Ep.1 しゃぶり上手のネコ娘と赤い瞳のオオカミ娘
ユニークスキル ≪ゲーマー≫は非常に有用であり、なおかつ汎用性に富んでいた。
まず ≪ゲーマー≫スキルを有するデュランの目には、世界がゲームのように映るようになっていた。
人々の背景が透視され、触れた物の価値や利用方法が丁寧に提示され、更にはスキルツリーで強化したいスキルや習得したいスキルを自由に選択できるのだ。
※スキルツリーとは覚醒可能な才能の木を表す言葉であり、利用者は従うブランチを自由に選択できる。
スキルツリーで解放した能力を巧みに活用して、デュランはたくさんの財を手に入れた。
ギルドで魔物を討伐し、時には場の『システム』を見抜いて財を騙し取るなど、あらゆる手段を駆使してとにかく稼いだ。
ここが異世界であるということで、何をしても特に罪悪感は湧かなかった。
「イージー。実にイージーだ、ククッ」
王都中心部。デュランは笑みを浮かべる。
小柄で金髪の無性別な容姿の若者。控えめながらも活発な性質を持つ男性。その声色と外見は女性とよく誤解を生むものだ。
デュランはゲーム業界の研修生として励んでいた人間だ。少なくとも表向きは。
そんなデュランには夢がある――。
デュランは奴隷商を訪ねた。
「ほお、勇者とあろう者が奴隷を求めていると……。ふむふむ、これはまた興味深い話さな」
「獣人を探している。性別は女。年齢、容姿を問わない」
「ふふ、それなら希望に応えられそうさな。こちらへ、勇者様」
魔女のような黒いドレスを身にまとった紅い髪の奴隷商は興味津々で、デュランを店の奥へと案内した。
鉄の檻に閉じ込められた奴隷が連なる通路。右も左も上も、様々な種族の奴隷が商品として売られている。
エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、巨人族、などなど。中には人間もいたが、デュランはそれらに目も向けず、ただただ奴隷商の後に続いた。
「ここから先は獣人エリアです。どうぞご自由にご覧になって」
「おお……! ケモミミ娘がこんなに……!」
デュランは目を輝かせる。夢にまで見た景色が目の前にあった。
様々な年齢、様々なタイプの獣人娘がいる。うさ耳、いぬ耳、ねこ耳、その他の複数の獣人娘が、檻の中から貧相な顔でこちらを見つめる。
見た目はほぼ人間と変わらない。種によって耳と尻尾が異なっている。
全員超かわいい! うおおおおおお全員持ち帰りたい!
一旦奴隷商から離れて奴隷を見て回るデュラン。
これは決めるのに明日になりそうだ、とそろそろ思い始めた時だ。
つんつん、と脚をつつかれた。
「ねーえ、ご主人様ぁ……♡」
「ん?」
檻の中にいる猫耳娘がなまめかしい声で呼ぶ。
彼女からは恐怖や不安といった感情が感じられない。
意味深に、妖艶に笑っていた。
蠱惑的な――子供が持ってはいけない笑みだ。
「ニーナ、ヌキヌキ上手だよ?」
こちらを見上げてそう言った猫耳娘は、ぐぽぐぽ、アレをするジェスチャーを口の前でやってみせた。
「何か披露してくれるのか?」
デュランが近づくと、ニーナは何も言わずに彼の腰へ手を伸ばした。
かちゃり、とベルトが外れる。そこには手慣れた手つきがある。自分もまた客の一人か。
「わぁ、たくましくて……美味しそ~……♡ 食べちゃう♡」
悪戯っぽい笑みを浮かべたニーナが顔を寄せ――
デュランは思わず息を呑んだ。
……数分後。
「……お前、最初からそれが狙いだったのか?」
デュランは荒い息を整えながらニーナを睨んだ。
ニーナは口元をぺろりと舐め、上目遣いで笑う。
「ニーナをここから出してくれたら、ちゃんと最後まで気持ちよくしてあげる……♡」
「なに……!? 小癪な」
どうやら、完全に一本取られたらしい。
デュランはしてやられたと拳を握りしめた。
何か手を打とうと思った瞬間、はっと察したニーナが周りに響く鳴き声を上げる。
その鳴き声につられて、一つの足音が迫ってきた。
デュランは急いでズボンをはき直し、何事もなかったかのように息を整えた。
「んん? 何かあったか?」
「この子が俺に驚いてしまったようだ」
奴隷商はデュランとニーナを交互に見る。少し間を置き、彼女は察したようにうっすら笑みを浮かべた。
「そいつは何人もの買取人を誘惑してきたメス猫さな。高い値で買わせ、主のもとからカネを盗んで逃げ、贅沢に使い果たしたらまた自分からここで売られにやってくる泥棒猫」
「そうなのか。だが、それはアンタにも得な話だろう? 俺に明かしてよかったのか?」
「勇者だからこそさな。ブラックキャットくらい、勇者様なら簡単に捕まえてしまうだろう?」
「なるほど奴隷を守るため、あえて明かしたというわけか」
こういうえっちな奴隷も悪くないが。
「こいつと違って、もっと素直で可愛げのある子はいないか?」
「ふむ、それなら……」
希望を言うと、宛があるかのように奴隷商は再びデュランを案内した。
「ここだ。最近仕入れた獣人だが、どうだ?」
奴隷商が立ち止まる。彼女の目の前には、檻の中からこちらを静かに見つめる幼女がいた。狼のタイプの獣人とはいえ、狼のような鋭い目つきのない幼気な顔だ。
もさもさ生えた白い毛と、しゅんとしょぼくれた耳。ボロボロの布切れ一枚でその貧相な体を隠していた。
望みを失って暗くなった紅い瞳。それは霞んだ宝石の紅に等しい。
「こいつに決めた」
デュランは二度考えず決めた。
「お気に召したようで何よりさな。だが、こいつは獣人の中でも特別な血を引いていてな。古代には月光族とも呼ばれていた北の国の種族なんだ。それに加えてまだ無傷。ときたら、金貨80枚は安いさな」
嬉しそうに奴隷は交渉に話を持っていく。そんな彼女の前に、デュランは金貨をパンパンに含ませた皮袋を突きつけた。
「金貨300枚だ。檻を開けて彼女の枷を外せ」
「ふはっ、300枚……! 王族の価格さな!」
「俺が育てればそれに匹敵する」
「これが勇者……期待以上!」




