬で《復元》したが、酸素が……。

 しかし、場所はもう割り出した。そして既に――《勝機》は爆発と共に投げつけてある。

「……――ヒットしたか? まさか、避けられた?」

『……相手にそれだけの反応速度はあるまい。亜音速程度のスピードが出るように投げたのだろう? それならば、相手が空間移動する前に当たっているはず――』

 その後しばらく様子を見てみたが、狙撃は無くなり、敵方の反応も完全に消えていた。

 なんともあっけの無い幕引きではあったが、まあ敵が生存している可能性も含めて、こんなものだろうと俺は思った。

 とりあえずは、今回の戦闘、初めての戦闘は終結した。

 確か白いのの紹介をしていた所で敵が出現したんだっけ――でも、今日はもう俺は疲れたので(こう言うと白いのは否定するだろうが、感覚的に)、紹介は後日に回させてもらう――って、俺は誰に白いののことを紹介しようとしているんだ?

 ……まあいいか。

 さて、家に帰るか。それにしても、これからこんな戦闘が続いていくと思うと、どうも嫌な気分になるな――やめちゃおっかな。

『――あのな、全て聞こえているんだぞ? 分かっているのか雅?』

「あ――……、まったく、やりづれえなあ……。プライバシーも何もあったものじゃないよな……」

『何か問題でも?』

「何でそんなことが真顔で言えるんだよ……これだから竜って奴らは……」

『お前はまだ一種類しか知らないだろう』

「うるせ! もう、オチがつかねーじゃねーかよ!」

『オチ? オチとはなんだ、雅――』

「ああもう!」

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