Prologue
《あれ》はほんの数日前のことだ。
その日の夜、俺は無性に寝付けなくて家の外で夜風を浴びていた。
辺りに人の気は無く、とても静かなものだった。
俺はなんとなく空を見上げて、夜空に瞬く星屑を眺め「わー星が綺麗だなー」とか、「今日はまた一段と輝きが強いなー」といった、今思えば暢気としかとれないことばかりを考えていた。
異変を感じ取ったのはそれから十五分くらいしてからのことで、最初は《少し引っかかる》程度の異変だったが、更に時間が経つにつれて段々とはっきりとしたものになっていった。
その異変とは、星が急に伸縮したり、形が球体からぐにゃぐにゃと変化したり、高速で移動を始めたり、といったものだった。
そして外に出てから一時間後、《あれ》は起きた。
一つの流星が夜空に流れたかと思うと、その後大量の星屑が一気に流星群となり、最初に流れた流星を追う様にして流れ始めたのだ。
やがて流星群は消えていくものと思われたが――しかし。
2次元的な動きをしていた流星群は突如動きを変え、《落ちる》様に、本当にそのまま、ぼとりと落ちるように――地上に降り注いだ。
それによって世界は一瞬、強烈な閃光によって包まれ――しばらくして目が慣れ、改めて現実を確認すると――
俺の目の前に巨大なクレーターが。そしてそのクレーターの上には、巨大な竜が鎮座していた。
大きさは一般の一戸建ての民家と同じくらいで、色は見事な純白、その巨大な体の周囲には小さな無数の七色の光がきらきらと煌いている。
俺はその時、自分の目を疑った。
だってそれはそうというものだろう、いきなり幻想の生き物であるはずの《竜》が自分の目の前に現れたのだから。
俺はわけが分からず、その場であたふたしていた――すると。
突然竜はその大きな口を開き、人語を、しかも日本語を、さも当たり前のように発し、こう言った――
「少年、私と契約を交わしてはくれまいか」




